コーポレートガバナンス・コード2026年改訂 TCFD削除とサステナビリティ開示への影響

金融庁と東京証券取引所は2026年7月21日、コーポレートガバナンス・コード2026年改訂版を確定・公表しました。今回の改訂は個別の原則を足し引きしたものではなく、コードの構造そのものを組み替えるものです。コンプライ・オア・エクスプレインの対象が概念的な原則に絞り込まれ、新たに「解釈指針」という区分が設けられました。本記事では、この改訂がサステナビリティ情報の開示実務に何をもたらすのかを、コード本文と改訂概要に即して整理します。とりわけ、条文からTCFDの記載が消えた一方でSSBJ基準が名指しで登場したこと、そして有価証券報告書の株主総会前提出が原則本体に入ったことの実務的な意味を掘り下げます。

あわせて読みたい
【SSBJ 第三者保証】初年度前から始める実務準備について セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)は、SSBJ開示に対する「第三者保証」に焦点を当てたオンラインセミナーを開催します。SSBJ基準...
目次

CGコード2026年改訂 要約

コーポレートガバナンス・コード2026年改訂版は、2026年7月21日に確定しました。改訂案は同年4月10日から5月15日まで意見募集にかけられ、147の個人・団体から意見が寄せられています。改訂の柱は、経営資源の配分、取締役会の機能強化、有価証券報告書の定時株主総会前開示、ステークホルダーとの適切な協働の4点です。

ただし実務上のインパクトが最も大きいのは、この4点よりも文書構造の変更です。コンプライ・オア・エクスプレインの対象が概念的かつ抽象的な原則に限定され、具体的な内容は新設の解釈指針に移されました。サステナビリティに関する記述もこの再編の対象となり、条文上の位置づけが大きく変わっています。

CGコード2026年改訂 背景

コーポレートガバナンス・コードは2015年に適用が開始され、2018年と2021年に改訂されてきました。この間、独立社外取締役の選任や政策保有株式の縮減など形式面の対応は進みましたが、形式的な対応にとどまる企業が少なくないという指摘が繰り返されてきました。

改訂版の序文は、この問題意識を明示しています。プリンシプルベース・アプローチとコンプライ・オア・エクスプレインという本来の趣旨に立ち返り、コード自体の実質化を図るため、プリンシプル化とスリム化が行われたと説明されています。具体的には、従前の補充原則を再整理し、ガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする一方、コード内の他の箇所または法令等との重複がある箇所等を削除する、という方針が採られました。

この「法令等との重複がある箇所等を削除する」という一文が、サステナビリティ開示に関する記述の変化を読み解く鍵になります。

CGコード2026年改訂 定義

株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、今回の改訂を次のように定義します。それは、上場会社に対するサステナビリティ関連の要求を、任意の開示枠組みへの準拠から、法定開示の内容と信頼性を取締役会が監督する体制の整備へと軸足を移す改訂である、というものです。

コードが要求水準を下げたわけではありません。むしろ、サステナビリティを巡る取組みは第2章のステークホルダー協働から第4章の取締役会の役割・責務へ移され、取締役会が向き合うべき経営課題として位置づけ直されています。

CGコード2026年改訂 基礎

改訂版を読む上で、まず3つの構造を押さえる必要があります。

第一に、序文が新設されました。コードは中長期の投資を促す効果をもたらすことも期待されていること、そして原則をコンプライする場合としない場合のいずれであっても理由を丁寧に説明することが投資家との建設的な対話に資すること、が明記されています。エクスプレインは例外的な逃げ道ではない、という位置づけが確認された形です。

第二に、コンプライ・オア・エクスプレインの対象が原則に限定され、その内容は概念的かつ抽象的なものに絞られました。従前の補充原則が担っていた具体的な記述は、新設の解釈指針に移されています。

第三に、原則の番号が広範囲で振り直されています。同じ番号でも改訂前後で中身が異なる箇所があるため、社内規程やコーポレートガバナンス報告書で原則番号を引用している企業は、機械的な置換ではなく内容の突き合わせが必要です。

CGコード2026年改訂 論点

サステナビリティ開示の実務担当者が判断に迷う論点を整理し、SSPの推奨スタンスを示します。

論点判断のポイントよくある誤解SSPの推奨スタンス
TCFD記載の削除コード本文からTCFDへの言及がなくなった気候関連開示の要求が緩和された要求は緩和されていない。序文は削除された記載について重要性が失われたと考えることは適切ではないと明記している。法定開示との重複整理と読むべき
サステナビリティの位置づけ第2章から第4章の取締役会の役割・責務へ移動したステークホルダー対応の一項目のままである取締役会が監督責任を負う経営課題として格上げされた。取締役会付議事項と報告ラインの点検を優先する
SSBJ基準との関係解釈指針がISSB基準とSSBJ基準を名指しで参照しているコードと法定開示は別の話であるコードが法定開示を前提に組み立てられた。有価証券報告書のサステナビリティ情報がガバナンス上の対象になったと理解する
有報の総会前提出原則本体に追記され、解釈指針で3週間以上前が望ましいとされた努力目標であり実務は変わらないサステナビリティ情報の作成・検証スケジュールが前倒しになる。年間カレンダーの再設計に着手する
第三者保証の要否コード本文に保証への言及はない改訂で第三者保証が義務化されたコードは保証を求めていない。ただし取締役会が情報の信頼性を確保する手段として、検証プロセスの整備は合理的な選択肢となる
原則番号の引用番号の振り直しが広範囲に及ぶ番号を置換すれば足りる同じ番号で内容が入れ替わった箇所がある。既存文書は内容ベースで突き合わせる

CGコード2026年改訂 比較

サステナビリティ関連の記述が2021年版からどう変わったかを整理します。

項目2021年版2026年改訂版
サステナビリティを扱う原則原則2-3 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題。第2章のステークホルダー協働に位置づけ原則4-5 取締役会の役割・責務Ⅳ:サステナビリティを巡る取組み。第4章の取締役会の責務に位置づけ
気候関連開示の枠組み補充原則3-1③でプライム市場上場会社にTCFDまたは同等の枠組みに基づく開示の充実を要請TCFDへの言及なし。解釈指針がISSB基準およびSSBJ基準に基づく有価証券報告書の作成義務に言及
文書の構成基本原則、原則、補充原則の3層。補充原則までコンプライ・オア・エクスプレインの対象原則と解釈指針。コンプライ・オア・エクスプレインの対象は原則に限定
有価証券報告書の提出時期コード本体に提出時期の記述なし原則1-2に総会開催日前の提出を追記。解釈指針で3週間以上前が最も望ましいとする
リスク管理の考慮事項具体的なリスク類型の例示は限定的解釈指針にサイバーセキュリティリスク、地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクを追記
ステークホルダー協働の例示行動準則の策定・実践を原則として規定解釈指針に人的資本への投資や適切な分配、取引先との公正・適正な取引を追記

CGコード2026年改訂 章解説

改訂概要が示す4つの柱について、内容と実務影響を解説します。

経営資源の配分

何が求められるか。取締役会の役割・責務として、会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築すべきことが原則に追記されました。あわせて、設備、研究開発、人的資本、知的財産等の無形資産への投資といった成長投資や、事業ポートフォリオの見直しに関し、具体的に何を実行するのかを説明すべきことが強調されています。適切な経営資源の配分が実現されるよう不断に検証を行うべきことも追記されました。

実務影響は何か。中期経営計画や統合報告書における投資方針の記述が、抽象的な方針表明では足りなくなります。人的資本への投資額や配分の考え方を、成長の道筋と結びつけて説明する必要があります。

取締役会の機能強化

何が求められるか。独立社外取締役について、経営の監督を行うことを含めた役割・責務、質と数の確保、独立性確保の重要性が原則および解釈指針で強調されました。また、議長や独立社外取締役を含めた取締役を支援する事務局、いわゆるコーポレートセクレタリーの機能強化を推進すべき旨が解釈指針に追記されています。リスク管理については、サイバーセキュリティリスク、国際的な経済安全保障を巡る環境変化等の地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク、技術等の情報流出リスクへの対応が考慮事項に含まれ得ると明記されました。

実務影響は何か。サプライチェーンに関するリスクが取締役会の議題として明示されたことにより、調達部門やサステナビリティ部門が把握しているリスク情報を取締役会に上げる経路の整備が必要になります。

有価証券報告書の定時株主総会前開示

何が求められるか。原則1-2に、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出することが、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の例として追記されました。解釈指針はさらに踏み込み、有価証券報告書には役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等が豊富に含まれることから、本来は株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいとしています。そのために、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日を従前の慣行に基づく時期から後ろ倒しすることも含めて検討する、と補足されています。

実務影響は何か。この論点は決算実務だけの話ではありません。SSBJ基準に基づくサステナビリティ情報は有価証券報告書に記載されるため、提出が前倒しになればサステナビリティ情報の集計、内部検証、開示文案の確定もすべて前倒しになります。3月期決算会社が総会を6月下旬に開催する前提で3週間以上前に提出するなら、6月上旬には有価証券報告書が固まっている必要があります。

ステークホルダーとの適切な協働

何が求められるか。株主以外のステークホルダーとの適切な協働の例示として、人的資本への投資や適切な分配、取引先との公正・適正な取引が解釈指針に追記されました。サプライチェーンにおける適正な価格転嫁も、この文脈で言及されています。

実務影響は何か。人権デュー・ディリジェンスや調達方針の運用状況が、ガバナンスの文脈で説明を求められる場面が増えます。

CGコード2026年改訂 重要点

TCFDの記載が消えたことの読み方

2021年版の補充原則3-1③は、プライム市場上場会社に対し、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきとしていました。2026年改訂版の本文には、この記述もTCFDという語も残っていません。

これを要求の後退と読むのは誤りです。序文は、プリンシプル化・スリム化について、上場会社の対応コストや開示負担の軽減のみを意図しているわけではないと述べた上で、解釈指針に移管された記載や削除された記載について、改訂後にその重要性が失われたと考えることは適切ではないと明記しています。

削除の理由は、序文が示す「法令等との重複がある箇所等を削除する」という方針に求めるのが自然です。一定のプライム市場上場会社にはSSBJ基準に基づく有価証券報告書の作成が義務付けられており、任意枠組みへの準拠をコードで重ねて求める必要が薄れた、という構図です。

原則4-5の新設とSSBJ基準の明記

改訂版では、原則4-5として取締役会の役割・責務Ⅳ:サステナビリティを巡る取組みが置かれました。2021年版の原則4-5は取締役・監査役等の受託者責任であり、同じ番号に別の内容が入っています。ここでも番号の機械的な読み替えは危険です。

注目すべきはその解釈指針です。中長期的な企業価値を判断する上でサステナビリティ情報の重要性が世界的に高まる中、ISSBにより国際的な開示基準が策定され、我が国においても一定のプライム市場上場会社に対し、ISSB基準と整合的な、SSBJにより策定された開示基準に基づく有価証券報告書の作成が義務付けられている、と述べています。コーポレートガバナンス・コードが法定のサステナビリティ開示を明示的に前提とした形です。

取締役会に求められる対応は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、自然災害等への危機管理、多様性などの課題を、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題と認識して取り組むことです。

情報の信頼性をどう担保するか

ここで実務上の難所が生じます。有価証券報告書に載るサステナビリティ情報について取締役会が監督責任を負い、しかもその提出時期を株主総会の3週間以上前へ前倒しすることが望ましいとされました。作成期間は短くなり、情報の重要性は上がるという組み合わせです。

なお、コード本文に第三者保証への言及はありません。改訂によって保証が義務付けられたわけではない点は正確に理解しておく必要があります。一方で、取締役会が開示情報の信頼性について説明責任を果たすための手段として、算定プロセスの内部検証や第三者による検証を組み込むことは合理的な選択肢です。基準日の後ろ倒しを検討する企業であれば、検証工程を年間スケジュールのどこに置くかを同時に設計しておくことが現実的です。

CGコード2026年改訂 手順

1. 改訂前後の対応関係の棚卸し

コーポレートガバナンス報告書、社内規程、取締役会規則で引用している原則番号を洗い出し、改訂版の内容と突き合わせます。番号が同じでも内容が変わっている箇所があるため、番号ではなく内容で対応させます。

2. サステナビリティ関連の付議・報告ラインの点検

サステナビリティを巡る取組みが取締役会の役割・責務に位置づけられたことを踏まえ、基本的な方針の策定状況、取締役会への付議事項、実務部門からの報告経路を点検します。サプライチェーン途絶リスクや情報流出リスクの報告ラインもあわせて確認します。

3. 開示カレンダーの再設計

有価証券報告書の提出時期を総会開催日の3週間以上前に置く場合の逆算スケジュールを作成します。サステナビリティ情報の一次データ収集、集計、内部検証、開示文案の確定、監査・検証対応の各工程がどこに収まるかを確認し、無理があれば総会開催日や基準日の後ろ倒しを検討対象に含めます。

4. エクスプレインの質の見直し

序文が、コンプライする場合としない場合のいずれであっても理由を丁寧に説明することが建設的な対話に資するとしている点を踏まえ、既存の記載がひな型的な説明にとどまっていないかを点検します。

5. 取締役会への報告

改訂内容と自社への影響、対応方針を取締役会に報告します。とくに開示カレンダーの前倒しは決算・法務・IR・サステナビリティの各部門にまたがるため、経営レベルでの調整が必要です。

CGコード2026年改訂 FAQ

Q1. TCFDへの対応はもう不要になったのですか。

不要にはなりません。コード本文からTCFDという語は消えましたが、序文は削除された記載について重要性が失われたと考えることは適切ではないと明記しています。加えて、SSBJ基準はISSB基準と整合的であり、ISSB基準はTCFDの枠組みを取り込んで策定されています。開示の骨格はそのまま法定開示の側に引き継がれていると理解してください。

Q2. この改訂で第三者保証は義務化されましたか。

義務化されていません。コーポレートガバナンス・コード2026年改訂版の本文に、第三者保証への言及はありません。ただし取締役会がサステナビリティ情報の信頼性に責任を持つ枠組みになった以上、社内の検証体制をどう構築するかは実務上の論点として残ります。

Q3. プライム市場以外の会社にも関係しますか。

関係します。サステナビリティを巡る取組みに関する原則4-5は市場区分を限定していません。SSBJ基準に基づく有価証券報告書の作成義務は一定のプライム市場上場会社が対象ですが、取締役会がサステナビリティ課題に取り組むこと自体は全上場会社に向けられた原則です。

Q4. 有価証券報告書の総会前提出は必須ですか。

必須ではありません。コードはプリンシプルベース・アプローチを採っており、コンプライしない場合は理由を説明することになります。ただし原則本体に例示として書き込まれた以上、対応しない場合には投資家に対する説明が求められます。3週間以上前という水準は解釈指針の記述であり、原則そのものではない点も押さえておいてください。

Q5. 解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ですか。

対象ではありません。今回の改訂でコンプライ・オア・エクスプレインの対象は原則に限定され、解釈指針は各原則への対応を支援するために具体的な内容や趣旨を記載したものと位置づけられています。ただし、対象外であることと重要でないことは別です。序文はこの点を明示的に戒めています。

CGコード2026年改訂 まとめ

コーポレートガバナンス・コード2026年改訂版は、サステナビリティに関する要求の水準を変えたのではなく、その置き場所を変えました。任意の開示枠組みへの準拠をコードで求める段階を終え、法定開示として作成される情報を取締役会が監督する段階に入ったと読むべきです。

実務担当者が最初に着手すべきは、原則番号の対応関係の棚卸しと、有価証券報告書の提出前倒しを前提とした開示カレンダーの再設計です。サステナビリティ情報の集計と検証にかかる期間は短縮できるものではないため、逆算して工程を組み直す作業は早いほど有利になります。

株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、サステナビリティ情報の算定プロセスの点検から第三者保証まで、開示の信頼性確保を一貫して支援します。

参考リンク

金融庁 コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について
https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721.html

金融庁 コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)
https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/01.pdf

金融庁 コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要
https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721/04.pdf

金融庁 コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議
https://www.fsa.go.jp/singi/revision_corporategovernance/index.html

あわせて読みたい
【SSBJ】有価証券報告書の作成要領について解説 https://susstap.co.jp/seminar/2915/ 1.サステナビリティ関連財務開示の作成方法 SSBJは、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示枠組みであり、ガバナンス...

この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

目次