環境省が公表した「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」は、企業のサプライチェーン管理に新たな視点をもたらします。これは、従来のCSR調達に自然資本の概念を統合し、生物多様性の損失を止め、回復に向かわせるネイチャーポジティブの実現を目指すものです。本記事では、このガイドラインの要点を整理し、企業が取るべき具体的なアクションを解説します。サステナビリティ担当者が実務で直面する課題を解決するため、ガイドラインの構造に沿って深く掘り下げ、具体的な手順や論点を提示します。

ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 要約
環境省の「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」は、企業が調達活動を通じて自然資本への依存と影響を評価し、負の影響を避け、低減し、プラスの影響を生むことを目指す手引書です。TNFDのLEAPアプローチを調達プロセスに統合し、リスク管理と機会創出の両面から企業の対応を促します。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 背景
近年、気候変動と並ぶ深刻な地球環境問題として、生物多様性の損失が国際的な課題となっています。企業活動は自然資本から得られる生態系サービスに大きく依存しており、その劣化は事業継続上の重大なリスクです。このような背景から、2022年に採択された昆明・モントリオール世界生物多様性枠組では、2030年までに生物多様性の損失を反転させ、回復軌道に乗せるというネイチャーポジティブの概念が世界の共通目標となりました。また、自然関連財務情報開示タスクフォース、すなわちTNFDの提言は、企業が自然関連のリスクと機会を評価し、開示する枠組みを提供しています。今回のガイドラインは、これらの国際的な動向を国内企業の調達実務に具体的に落とし込むことを目的として公表されました。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 定義
株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、ネイチャーポジティブ調達を次のように定義します。それは、企業が自社のサプライチェーン全体にわたり、事業活動が自然資本および生態系サービスに与える影響と依存関係を特定し、評価するプロセスです。そして、その評価結果に基づき、生物多様性への負の影響を停止および反転させ、自然の回復に積極的に貢献するための調達方針を策定し、実行することを指します。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 基礎
ネイチャーポジティブ調達を理解するためには、いくつかの基礎知識が必要です。まず、ネイチャーポジティブとは、自然の損失を止め、回復へと向かわせるという目標です。次に、自然資本は、きれいな水や空気、肥沃な土壌など、人間社会に便益をもたらす自然のストックを指します。企業活動は、この自然資本から提供される生態系サービスに依存しています。サプライチェーンにおける自然関連リスクには、原材料の供給不安定化といった物理リスクや、規制強化や評判悪化といった移行リスクが含まれます。一方で、持続可能な製品開発やブランド価値の向上といった機会も存在します。このガイドラインは、TNFDが提言するLEAPアプローチ、すなわち発見、診断、評価、対応の4フェーズを調達活動に適用することを推奨しています。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 結論
本ガイドラインが企業のサステナビリティ実務に与える影響は大きいと結論付けられます。これは、企業の調達部門に対し、従来の品質、コスト、納期に加えて、自然資本という新たな評価軸を本格的に導入することを求めるものです。検索意図として考えられる「このガイドラインが自社にどう関係し、何をすべきか」という問いに対して、SSPは「すべての企業がサプライチェーンにおける自然関連リスクの評価に着手し、調達方針を更新する必要がある」と結論します。特に、農林水産業や資源採掘業など、自然への依存度が高いセクターと取引のある企業は、早期の対応が不可欠です。将来的には、このガイドラインへの準拠が、取引継続の条件や企業価値評価の重要な要素となる可能性が高いと考えられます。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 論点
ネイチャーポジティブ調達を実践する上での主要な論点を整理します。
| 論点 | 実務での重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
|---|---|---|---|---|
| スコープの設定 | 高 | どこまでのサプライヤーを対象とするか。自社の影響が大きい領域を優先する。 | 全てのサプライヤーを一度に評価する必要がある。 | まずは主要な一次サプライヤーや、特に自然への影響が大きい原材料から着手することを推奨します。 |
| データの収集と評価 | 高 | どのツールやデータベースを使用するか。ENCOREなどのツールを活用し、定性的評価から始める。 | 精緻な定量データがなければ評価できない。 | 入手可能な情報で定性的評価から開始し、重要性が高い領域について徐々に詳細なデータを収集するアプローチを推奨します。 |
| サプライヤーとの連携 | 高 | どのようにサプライヤーを巻き込むか。エンゲージメントの方針を明確にする。 | 一方的に要求を伝えればよい。 | 協力関係を構築するため、ガイドラインの趣旨を丁寧に説明し、サプライヤーの能力構築を支援する姿勢が重要です。 |
| 目標設定とKPI | 中 | 何を目標とし、どう進捗を測るか。SBTNのガイダンスなどを参考にする。 | 売上高などの財務指標だけがKPIである。 | 影響の大きい領域で、例えば「森林破壊ゼロ調達率」のような具体的で測定可能な非財務目標を設定することを推奨します。 |
| 情報開示 | 中 | どの範囲の情報を、どの枠組みで開示するか。TNFD提言との整合性を意識する。 | ネガティブな情報は開示すべきではない。 | 透明性を確保するため、ポジティブな側面だけでなく、リスクや課題についても誠実に開示する姿勢が評価されます。 |
| 体制構築 | 高 | どの部署が主導し、どう全社的に取り組むか。調達、サステナビリティ、経営層の連携が鍵となる。 | サステナビリティ部門だけの仕事である。 | 経営層のコミットメントのもと、調達部門が主体となり、関連部署を巻き込んだ横断的な推進体制を構築することを推奨します。 |
| 移行計画の策定 | 中 | 短期および中長期でどのように取り組みを進化させるか。ロードマップを策定する。 | 一度方針を決めれば変更は不要である。 | 外部環境の変化や自社の学びに基づき、定期的に計画を見直す動的なプロセスを導入することが重要です。 |
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 比較
従来のCSR調達と、本ガイドラインが示すネイチャーポジティブ調達の考え方を比較します。
| 項目 | 従来のCSR調達 | ネイチャーポジティブ調達 |
|---|---|---|
| 主要な関心領域 | 人権、労働環境、腐敗防止、環境汚染の防止など、負の影響の最小化が中心。 | 生物多様性の損失停止と回復、生態系サービスへの依存と影響の評価など、自然へのプラス貢献を含む。 |
| 評価の視点 | サプライヤーが法令や行動規範を遵守しているかのコンプライアンス視点が強い。 | サプライチェーン全体での自然関連リスクと機会の特定、事業インパクトの評価という戦略的視点。 |
| アプローチ | サプライヤーへのアンケート調査や監査が主な手法。問題発生時の是正措置に重点。 | LEAPアプローチに基づき、事業活動と自然との接点を科学的ツールも用いて体系的に分析、評価する。 |
| 目標設定 | サプライヤーの評価スコア向上や、認証取得率の向上など。 | 科学的根拠に基づく目標(SBTNなど)を設定し、自然の回復に貢献することを目指す。 |
| 情報開示 | CSR報告書やサステナビリティ報告書での定性的な活動報告が中心。 | TNFDなどの国際的なフレームワークに沿った、定量的データを含む体系的な情報開示が求められる。 |
| 企業内の連携 | 主に調達部門やサステナビリティ部門が担当。 | 経営層、財務、リスク管理など、より広範な部門を巻き込んだ全社的な取り組みが必要。 |
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 章解説
本ガイドラインの構成に沿って、各章の要点と実務影響を解説します。
第1章 本ガイドラインの目的と位置づけ
何が求められるか。本ガイドラインが、企業の調達担当者向けにネイチャーポジティブの考え方を実践に移すための手引書であることが示されます。TNFDやSBTNなどの国際的な枠組みとの関連性も説明されています。
実務影響は何か。企業は、自社のサステナビリティ戦略の中に、本ガイドラインが示す方向性を位置づける必要があります。国際的な潮流と連動しているため、無視できない重要性を持っています。
注意点は何か。これは法的な拘束力を持つものではありませんが、今後の規制や取引基準の基礎となる可能性を認識すべきです。
第2章 ネイチャーポジティブと調達
何が求められるか。ネイチャーポジティブ、自然資本、生物多様性といった基本用語の定義と、企業活動が自然に与える影響と依存関係の重要性が解説されます。サプライチェーンにおける自然関連リスクと機会の概念が導入されます。
実務影響は何か。担当者はこれらの基本概念を理解し、自社の事業活動がどの自然資本に依存し、どのような影響を与えているかを大局的に把握する必要があります。
注意点は何か。自社に直接関係ないと考えず、サプライチェーンの上流に潜むリスクを意識することが重要です。
第3章 ネイチャーポジティブに向けた調達の実践
何が求められるか。TNFDのLEAPアプローチ、すなわち発見、診断、評価、対応の4つのフェーズを、調達プロセスに適用する具体的な方法が詳述されます。各フェーズで利用可能なツールやデータベースも紹介されています。
実務影響は何か。これは本ガイドラインの核となる部分です。企業はLEAPアプローチに沿って、自社の調達プロセスを見直し、具体的な評価と対応策の検討を開始する必要があります。
注意点は何か。最初から完璧な分析を目指す必要はありません。まずは定性的な評価から始め、段階的に分析を深化させることが現実的です。
第4章 ネイチャーポジティブ達成に向けた協働・連携
何が求められるか。個社での取り組みの限界を指摘し、業界団体、地域社会、NPOなど、様々なステークホルダーとの連携の重要性が強調されます。
実務影響は何か。企業は、サプライヤーとのエンゲージメントを強化するだけでなく、業界共通の課題解決に向けた連携や、地域生態系の保全活動への参加などを検討する必要があります。
注意点は何か。連携には時間とコストがかかりますが、長期的なリスク低減と機会創出につながる投資と捉えるべきです。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 重要点
本ガイドラインを実務に適用する上で、特に重要となるポイントを深掘りします。
LEAPアプローチの具体的な活用
本ガイドラインが推奨するLEAPアプローチは、単なる概念ではありません。実務で活用するための具体的なステップが示されています。
発見フェーズでは、まず自社の事業とサプライチェーンが、どの地域で、どの自然資本と関わっているかを大まかに特定します。ENCOREのようなツールを使い、業種や地域から依存と影響の可能性がある項目を洗い出すことが第一歩です。
診断フェーズでは、発見した項目の中から、特に優先順位の高いものを特定します。生態系サービスの依存度や、事業活動による影響の大きさを評価し、ホットスポットを絞り込みます。
評価フェーズでは、絞り込んだリスクと機会の財務的影響を分析します。例えば、水リスクによる生産停止の可能性や、持続可能な原材料への切り替えによるコスト変動などを評価します。
対応フェーズでは、評価結果に基づき、具体的な行動計画を策定します。これには、調達方針の見直し、サプライヤーへの働きかけ、代替技術の導入などが含まれます。このサイクルを継続的に回すことが重要です。
TNFD開示への連携
本ガイドラインに沿った取り組みは、TNFD提言に基づく情報開示に直結します。ガイドラインで示されている評価プロセスは、TNFDが開示を推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクト管理」「指標と目標」の4つの柱に関する情報を収集、整理するプロセスそのものです。
例えば、LEAPアプローチを通じて特定した自然関連リスクと機会は、「戦略」や「リスク管理」の項目で開示する重要な情報となります。また、対応フェーズで設定したKPIは、「指標と目標」の開示内容となります。
したがって、企業は調達におけるネイチャーポジティブへの取り組みを、情報開示戦略と一体で進めるべきです。これにより、投資家や顧客からの信頼を高め、企業価値の向上につなげることが可能になります。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン 手順
企業がネイチャーポジティブ調達を導入するための実務フローを5つのステップで示します。
- 推進体制の構築とコミットメントの表明。経営層の理解を得て、調達部門、サステナビリティ部門、経営企画部門などから成る横断的なチームを組成します。その上で、ネイチャーポジティブに取り組む方針を社内外に公表します。
- 現状把握と優先課題の特定。LEAPアプローチの発見と診断フェーズに基づき、自社のサプライチェーンにおける自然への依存と影響を評価します。特にリスクが高い、または影響が大きい原材料や調達地域を特定します。
- 調達方針の策定と目標設定。特定した優先課題に対応するため、具体的な調達方針を策定または改定します。例えば、森林破壊ゼロ方針や、特定の認証原材料の調達比率など、測定可能な目標を設定します。
- サプライヤーへの展開とエンゲージメント。策定した方針を主要なサプライヤーに説明し、理解と協力を求めます。必要に応じて、サプライヤー向けの研修会や、改善に向けた共同プロジェクトを実施します。
- モニタリング、報告、そして見直し。設定した目標に対する進捗状況を定期的にモニタリングし、その結果をサステナビリティ報告書などで開示します。活動を通じて得られた知見を基に、方針や目標を継続的に見直します。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン FAQ
ネイチャーポジティブ調達に関するよくある質問にお答えします。
Q1 TNFDとの関係はどのようなものですか
本ガイドラインは、TNFDが提言する自然関連のリスクと機会を評価・管理するためのフレームワーク、特にLEAPアプローチを、企業の調達活動という具体的な実務に落とし込むための実践的な手引書と位置づけられます。ガイドラインに沿って取り組むことで、TNFD開示に向けた準備が効率的に進められます。
Q2 中小企業でも取り組む必要はありますか
はい、必要です。サプライチェーンの一員として、大企業から自然への配慮を求められるケースが増加することが予想されます。本ガイドラインは、まず着手しやすいステップから始めることを推奨しており、企業の規模に関わらず参考になります。取引先との連携を通じて、自社の強みとすることも可能です。
Q3 どのようなツールを使えばよいですか
ガイドラインでは、ENCOREやIBATといった、自然関連の依存・影響を評価するための公開ツールが紹介されています。これらは無料で利用できるものも多く、第一歩として非常に有効です。まずはこれらのツールを使い、自社の事業との関連性を把握することから始めるのがよいでしょう。
Q4 評価に必要なデータはどこで入手できますか
サプライヤーからの直接的な情報収集に加えて、公的機関や研究機関が提供するデータベース、業界団体が発行するレポート、衛星データを利用した分析サービスなど、多様な情報源があります。最初から完璧なデータを揃えることは難しいため、入手可能な情報から始め、徐々に精度を高めていくアプローチが現実的です。
Q5 気候変動対策との違いと関連性は何ですか
気候変動対策が主に温室効果ガスの排出量削減に焦点を当てるのに対し、ネイチャーポジティブは生物多様性、水、土地利用、生態系など、より広範な自然資本を対象とします。両者は密接に関連しており、例えば森林保全は気候変動の緩和と生物多様性の保全の両方に貢献します。統合的なアプローチで取り組むことが重要です。
Q6 第三者保証は必要になりますか
現時点では義務付けられていませんが、将来的には情報開示の信頼性を高めるために、データや取り組みのプロセスに対して第三者保証を求める動きが強まる可能性があります。特に、投資家などのステークホルダーに対する説明責任を果たす上で、客観的な評価の重要性は増していくと考えられます。
ネイチャーポジティブ調達ガイドライン まとめ
環境省の「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」は、企業がCSR調達を次の段階へ進めるための重要な道標です。本ガイドラインを読み解くと、これからの企業には、サプライチェーンにおける自然との関わりを深く理解し、負の影響を減らすだけでなく、自然の回復に貢献する積極的な姿勢が求められることがわかります。これは単なる環境保護活動ではなく、事業継続性を確保し、新たな企業価値を創造するための経営戦略そのものです。株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、企業がこの新たな挑戦に対応できるよう、信頼性の高い第三者保証サービスを通じて支援してまいります。
参考リンク
https://www.env.go.jp/press/press_05290.html


