温室効果ガス(GHG)排出量の正確な把握と報告は、持続可能な社会を実現するために重要な要素です。日本では、エネルギー管理法や温暖化対策法といった法律に基づき、事業者に対する排出量報告義務が課されています。また、GHGプロトコルやISO14064シリーズなど、国際的な計算基準を適用することで、信頼性の高いデータ算出が求められています。本記事では、日本国内の法的枠組み、計算基準、さらに先進的な企業事例を紹介します。
1.GHG報告義務
エネルギー管理法
エネルギー管理法は、エネルギー消費効率の向上を目的として、一定規模以上の事業者にエネルギー使用状況の報告義務を課しています。この法律では、事業者ごとのエネルギー消費量の把握に加え、CO₂排出量の算定が義務付けられています。
対象事業者:
原則として年間エネルギー消費量が1,500kl以上(原油換算)の事業者。
主な義務
エネルギー管理計画の策定: 事業所ごとのエネルギー使用合理化計画を立案。
管理標準の設定
エネルギー使用設備の運用や点検、計測・記録を含む管理要領を策定。
責任者の配置
エネルギー管理統括者の選任と体制整備。
報告書の提出
定期的なエネルギー使用実績の報告。
引用:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/overview/
温暖化対策法
地球温暖化対策推進法(温暖化対策法)は、地球温暖化を防止し、持続可能な社会の実現を目指すための包括的な法律です。この法律では、特定排出者に対して、排出量の報告や削減計画の策定が求められています。
対象事業者
年間CO₂排出量が3,000トン以上の事業者。
排出量の報告
対象事業者は事業活動における排出量を年度ごとに報告する必要があります。
削減目標の設定
短期・中期の削減目標を設定し、計画的に進める。
公表と透明性
提出された報告書は社会に公開され、企業の温暖化対策が透明化されます。
引用:https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20220519-topic-24.html
2.GHG計算基準(GHGプロトコル)
GHGプロトコルは、企業が温室効果ガス(GHG)の排出量を包括的に把握し、削減に取り組むための国際基準です。1998年に世界資源研究所(WRI)と持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)によって策定され、現在では企業や団体が気候変動対策を実施する際の重要な指針となっています。
このプロトコルでは、GHG排出量を「Scope1(直接排出)」「Scope2(間接排出)」「Scope3(その他の間接排出)」の3つに分類し、それぞれの算定・報告基準を明確化しています。
Scope1: 直接排出
燃料燃焼や工業プロセス、移動体排出など、企業が所有または管理する施設からの直接的なGHG排出を指します。
Scope2: 間接排出
購入電力、蒸気、熱、冷却エネルギーの消費に伴う間接的なGHG排出を対象とします。
電力の供給源や排出係数が算定の基準となります。
Scope3: その他の間接排出
サプライチェーン全体で発生する間接的なGHG排出を網羅します。
15の具体的なカテゴリに分類され、例えば、原材料の調達、製品の使用、廃棄などが含まれます。
GHGプロトコルは国際的なイニシアチブ(CDP、RE100、SBT)への対応、透明性の向上を通じて投資家や消費者からの信頼を獲得などが挙げられ、改訂予定の内容を注視し、最新の基準に対応することが求められます。
3.GHG計算基準(ISO14064)
ISO14064
ISO14064シリーズは、温室効果ガス(GHG)の算定・報告・検証に関する国際的な規格であり、以下の3つのパートから構成されています。また、検証機関に対する要求事項を規定するISO14065とも密接に関連しています。
ISO14064-1: 組織レベルでのGHG算定と報告
GHG排出量および吸収量の算定・報告の指針を提供。
適用範囲、活動境界、データ収集方法を明確化。
ISO14064-2: プロジェクトレベルでのGHG削減と報告
プロジェクトによるGHG排出削減や吸収量の増加を対象。
モニタリング計画や削減量の算定手法を規定。
ISO14064-3: 妥当性確認と検証
第三者保証機関による算定・報告内容の信頼性確保を目的。
データサンプリングや保証水準の定義。
ISO14065: 検証機関に対する要求事項
公平性、透明性、法的責任を強調し、検証プロセスの信頼性を担保。
ISO14064シリーズとISO14065は、GHG算定・検証の信頼性を支える国際的な基盤を提供しており、持続可能な社会の実現に向けた重要な枠組みといえます。
4.GHGにおける企業の取り組み事例
事例1: 再生可能エネルギーの活用
日本のある大手製造業では、事業所全体の電力を再生可能エネルギーに切り替えることで、Scope2の排出量を実質ゼロにする取り組みを進めています。この企業は、太陽光発電パネルの導入に加え、グリーン電力証書の購入を活用し、持続可能な事業運営を実現しています。
事例2: サプライチェーン全体での排出量削減
自動車業界の一部では、Scope3削減を目指し、サプライヤーに対してエネルギー効率改善や再生可能エネルギー導入を支援する取り組みが進められています。これにより、部品製造段階での排出削減が可能となり、最終製品のライフサイクル全体での環境負荷軽減に繋がっています。
事例3: デジタル技術を活用した排出量管理
IT企業の一部では、IoTやクラウド技術を活用して、リアルタイムで排出量をモニタリングするシステムを導入しています。このシステムにより、工場や事業所の排出源を特定し、即時対応を可能とすることで、排出削減効果を最大化しています。
5.GHG まとめ
日本国内では、エネルギー管理法や温暖化対策法に基づく報告義務が明確化され、企業にはGHG排出量の正確な算定が求められています。また、GHGプロトコルやISO14064シリーズといった国際基準を活用することで、信頼性の高いデータの作成が可能となります。先進的な企業事例は、再生可能エネルギーの導入やサプライチェーン全体での削減努力を通じて、持続可能な未来を目指す道筋を示しています。これらの取り組みを基に、他の事業者も自社の排出削減戦略を強化することが期待されます。