GX-ETS 排出目標量と基準年をめぐる実務論点

GX-ETS(GX推進法に基づく排出量取引制度)では、排出実績量だけでなく排出目標量が確認の対象になります。この排出目標量は基準年のデータから算定されるため、基準年の扱いを誤ると排出枠そのものがずれます。実績量の側だけを整えても解決しない構造です。本記事では、株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)に寄せられた制度照会のうち、排出目標量と基準年に関する論点を整理します。照会元の企業が特定されない形に加工しています。

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目次

GX-ETS 排出目標量 要約

限定的保証としての確認の対象は、排出目標量(早期排出削減量を除く)と排出実績量の2つであり、対象判定に用いる年度平均排出量は確認の対象ではありません。基準年の3か年データも独立した確認対象ではなく、排出目標量の算定基礎として、目標量の確認のなかで妥当性が検証されます。グランドファザリング方式では基準排出量が初年度に確定し、2年度目以降は削減率の係数を乗じる構造ですが、活動量の変動や事業所の新設・廃止によって洗替えが生じる例外があります。

確認の対象はどこまでか

照会が集中したのがこの点です。制度上、登録確認機関による確認のうち限定的保証の対象は、排出目標量(早期排出削減量を除く)と排出実績量の2つです。早期排出削減量も確認の対象として列挙されていますが、こちらは合意された手続により実施され、結論の表明を伴いません。

年度平均排出量は確認の対象ではない

対象事業者の判定に用いる直近3年度の年度平均排出量は、確認の対象ではありません。判定は事務局からの指定や通知によるものではなく、各事業者が毎年度9月30日までに自ら行います。

基準年3か年は独立した確認対象ではない

基準年の3か年データについて、それ単体で第三者確認を受ける必要があるかという照会がありました。独立した確認対象としては立ちません。基準年のデータは、グランドファザリング方式における基準排出量、あるいはベンチマーク方式における基準活動量(直前3年度の平均)として排出目標量の算定基礎になるため、排出目標量の確認のなかで、基準活動量の範囲・直接排出比率・按分・設定時と算定時のバウンダリの整合といった観点から検証されます。

量的重要性5%は目標量の総量に対するもの

量的重要性の5%を、基準年の各年度それぞれに対して適用するのか、排出目標量の総量に対して適用するのかという照会がありました。制度上は排出目標量の総量に対する5%です。確認業務マニュアルにいう「それぞれ」は、排出目標量と排出実績量という2つの確認対象それぞれを指します。

粒度としては、総量に対する5%の方が分母が大きく、許容される絶対量も大きくなります。基準年の各年に5%を適用する方が細かい粒度になりますが、制度が採るのは前者です。なお規定上の表記は「5%以下」であり、5%未満ではありません。

グランドファザリング方式における基準排出量

基準排出量は初年度に確定する

グランドファザリング方式では、基準排出量を初年度に確定させ、2年度目以降は同じ基準排出量に削減率の係数を乗じる構造です。係数はエネルギー起源が経過年数に0.017を乗じた分の逓減、原材料起源および副生燃料起源が経過年数に0.003を乗じた分の逓減となります。したがって、過去3年度の平均を毎年ゼロから算出し直す必要は原則としてありません。

ここで混同されやすいのが、対象判定に用いる直近3年度との関係です。対象判定の3年度は毎年度ローリングで動きますが、これは基準排出量とは別の概念です。同じ「直近3年度」という言葉が、異なる目的で使われている点に注意が必要です。

洗替えが生じる場合がある

原則として毎年の出し直しは不要ですが、例外があります。活動量が一定の幅を超えて変動した場合、および事業所の新設・廃止や災害等が生じた場合には、基準値の洗替えや経過年数の数え直しが発生します。「初年度に決めたら以後は係数だけ」という理解のまま運用すると、これらの事象が生じた年度に対応が漏れます。

基準年のデータが誤っていた場合

目標量と実績量で相殺されるという理解は成り立たない

基準年の3か年が省エネ法やSHK制度の基準のまま算定されていて誤っていたとしても、目標量と実績量の差分で見るのだから売買には影響しない、という理解について照会がありました。この理解は成り立ちません。

基準年のデータは相殺される項ではなく、排出目標量すなわち排出枠の割当を算定するための入力です。実績量は各年度の実測されたCO2直接排出量である一方、目標量は基準年のデータから算定されます。したがって基準年が誤れば排出枠がずれ、過不足に直接影響します。両側に同じ誤差が出て打ち消し合う構造ではありません。

加えて、対象判定そのものも直近3年度の平均で行われるため、基準年が誤っていれば対象に該当するかどうかの判断自体が変わり得ます。SHK制度や省エネ法の数値をそのまま流用すると差が生じるため、GX-ETSの算定・報告マニュアルに準拠して組み直す必要があります。

GXリーグと同じ手続とは限らない

排出実績の認証はこれまでのGXリーグにおける実績提出と基本的に同じか、という照会がありました。同じではありません。第2フェーズのマニュアルで明確に定められており、従来の実務感覚のままでは取りこぼしやすい事項を挙げます。

論点第2フェーズの規定
少量排出源裾切り値は置かれていない。エネルギー起源・原材料起源は少量でも算定対象(排出量算定・報告マニュアル)
気体燃料の換算温度25℃・圧力1barの標準環境状態への換算が必要(排出量算定・報告マニュアル)
訂正報告1tCO2単位。1tCO2未満は訂正不要、1tCO2以上は確認を受けた登録確認機関へ伝達(排出量算定・報告マニュアル)
現地往査一律の義務ではなく、実施場所は確認員が決定する。ただし現地往査の時間を十分に確保することが望まれると明記(確認業務マニュアル)

いずれも確認業務の負荷と算定の網羅性に直結します。とくに裾切り値が置かれていないため、従来は重要性が低いとして扱いを簡略化していた排出源についても算定が必要になります。

モニタリングと届出で確認された論点

モニタリングパターンAでも精度把握が必要な場合がある

モニタリングのパターンAを選択した場合は計量器の精度把握が不要である、という記載を根拠に、パターンAに属する区分すべてで精度把握が不要になるかという照会がありました。

現行のマニュアルではこの整理は成り立ちません。パターンAのうち、購買量に基づく部分は精度把握が不要である一方、貯蔵施設の計量器で計測した在庫量の部分については精度把握が必要とされています。この点は改訂で追記された箇所であり、改訂前の版を前提とした理解が残っている可能性があります。特定計量器を用いている場合に精度把握が不要となる整理は維持されています。

初年度は2段階の届出になる

初年度の届出は2段階で行われます。初年度に基礎情報と年度平均排出量を届け出て、翌年度に届出量を提出する構成です。グランドファザリング方式の経過年数は初年度を1として数えます。

ここで混同されやすいのが、算定する対象年度の関係です。対象判定は前年度までの直近3年度の平均で行い、実績量の算定は当該年度の実測値で行い、目標量は基準年のデータから算定されます。3つの数値がそれぞれ異なる期間を参照するため、どの年度の話をしているのかを取り違えると議論が噛み合わなくなります。

都市ガス由来CO2の算定式

都市ガスに係る算定式について照会がありました。標準環境状態に換算した活動量に、単位発熱量と炭素排出係数を乗じ、二酸化炭素への換算係数を掛ける構成です。炭素排出係数は固定値が定められている一方、単位発熱量はガス供給事業者から提供される値を用います。

注意すべきは、GHGプロトコルにおける都市ガスの排出係数とは計算の建て方が異なるため、両者を単純に比較できないという点です。既存のコーポレートGHGの算定値と本制度の算定値が一致しないこと自体は、直ちに誤りを意味しません。

確認の対象外となる領域

最後に、確認業務の範囲外にあるにもかかわらず第三者の関与が必要になる領域について触れます。

GX関連の研究開発投資額に基づく追加割当は、勘案事項調整量として扱われ、登録確認機関による確認業務の対象外です。一方で、別の主体による確認が求められています。届出・排出目標量等算定マニュアルは、追加割当量が実務指針等に基づいていることについて、財務に関する専門的な知識を有する公認会計士もしくは監査法人、または税理士もしくは税理士法人等の第三者による合意された手続を受けなければならないと規定しています。担い手は財務の専門家であり、GHG排出量を確認する登録確認機関とは領域が異なります。この規定と具体的な手続例は2026年6月1日の改訂で追記された部分であるため、改訂前の版を前提とした理解が残っている可能性があります。

また、早期排出削減量の勘案については、グランドファザリング方式のエネルギー起源への追加割当に係数を乗じる形で扱われ、通常の確認とは別の手続によります。

GX-ETS 排出目標量 まとめ

排出目標量をめぐる論点の中心は、基準年データの位置づけです。独立した確認対象ではないため個別に確認を受ける必要はない一方、目標量の算定基礎であるため、誤れば排出枠が直接ずれます。確認を受けないことと、正確でなくてよいことは別だという整理になります。

あわせて、GXリーグからの5つの変更点、なかでも少量排出源の除外の廃止と標準環境状態換算の必須化は、従来の算定範囲をそのまま持ち込めないことを意味します。

株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、GX推進法に基づく排出量取引制度の登録確認機関として登録されています。

参考リンク

経済産業省 排出量取引制度
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html

GXリーグ公式ウェブサイト
https://gx-league.go.jp/

環境省 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度 制度概要
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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