第三者保証が企業価値の向上に果たす役割について解説

第三者保証(Assurance)は、企業や組織が公表する情報の正確性や信頼性を、独立した外部機関が評価し確認するプロセスを指します。このプロセスは、情報の透明性を確保し、ステークホルダーからの信頼を得るための重要な手段です。特に、温室効果ガス(GHG)排出量やサステナビリティ報告書、ESG(環境・社会・ガバナンス)データの信頼性が求められる現代において、その意義はますます高まっています。

企業は第三者保証を導入することで、信頼性を担保された情報を基に、ステークホルダーとの関係を強化し、競争力を高めることができます。また、これにより法規制への適合性を示すだけでなく、企業価値を向上させるための基盤を構築することも可能です。さらに、情報の信頼性を高めることは、企業が社会的責任を果たし、持続可能な成長を実現するための手段としても重要です。

目次

1.第三者保証の歴史と背景

企業が財務諸表の透明性を確保するために監査を受けるようになったのと同様に、非財務情報においても同じような信頼性が求められるようになりました。

1990年代以降、環境問題や社会問題に対する関心の高まりとともに、企業の非財務情報の開示が重視されるようになりました。これは、持続可能な開発目標(SDGs)や責任投資原則(PRI)などの国際的な枠組みの採択を背景にしています。また、パリ協定やEUの持続可能性報告指令(CSRD)などの規制強化が進む中で、企業が開示する情報の正確性を確保するために第三者保証が必要とされる場面が増えています。

さらに、非財務情報の範囲は年々拡大しており、環境データだけでなく、労働条件や人権問題、企業ガバナンスといった領域も含まれるようになりました。これにより、第三者保証は単なるデータ検証の枠を超え、企業の社会的信用や競争力を左右する重要なプロセスへと発展しています。

2.第三者保証の対象分野と役割

第三者保証が適用される主な対象は以下の通りです

温室効果ガス(GHG)排出量
ISO14064に基づき、Scope1(直接排出)、Scope2(購入エネルギーによる間接排出)、Scope3(その他の間接排出)のデータを信頼性のある形で提供することが求められます。

サステナビリティ情報
環境、社会、ガバナンスに関連する情報を含む報告書の透明性を高めます。CSRDやISSBなどの基準に対応するケースが増えています。

CSR(企業の社会的責任)報告書
環境や社会への取り組みを記載した報告書の信頼性を担保することで、企業の社会的信用を向上させます。

ESGデータ
投資家が重視するESG情報の正確性を保証することで、投資判断の基盤となるデータの透明性を確保します。

3.第三者保証における主な国際基準とフレームワーク

第三者保証を実施する際には、以下のような基準やフレームワークが用いられます

ISAE 3000
非財務情報の保証業務を実施する際の包括的な基準。情報の信頼性を検証するプロセスが規定されています。

ISO14064シリーズ
温室効果ガス排出量の算定、報告、検証を支援する国際規格であり、ISO14065は第三者保証機関の能力基準を規定しています。

ISO14067
製品ライフサイクル全体におけるカーボンフットプリントを測定するための基準。製品レベルでの温室効果ガス排出量の検証と開示に特化しています。

ISSA5000
日本独自の非財務情報開示基準であり、情報の信頼性を担保するための指針を提供します。

4.第三者保証のメリットと重要性

まず、最も重要なのは、情報の透明性と信頼性を向上させることで、投資家や消費者などのステークホルダーからの評価を高められる点です。特に、環境データやESG情報が投資判断の基準として重視される中で、信頼性が担保された情報を提供することは、企業価値を向上させる大きな要素となります。

また、第三者保証は、環境や社会に対する誤解を招くような情報開示、いわゆる「グリーンウォッシュ」を防ぐ役割も果たします。これにより、企業はブランドイメージを守りつつ、持続可能な成長を実現するための基盤を整えることができます。

さらに、第三者保証を通じて得られるデータの透明性は、企業の経営戦略にも寄与する為、正確なデータを基にした目標設定や進捗管理が可能となり、これが持続可能な経営の基盤となります。

5.第三者保証における今後の展望

サステナビリティに対する関心が高まり、カーボンニュートラルやネットゼロを目指す動きが活発化する中で、第三者保証の重要性はさらに増していくでしょう。特に、国際的な規制が強化される中で、企業が提供する情報の信頼性をどのように確保するかが問われています。

また、ESG投資の拡大に伴い、企業は非財務情報の透明性を担保するために第三者保証を活用し、投資家からの期待に応えることが求められています。さらに、デジタル技術の進化により、データ収集や検証のプロセスが効率化されることで、第三者保証の役割も広がると期待されています。

参考
温室効果ガス排出量の算定と検証について(ISO14064, 14065関連)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-verification/brief_info/mat_2010.pdf

国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000
https://jicpa.or.jp/specialized_field/20230921iai.htm

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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