第三者保証の現場では、算定シートと根拠帳票を突合する過程で、毎年ほぼ同じ種類の誤りが確認されます。制度や基準の解釈が難しいために生じる誤りではなく、データの受け渡しや集計の途中で構造的に生じる誤りが大半です。本記事では、株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が実施した検証・保証案件において、複数の企業で繰り返し確認された算定誤りを、Scope1・2に絞って11の類型に整理します。


Scope1・2の算定誤り 要約
繰り返し確認される誤りは、活動量データの取り方、事業所・拠点の切り分け、排出係数と単位換算、計上漏れが起きやすい排出源の4領域に集約されます。いずれも算定ロジックそのものの誤りというより、根拠帳票から算定シートへデータが移る過程で発生している点が共通しています。
活動量データの取り方で確認される誤り
活動量は排出量算定の起点です。ここに誤りがあると、排出係数が正しくても結果は誤ります。実務上もっとも指摘が集中する領域です。
誤り1 請求書と算定シートの数値が一致しない
算定シートの活動量が、根拠となる請求書の記載数値と一致しないケースが繰り返し確認されます。典型的なパターンは、請求書の数値に別の値が加算されているものです。ある案件では、燃料の月次活動量が請求書より一定額大きく、しかも小数点以下の値がどの月も同一であることから、年間の何らかの数値を12で按分して加算していることが推測されました。
背景にあるのは、算定シートのデータソースが請求書だけではないという構造です。他の集計表からの転記、社内システムの出力の併用など、複数系統が混在した結果として乖離が生じています。
誤り2 非燃焼用途の燃料が活動量に混入する
発注データベースや購買システムから燃料使用量を抽出する場合、燃焼を伴わない用途の燃料が混入します。洗浄用のガソリン、部品洗浄に使う灯油などが該当します。購買データ上は用途の区別なく「ガソリン」として計上されるため、抽出条件だけでは分離されません。
除外そのものは正しい処理ですが、除外した事実と基準が記録されていない事例が多く見られます。この場合、翌年度に同じ判断を再現することができず、年度間の比較可能性も損なわれます。
誤り3 非化石証書の分を活動量から控除している
非化石証書を購入している企業で、証書に相当する分を電力の活動量から差し引いて算定しているケースがあります。CO2排出量の計算結果としては誤りにならない場合もありますが、活動量の意味を歪める処理です。
活動量は実際のエネルギー消費量を表す数値であり、証書による調整は排出係数の側で反映されるものと整理されています。活動量の段階で控除すると、エネルギー消費の実態が数値から読み取れなくなります。省エネ法の報告値や社内のエネルギー管理データとも整合しなくなり、後年に数値を確認する際に経緯を追えなくなります。
事業所・拠点の切り分けで確認される誤り
複数の工場や拠点を持つ企業では、拠点の切り分け方に起因する誤りが発生します。集計単位と計量単位がずれている場合に特に生じやすい領域です。
誤り4 複合事業所の電力按分で共通部門が漏れる
複数の工場が一つの事業所として受電し、按分して各工場に配分している構成では、按分の対象に含まれていない部門の電力が発生します。工場A・B・Cに按分している一方で、同一敷地内の技術部門や共通管理部門の電力が按分式に入っていない、というケースです。
この場合、共通部門の電力が丸ごと漏れるか、逆に別途加算されていて二重計上になるかのいずれかが生じます。特定の拠点だけ固有のエネルギーが別途加算されている構成では、乖離が発生しやすくなります。
誤り5 事業所ごとに購買量ベースと実測ベースが混在している
同一企業内でも、事業所によって活動量の把握方法が異なることがあります。ある事業所は購買量ベース、別の事業所は実測ベース、という混在です。
どちらの方法も算定方法として認められますが、購買量ベースは在庫変動の影響を受けるため、実測ベースの拠点と単純に合算した数値は年度間の増減理由と対応しなくなります。企業として整理されないまま検証プロセスに入った場合、事業所ごとに回答の前提が揺れ、確認に時間を要することになります。
誤り6 テナントビルの都市ガスをScope1に計上している
テナントとして入居しているビルで都市ガスの請求を受けている場合に、無条件でScope1に計上している例があります。請求書の名目が「都市ガス」であっても、Scope1とは限りません。
典型的なのは、ビルの地下にある冷温水発生器で都市ガスを燃焼させ、冷温水に変換して各テナントに空調として供給する構成です。この場合、都市ガスの燃焼という直接排出はビルオーナー側で発生しており、テナントが受け取っているのは変換後の熱エネルギーです。したがってテナント側ではScope2に分類されます。大規模な商業ビルで見られる構成です。請求書の名目ではなく、実際のエネルギー変換プロセスによってScope1・2の区分が決まります。
排出係数と単位換算で確認される誤り
係数と単位は、算定シートの計算式の中に埋め込まれて見えにくくなる領域です。それだけに、一度誤ると発見が遅れます。
誤り7 GWPが未入力でメタン・N2Oの排出量がゼロになっている
都市ガスをボイラーで燃焼させる場合、CO2に加えてメタンおよび一酸化二窒素(N2O)の排出を計上する必要があります。ある案件では、排出係数は正しく入力されているにもかかわらず、地球温暖化係数(GWP)の欄が空欄になっており、CO2換算後の排出量がゼロとして計算されていました。
排出量への影響そのものは小さい項目です。ただしCO2以外のガスは絶対量が小さいため、ゼロという結果が出ていても違和感を持たれにくく、複数年度にわたって残存しやすい誤りです。
誤り8 都市ガスの基準状態を取り違えている
気体燃料の使用量は、供給時の温度・圧力条件で計量されます。排出係数は特定の基準状態を前提としているため、本来は換算が必要です。ここで実務上の混乱が起きているのは、換算し忘れそのものよりも、基準状態が制度によって異なるという点です。
コーポレートGHG(GHGプロトコル・SHK制度)の実務では、ノルマル状態(0℃・101.325kPa)を基準とする慣行が一般的です。低圧供給が中心の場合、換算係数はおおむね0.97から0.98となり、換算しないまま請求書の数値を用いると排出量は過大側に振れます。ある案件では全体の3から4%程度の差が生じていました。量的重要性の閾値に近づく水準です。
一方、GX-ETS(GX推進法に基づく排出量取引制度)の第2フェーズでは、標準環境状態(SATP・25℃・1bar)への換算が必須とされています。基準となる温度・圧力がノルマル状態と異なるため、換算による補正の向きも変わります。同じ「換算していない」状態であっても、どちらの制度の数値として扱うかで評価が反転しうるということです。なおGX-ETSでは、計測時圧力または計測時温度が求められない場合に計測時体積を標準環境状態体積とみなす取扱いが定められています。
したがってこの論点で確認されるべきなのは、換算の有無そのものではなく、どの基準状態を前提とした数値なのかが算定シート上で特定できるかどうかです。多くの算定システムは標準状態換算の機能を持たないため、換算はシステム外で行われることになり、前提が記録に残りにくい構造にあります。
誤り9 海外拠点で帝国単位系とSI単位系が混在している
海外拠点のデータ収集では、単位換算の誤りが繰り返し確認されます。米国拠点のガロンからリットルへの換算、サームから立方メートルへの換算など、帝国単位系とSI単位系が混在する場面で生じます。
同時に頻発するのが、排出係数の根拠が追えなくなる状態です。係数を設定した担当者が退職し、出典が記録されていないために説明できない、というケースです。バイオマス系燃料のように公式の排出係数が見つかりにくい燃料種で特に起こります。また、根拠資料の保管状況が拠点ごとにばらつき、整備されている拠点とまったく保管していない拠点が混在するのも典型的な状況です。
計上漏れが確認されやすい排出源
最後に、算定範囲から落ちやすい排出源を挙げます。いずれも金額ベースの管理に現れにくく、購買データからも拾いにくいという共通点があります。
誤り10 フロン類の漏洩量が計上されていない
業務用冷凍空調機器から漏洩したフロン類は、Scope1に計上する対象です。しかし燃料や電力と異なり、漏洩量は「購入」の記録として現れないため、算定範囲から落ちやすい排出源です。フロン排出抑制法に基づく点検記録や充填・回収の記録が社内に存在していても、GHG算定の担当部署がその存在を把握していないケースが確認されています。
業種によっては、フロン漏洩量がScope1に占める割合が無視できない水準になります。冷凍設備を多く保有する業態では、計上漏れがそのまま量的重要性の閾値を超える誤りとなり得ます。
誤り11 不定期・少量の燃料使用が計上されていない
非常用発電機への不定期な給油、構内の低圧受電設備、複数設置されているガスメーターの一部など、常時使用されない設備や補助的な計量点は計上から漏れやすい対象です。定期的な請求が発生しないため、月次の集計フローに乗らないことが背景にあります。
Scope1・2の算定誤り まとめ
本記事で挙げた11の類型は、いずれも高度な解釈判断を要するものではありません。活動量の出所が追跡できること、拠点の切り分けと計量点が対応していること、係数と単位の前提が記録されていること。これらが揃っていない状態で発生する誤りが大半を占めます。
特に誤り8のように、同じ数値であっても準拠する制度によって評価が変わる論点は、複数の制度に同時対応している企業ほど混入しやすくなります。数値そのものより、その数値がどの前提で作られたかが記録されているかどうかが問われる領域です。
株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、信頼性の高い第三者保証サービスを通じて、企業のサステナビリティ情報開示を支援します。
参考リンク
環境省 算定方法・排出係数一覧
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/calc.html
環境省 温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/manual.html
環境省 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度 制度概要
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html


