2026年3月18日、CSRDを根本的に再編するオムニバスI指令が発効しました。欧州委員会が2025年2月26日に提案したこの法案は、企業の競争力強化と規制負担軽減を旗印に、適用対象企業を約85〜90%削減し、開示データポイントを61%削減するという劇的な簡素化を実現しました。本記事ではCSRD最新動向を網羅的に整理します。

CSRD最新動向 要約
2026年3月発効のオムニバスI指令により、CSRDの適用対象は従業員1,000人超かつ売上4.5億ユーロ超の企業に限定され、適用対象企業が約85〜90%削減となりました。ESRSのデータポイントは61%削減され、合理的保証は撤廃されました。日本企業向けの第三国基準の売上閾値は1.5億ユーロから4.5億ユーロに引き上げられ、対象企業数は大幅に減少します。ただしEU事業規模の大きい主要企業はFY2028からの報告義務が残ります。
CSRD最新動向 背景
CSRDは2022年11月に成立し、欧州のサステナビリティ報告を抜本的に強化する指令として発効しました。しかし約50,000社を対象とする野心的な設計は、企業側から「過大な報告負担」として強い批判を受けました。
2024年11月のブダペスト宣言では「簡素化革命」が求められ、ドラギ報告書とレッタ報告書が欧州企業の競争力低下を警告しました。これらを受けて欧州委員会は2025年2月26日に簡素化オムニバスパッケージを公表するに至ります。
CSRD最新動向 定義
CSRDとは、Corporate Sustainability Reporting Directiveの略であり、EUが企業に対してサステナビリティ情報の標準化された開示を義務付ける指令です。報告基準としてESRSを使用し、ダブルマテリアリティの原則に基づき、財務的重要性と影響の重要性の両面から開示を求めます。2026年3月のオムニバスI指令により適用範囲が大幅に縮小されましたが、指令の基本的枠組みとダブルマテリアリティの原則は維持されています。
CSRD最新動向 基礎
オムニバスパッケージの2段階構成
パッケージは2つの法案で構成されています。第1法案であるStop-the-Clock指令は報告期限の延期のみを扱う緊急措置であり、第2法案の内容修正指令はCSRD、CSDDD、EUタクソノミーの実質的な変更を定める本体部分です。2つに分離した理由は、本体の交渉に時間がかかる間に企業が後で免除される報告義務に直面する事態を避けるためでした。
Stop-the-Clock指令の経緯
Stop-the-Clock指令は提案からわずか約7週間で採択されました。2025年2月26日に欧州委員会が提案し、4月3日に欧州議会が賛成531票、反対69票で採択、4月14日に欧州理事会が正式採択、4月17日に発効しました。
| 日付 | 事項 |
|---|---|
| 2025年2月26日 | 欧州委員会が提案 |
| 2025年4月3日 | 欧州議会が賛成531・反対69で採択 |
| 2025年4月14日 | 欧州理事会が正式採択 |
| 2025年4月17日 | 発効 |
| 2025年12月31日 | 加盟国の国内法化期限 |
この指令によりWave 2およびWave 3はいずれも2年延期となりました。Wave 1とWave 4の期限は変更されていません。なおWave 3(上場SME)については、その後の本体指令により最終的に適用対象から完全に除外されました。
オムニバスI本体指令の立法プロセス
本体の内容修正指令はより慎重な審議プロセスを経ました。
| 日付 | 事項 |
|---|---|
| 2025年2月26日 | 欧州委員会が提案 |
| 2025年11月18日 | 三者対話(トリローグ)開始 |
| 2025年12月9日 | 欧州理事会・欧州議会が暫定合意 |
| 2025年12月16日 | 欧州議会本会議で正式採択 |
| 2026年2月24日 | 欧州理事会が正式採択 |
| 2026年2月26日 | EU官報に掲載 |
| 2026年3月18日 | 発効(掲載から20日後) |
| 2027年3月19日 | CSRD関連条項の加盟国国内法化期限 |
CSRD最新動向 結論
オムニバスIは欧州サステナビリティ規制の潮目の変化を象徴しています。適用対象企業を約85〜90%削減し、データポイントの61%削減、合理的保証の撤廃、セクター別基準の廃止、CSDDDの大幅縮小はいずれも2022年から2023年の野心的な規制設計からの明確な後退です。
しかしCSRDの枠組み自体は存続しダブルマテリアリティの原則も維持されています。対象企業は減りましたが残った企業は依然として世界で最も包括的なサステナビリティ報告を求められます。日本の大手グローバル企業にとってはCSRDとSSBJの二重の報告義務が現実となります。両基準の気候関連開示は重複部分が大きく統合的な対応が合理的です。
注目すべきは規制の重心がEU一極集中から多極分散へ移行しつつある点です。ISSBが37法域でグローバルベースラインとなり、米国では州レベルが連邦の空白を埋め、日本はSSBJで独自の義務化を進めます。企業にとっての課題はこの規制のモザイクの中で効率的かつ整合的な開示体制を構築することにあります。
CSRD最新動向 変更点
オムニバスI指令による主要な変更点は以下の5つに集約されます。
適用閾値の大幅引き上げ
従業員基準は250人超から1,000人超に、売上基準は5,000万ユーロ超から4.5億ユーロ超に引き上げられました。総資産基準は完全に廃止されました。旧制度では3条件のうち2つを満たせば対象でしたが、新制度では従業員数と売上高の両方を満たす必要があります。
| 項目 | 旧基準 | 新基準 |
|---|---|---|
| 従業員数 | 250人超 | 1,000人超 |
| 純売上高 | 5,000万ユーロ超 | 4.5億ユーロ超 |
| 総資産 | 2,500万ユーロ超 | 基準廃止 |
| 判定方法 | 3条件中2つ充足 | 2条件とも充足 |
上場SMEの完全除外
上場SMEは適用対象から完全に除外されました。任意のVSME基準による自主報告は可能ですが義務ではありません。
合理的保証への移行義務の撤廃
合理的保証への移行義務は完全に廃止され、限定的保証が恒久的な要件となりました。
セクター別ESRSの廃止
セクター別ESRSの策定権限は完全に削除されました。EFRAGが開発を進めていた各セクター別基準は全て中止となりました。
第三国企業の閾値引き上げ
EU域内純売上高の閾値が1.5億ユーロから4.5億ユーロに引き上げられ、EU子会社または支店の売上要件も追加されました。
CSRD最新動向 論点
CSRD最新動向に関する主要な論点を以下の表に整理します。
| 論点 | 実務での重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
|---|---|---|---|---|
| 新閾値での適用判定 | 高 | 連結ベースか個社ベースかを確認する | 子会社単体で判定すればよいという誤解 | 連結グループ全体での判定を推奨 |
| Wave 1企業の経過措置 | 高 | 新閾値を下回るか否かで対応が異なる | 全Wave 1企業が免除されるという誤解 | 加盟国の国内法化を確認し個別に判断する |
| 簡素化ESRSの適用時期 | 高 | 委任法令の採択時期を注視する | 即座に報告が簡素化されるという誤解 | FY2027報告から適用。2026年9月の委任法令を待つ |
| ダブルマテリアリティの存続 | 中 | 概念は維持されプロセスが簡素化された | マテリアリティ評価が不要になるという誤解 | トップダウンアプローチを活用し効率化する |
| バリューチェーン情報要求 | 中 | 1,000人以下企業の拒否権が法制化された | 全取引先にESG情報を要求できるという誤解 | VSME基準の範囲内で情報収集を計画する |
| NESRSの策定遅延 | 高 | 2027年10月以降に延期された | FY2028報告にNESRSが間に合うという前提 | ESRS本体の構造に基づく準備を先行させる |
| 保証水準の変更 | 中 | 限定的保証が恒久化された | 合理的保証への移行が依然予定されるという誤解 | 限定的保証を前提とした保証体制を構築する |
| CSDDDとの関係 | 中 | CSDDDも大幅縮小され適用は2029年から | CSRDとCSDDDの対応を一体で進めるべきという前提 | タイムラインが異なるため分離して計画する |
CSRD最新動向 比較
オムニバスI指令の前後でCSRDがどのように変わったかを比較します。
| 項目 | 旧CSRD | オムニバスI後 |
|---|---|---|
| 適用企業数 | 約50,000社 | 約90%削減 |
| 従業員閾値 | 250人超 | 1,000人超 |
| 売上閾値 | 5,000万ユーロ超 | 4.5億ユーロ超 |
| 総資産基準 | 2,500万ユーロ超 | 廃止 |
| 判定方法 | 3条件中2つ | 2条件とも充足 |
| 上場SME | 段階的に適用 | 完全除外 |
| データポイント | 約1,073(義務的) | 約320(61%削減) |
| 保証水準 | 限定的から合理的へ移行予定 | 限定的保証で恒久化 |
| セクター別ESRS | 策定予定 | 廃止 |
| 第三国企業 売上閾値 | 1.5億ユーロ超 | 4.5億ユーロ超 |
| Wave 2 開始年度 | FY2025 | FY2027(2年延期) |
| Wave 3 開始年度 | FY2026 | 完全除外 |
さらにグローバルな主要開示制度との比較を以下に示します。
| 比較項目 | CSRD/ESRS | ISSB/IFRS S1 S2 | 米国SEC気候開示規則 |
|---|---|---|---|
| マテリアリティ | ダブルマテリアリティ | 財務マテリアリティのみ | 投資家重要性 |
| 適用地域 | EU加盟国27か国 | 36法域で採択済または手続中 | 米国(事実上停止) |
| 開示範囲 | E S Gの全領域 | 気候中心。IFRS S1で全般的開示 | 気候関連のみ |
| 保証要件 | 限定的保証(恒久化) | 法域により異なる | 段階的導入予定だった |
| 現在の状況 | オムニバスIで簡素化し発効済 | グローバル展開が加速中 | SEC防御放棄。事実上機能停止 |
CSRD最新動向 重要点
ESRSの簡素化とEFRAGの技術的助言
EFRAGは2025年12月3日に簡素化ESRSの最終的な技術的助言を欧州委員会に提出しました。義務的データポイントが約1,073から約320に削減され61%の削減を実現しています。任意の開示項目は全て廃止され非拘束的な例示ガイダンスに移行しました。
簡素化は6つの柱で構成されています。ダブルマテリアリティ評価の簡素化、報告書の可読性向上、一般開示と個別基準の重複排除、理解可能性の改善、負担軽減措置の導入、ISSBとの相互運用性強化です。
構造的変更としては最小開示要求事項が一般開示要求事項に名称変更されESRS 2に統合されました。方針、行動、目標の開示は原則ベースの記述的開示に移行しています。気候移行計画は義務ではなくなりましたが計画がない場合はその旨と策定予定の有無を開示する必要があります。
欧州委員会はオムニバス発効から6か月以内すなわち2026年9月18日までに簡素化ESRSの委任法令を採択する義務があります。
日本企業への影響と二重報告義務
日本企業がCSRDの適用を受ける経路は2つあります。第1にEU子会社自体がCSRD報告主体となるケースで従業員1,000人超かつ売上4.5億ユーロ超のEU子会社はFY2027から適用されます。第2に日本の親会社が第三国企業として直接対象となるケースでEU域内グループ売上4.5億ユーロ超かつEU子会社または支店売上2億ユーロ超の場合FY2028から適用されます。
閾値が3倍に引き上げられたことで多くの日本企業がCSRD義務の範囲外になります。ただしトヨタ、ホンダ、ソニー、パナソニック、日立など主要グローバル企業はFY2028からの報告義務が残ります。
金融庁は2026年2月26日にSSBJ基準の法定義務化を確定させました。時価総額5年平均3兆円以上の企業は2027年3月期から、1兆円以上は2028年3月期から順次適用されます。CSRDとSSBJの気候関連開示には大きな重複があり統合的な対応が合理的です。
グローバル規制環境の分断と収束
2026年初頭のサステナビリティ開示規制は収束と分断が同時に進行しています。収束の力としてISSBが36法域に浸透しESRSとの気候関連相互運用性が高まっています。分断の力として米国連邦の後退、EUのオムニバスによる縮小、マテリアリティ概念の乖離が存在します。
SEC気候開示規則は事実上機能停止しています。2025年3月にSECは規則の法廷での防御を放棄し、第8巡回控訴裁判所が訴訟を条件付き中断(in abeyance)としました。連邦の後退を補う形でカリフォルニア州SB 253が2026年8月からScope 1およびScope 2排出量報告を義務付けます。
CSRD最新動向 手順
企業がCSRDの最新動向を踏まえて取るべきアクションを以下の手順で整理します。
適用判定の再実施。新閾値(従業員1,000人超かつ売上4.5億ユーロ超)に基づき、連結グループレベルでCSRDの適用対象か否かを再判定します。第三国企業経路の閾値も確認します。
適用スケジュールの確定。Wave 1継続企業はFY2024から報告継続、新基準適用企業はFY2027から、第三国企業はFY2028からです。自社の該当カテゴリを特定し社内タイムラインに反映します。
簡素化ESRSの委任法令の監視。2026年9月18日までに欧州委員会が採択する委任法令の内容を注視し、最終的な開示要件を確認します。2026年第2四半期のフィードバック募集に参加することも検討します。
ダブルマテリアリティ評価の更新。簡素化されたトップダウンアプローチを採用し、ビジネスモデルやセクターの特性から出発する戦略的評価を実施します。情報マテリアリティフィルターを活用しデータポイントを絞り込みます。
SSBJとの統合対応の設計。日本企業はCSRDとSSBJ基準の二重報告に備え、気候関連開示の重複部分を特定し、一度のデータ収集で両基準に対応できる体制を構築します。
バリューチェーン情報収集の見直し。従業員1,000人以下の取引先にはVSME基準を超える情報提供を拒否する権利が与えられたため、情報収集計画をVSME基準の範囲内で再設計します。
保証体制の整備。限定的保証が恒久化されたため、合理的保証を前提とした過剰な体制構築は不要です。限定的保証基準の委任法令が2027年7月1日までに採択される予定であり、その内容に基づき保証プロバイダーとの契約を確定します。
CSRD最新動向 FAQ
Q1 オムニバスIでCSRDは廃止されたのですか
いいえ。CSRDの枠組み自体は存続しています。オムニバスIは適用範囲の縮小と報告要件の簡素化を行ったものであり、指令そのものの廃止ではありません。ダブルマテリアリティの原則も維持されています。
Q2 Wave 1企業は引き続き報告が必要ですか
はい。大規模PIEであるWave 1企業はFY2024から報告義務が継続しています。ただし新閾値を下回るWave 1企業については加盟国の判断でFY2025およびFY2026の報告を免除できます。
Q3 日本企業は今回の変更で全て対象外になりましたか
全てではありません。閾値引き上げにより多くの日本企業が対象外となりましたが、EU域内グループ売上4.5億ユーロ超かつEU子会社または支店売上2億ユーロ超の大手グローバル企業はFY2028からの報告義務が残ります。
Q4 簡素化ESRSはいつから適用されますか
簡素化ESRSの委任法令は2026年9月18日までに欧州委員会が採択する予定です。新基準でのCSRD報告はFY2027から開始されます。Wave 1企業のFY2024からFY2026の報告は現行または移行ルールで実施されます。
Q5 合理的保証への移行はどうなりましたか
合理的保証への移行義務は完全に撤廃されました。限定的保証が恒久的な要件として確定しています。限定的保証基準の委任法令は2027年7月1日までに採択される予定です。
Q6 セクター別ESRSは今後策定されますか
オムニバスIによりセクター別ESRSの策定権限は完全に削除されました。代替として欧州委員会が任意の非拘束的なセクター別ガイダンスを提供できるとされていますが、具体的な時期は公式資料で明示されていません。
Q7 CSDDDはどのような影響を受けましたか
CSDDDもオムニバスIで大幅に修正されました。適用閾値は従業員5,000人超かつ売上15億ユーロ超に引き上げられ、約70%の企業が適用対象外となりました。国内法化期限は2028年7月26日、適用開始は2029年7月26日からとなります。
Q8 NESRSはFY2028の報告に間に合いますか
NESRSの策定は少なくとも2027年10月1日以降に延期されています。FY2028の報告開始時期との関係で準備期間が限定される可能性があり、SSPとしてはESRS本体の構造に基づく先行準備を推奨します。
CSRD最新動向 まとめ
CSRD最新動向の要点をまとめます。2026年3月18日にオムニバスI指令が発効し、適用対象企業は約90%削減されました。新閾値は従業員1,000人超かつ売上4.5億ユーロ超です。ESRSのデータポイントは61%削減され、合理的保証は撤廃、セクター別ESRSも廃止されました。
日本企業にとっては第三国基準の閾値が3倍に引き上げられたことが最大の変更です。対象外となった企業もSSBJ基準への対応やVSMEを通じたバリューチェーン情報提供の可能性を踏まえ、準備を継続することが望ましいといえます。
今後の注目点は2026年9月の簡素化ESRSの委任法令、2027年3月のSSBJ基準義務適用開始、2027年10月以降のNESRS策定です。規制環境が流動的な中で確定情報に基づいた段階的な対応を推奨します。
CSRD最新動向 日程
主要な今後の日程を以下に整理します。
| 時期 | 事項 |
|---|---|
| 2026年Q2 | 簡素化ESRSの委任法令に対するフィードバック募集 |
| 2026年8月 | カリフォルニア州SB 253 Scope 1 2報告開始 |
| 2026年9月18日 | 簡素化ESRS委任法令の採択期限 |
| 2027年3月 | 日本SSBJ基準の義務適用開始(時価総額3兆円超) |
| 2027年3月19日 | CSRD関連条項の加盟国国内法化期限 |
| 2027年7月1日 | 限定的保証基準の委任法令採択期限 |
| 2027年10月以降 | 第三国企業用ESRS(NESRS)の採択(最速) |
| FY2027(2028年報告) | 新基準でのCSRD報告開始 |
| 2028年3月 | 日本SSBJ基準の義務適用拡大(時価総額1兆円超) |
| 2028年7月26日 | CSDDD加盟国国内法化期限 |
| FY2028(2029年報告) | 第三国企業のCSRD報告開始 |
| 2029年7月26日 | CSDDD適用開始 |
参考リンク
European Council – Council signs off simplification(2026年2月24日 正式採択のプレスリリース)
EUR-Lex – Stop-the-Clock Directive (EU) 2025/794(EU官報 原文)
EFRAG – Technical advice on draft simplified ESRS(簡素化ESRS技術的助言)
JETRO – CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス(PDF)
SEC.gov – SEC Votes to End Defense of Climate Disclosure Rules(2025年3月)


