温室効果ガスの種類は、京都議定書で定められた7ガスを基盤とし、エネルギー起源CO2、非エネルギー起源CO2、その他の温室効果ガスの3分類で整理されます。本記事はSSPの実務経験に基づき、GHGプロトコルの分類体系から日本の温対法の報告制度、GWPの考え方、主要開示基準の要求事項まで、企業のサステナビリティ推進室が把握すべき論点を体系的に解説します。

温室効果ガス種類 要約
京都議定書が定める温室効果ガスは、CO2・CH4・N2O・HFCs・PFCs・SF6・NF3の7種類です。日本ではエネルギー起源CO2が総排出量の約85%を占め、非エネルギー起源CO2が約6%、その他ガスが約9%です。この3分類は算定方法・削減手段・開示要件がそれぞれ異なるため、実務上の区分理解が不可欠です。
温室効果ガス種類 背景
温室効果ガスの分類体系は、国際的には1997年の京都議定書で基盤が作られました。当初は6ガスが対象でしたが、2012年のドーハ改正でNF3が追加され、7ガスとなっています。
GHGプロトコルは世界資源研究所とWBCSDが共同開発した温室効果ガス算定の国際標準であり、Corporate Standard、Scope 2 Guidance、Scope 3 Standardの3つの基準文書を柱としています。対象ガスは京都議定書と同じ7種で、すべてのガスが全Scopeに適用されます。
日本国内では、1998年の温対法で同じ7ガスが定義され、2006年から算定・報告・公表制度が運用されています。この制度ではエネルギー起源CO2、非エネルギー起源CO2、CH4、N2O、HFC、PFC、SF6、NF3の8カテゴリーで報告が行われます。
温室効果ガス種類 定義
温室効果ガスとは、地球の大気中で赤外線を吸収・再放射し、温室効果を強める性質を持つガスの総称です。SSPでは、京都議定書およびGHGプロトコルが対象とする7種のガスを「温室効果ガス」と定義します。これらはCO2、CH4、N2Oの3つの自然起源ガスと、HFCs、PFCs、SF6、NF3の4つの人工起源ガスで構成され、それぞれの排出メカニズムとGWPが大きく異なります。
温室効果ガス種類 基礎
京都議定書が定める7ガスの概要
二酸化炭素 CO2はGWPの基準値つ1と定義され、大気寿命は数百年から数千年です。化石燃料燃焼、セメント製造、森林破壊が主な人為的排出源です。
メタン CH4は大気寿命約12年と比較的短いものの、放射強制力が分子あたりCO2の数十倍です。IPCC AR6では非化石起源(non-fossil)と化石起源(fossil)が初めて区別され、それぞれGWP 27.0および29.8とされました。家畜の消化管内発酵、水田、石炭採掘、油ガスシステムからの漏洩が主な排出源です。
一酸化二窒素 N2Oは大気寿命約109年で、農業土壌における窒素肥料の使用、硝酸製造、燃料燃焼などから排出されます。
代替フロン等4ガスはいずれも人工起源のみです。HFCsは冷凍空調機器の冷媒として広く使用され、PFCsはアルミニウム精錬や半導体製造から排出されます。SF6は高電圧開閉器の絶縁ガスとして使用され、NF3は半導体製造のCVDチャンバー洗浄に使われます。これらはGWPが数百から数万と極めて高く、大気寿命も数千年から数万年と非常に長いものが含まれます。
GWPの考え方と版の選択
GWPとは、あるガスの放射強制力をCO2を基準として100年間で比較した指標です。IPCCの評価報告書の版により値が異なるため、どの版を使うかは実務上重要な判断です。
CO2換算への変換は次の式で行います。排出量 t-CO2e は、活動量に排出係数を乗じ、さらにGWPを乗じて算出します。
以下に主要ガスのGWP値の推移を示します。
| ガス | SAR 1995 | AR4 2007 | AR5 2014 | AR6 2021 |
|---|---|---|---|---|
| CO2 | 1 | 1 | 1 | 1 |
| CH4 非化石 | 21 | 25 | 28 | 27.0 |
| CH4 化石 | — | — | 30 | 29.8 |
| N2O | 310 | 298 | 265 | 273 |
| HFC-134a | 1,300 | 1,430 | 1,300 | 1,530 |
| HFC-32 | 650 | 675 | 677 | 771 |
| HFC-23 | 11,700 | 14,800 | 12,400 | 14,600 |
| CF4 | 6,500 | 7,390 | 6,630 | 7,380 |
| C2F6 | 9,200 | 12,200 | 11,100 | 12,400 |
| SF6 | 23,900 | 22,800 | 23,500 | 24,300 |
| NF3 | — | 17,200 | 16,100 | 17,400 |
UNFCCCは2022年のCOP27決定により、パリ協定下の国家インベントリ報告にAR5の100年GWP値を採用しました。日本の温対法も同様にAR5を使用しています。一方、GHGプロトコルは2024年8月の更新でAR6の使用を推奨しており、報告制度により使用すべき版が異なる点に注意が必要です。
温室効果ガス種類 結論
本記事の探求から導かれるSSPの結論は以下の通りです。
第一に、エネルギー起源CO2・非エネルギー起源CO2・その他温室効果ガスの3分類は、算定方法・削減手段・開示要件がそれぞれ異なるため、実務上の区分理解が不可欠です。
第二に、GWP値の版の選択は報告制度ごとに異なります。温対法はAR5、GHGプロトコルはAR6を推奨しており、複数の制度に対応する企業は併用管理が必要です。
第三に、日本の総排出量の約85%を占めるエネルギー起源CO2の脱炭素化が最優先ですが、非エネルギー起源CO2や代替フロン等も無視できません。特にHFCsはGWPが高く漏洩管理が重要です。
第四に、GRI 305はScope 1についてガス種別の特定を必須とし(Scope 2・3は利用可能な場合)、IFRS S2は重要性に応じて分解を求めます。採用する開示基準の要件を正確に把握し、ガス種別のデータ収集体制を整備することを推奨します。
温室効果ガス種類 論点
以下の表は、温室効果ガスの種類と分類に関する実務上の論点を9つに分解し、重要度・判断のポイント・よくある誤解・SSPの推奨スタンスを整理したものです。
| 論点 | 重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
|---|---|---|---|---|
| エネルギー起源CO2と非エネルギー起源CO2の区別 | 高 | 燃料燃焼か工業プロセスかで区分する | 電力使用もプロセス排出と誤認する | 排出メカニズムに基づき厳密に分類する |
| GWP値の版の選択 | 高 | 報告制度が指定する版を確認する | 最新版を常に使えばよいと考える | 温対法はAR5、UNFCCCもAR5を使用する |
| バイオジェニックCO2の扱い | 高 | Scope合計とは別枠で報告する | バイオマス燃焼のCO2をゼロカウントにする | GHGプロトコルに従い別枠で開示する |
| 代替フロン等の漏洩算定 | 高 | 機器台帳と冷媒管理が不可欠である | 少量なので無視してよいと考える | GWPが大きいため漏洩管理を徹底する |
| Scope 2の算定手法の選択 | 中 | ロケーション基準とマーケット基準の両方を報告する | どちらか一方で足りると考える | GHGプロトコルに従い二重報告する |
| 非エネルギー起源CO2の排出係数 | 中 | プロセス固有の係数を確認する | 燃料用の排出係数を流用する | セメント等は固有係数を適用する |
| ガス種別の開示粒度 | 中 | 採用する開示基準の要件を確認する | CO2換算の合計だけで十分と考える | GRI 305はScope 1でガス種別の特定が必須である(Scope 2・3は利用可能な場合) |
| 温対法とGHGプロトコルの分類差異 | 中 | 国内報告と国際開示で分類軸が異なる | 同じ分類体系だと思い込む | 両方の分類を理解し対照表を整備する |
| Scope 3における非CO2ガス | 低 | バリューチェーン全体で全7ガスが対象である | Scope 3はCO2のみと考える | 農業や廃棄物関連のカテゴリに注意する |
温室効果ガス種類 比較
エネルギー起源CO2・非エネルギー起源CO2・その他の温室効果ガスの3分類を、定義・算定・開示・削減の観点から比較します。
| 比較項目 | エネルギー起源CO2 | 非エネルギー起源CO2 | その他温室効果ガス |
|---|---|---|---|
| 定義 | 化石燃料の燃焼および購入電力・熱の使用に伴うCO2 | 工業プロセスの化学反応や廃棄物焼却に伴うCO2 | CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3の6ガス |
| 日本の排出構成比 2022年度 | 84.9% | 6.4% | 約8.7% |
| IPCCカテゴリ | 1A 燃料の燃焼活動 | 2 IPPU、5 廃棄物 | 各セクターに横断的に分布 |
| GHGプロトコルScope | Scope 1の固定燃焼・移動燃焼、Scope 2 | Scope 1のプロセス排出 | Scope 1の全4カテゴリに横断 |
| 主な排出源 | ボイラー、車両、発電所 | セメント製造、廃棄物焼却、石灰石利用 | 水田、家畜、冷媒漏洩、半導体製造 |
| 基本算定式 | 燃料使用量 x 排出係数 | プロセス固有の生産量 x 排出係数 | ガス種・排出源ごとに異なる |
| 主な削減手段 | 省エネ、再エネ、電化 | 原料転換、CCS、プロセス革新 | 低GWP冷媒、漏洩防止、農法改善 |
| GWP | 1 CO2の定義値 | 1 CO2の定義値 | ガスにより1から24,300まで大幅に異なる |
| 開示上の留意点 | Scope 2は二重報告が必要 | 燃料燃焼と混同しない | GRI 305はScope 1でガス種別の特定が必須(Scope 2・3は利用可能な場合) |
温室効果ガス種類 重要点
GHGプロトコルのScope分類とガス種類の関係
GHGプロトコルはScope 1を固定燃焼・移動燃焼・プロセス排出・フュジティブ排出の4カテゴリーに分類します。エネルギー起源CO2は主に固定燃焼と移動燃焼、非エネルギー起源CO2はプロセス排出、その他ガスは全カテゴリーに横断的に関わります。
Scope 2は購入電力・蒸気・冷暖房の生成に伴う排出であり、主にCO2が支配的ですが、グリッド排出係数にはCH4やN2Oも含まれます。2015年のScope 2 Guidanceにより、ロケーション基準法とマーケット基準法の二重報告が求められます。
Scope 3はバリューチェーン全体の排出を上流8カテゴリー・下流7カテゴリーの計15カテゴリーで捕捉します。全カテゴリーで全ガスが対象ですが、実務上は多くのカテゴリーでCO2が支配的です。ただし、カテゴリー5の廃棄物や上流の農業関連ではCH4やN2Oも重要です。
重要な注意点として、バイオジェニックCO2はScope 1・2・3の合計とは別枠の「メモ項目」として報告します。バイオ燃料燃焼に伴うCH4やN2Oは通常のScope 1に含める点にも注意が必要です。
開示基準によるガス種別開示の要求差異
主要な開示基準間で、ガス種別の開示要求には差異があります。
| 項目 | GRI 305 | IFRS S2 | CDP | SSBJ |
|---|---|---|---|---|
| ガス種別の特定 | Scope 1は必須 Scope 2・3は条件付き | 重要性に基づき必要 | 奨励 セクター別は必須 | IFRS S2に準拠 |
| バイオジェニックCO2別途開示 | 必須 | 不要 | 必須 | 不要 |
| Scope 3カテゴリ別開示 | 推奨 | 必須 | 必要 高スコア | 必須 |
| GWP値の要求 | IPCC最新推奨 | IPCC最新必須 | AR5推奨 | IPCC最新 温対法可 |
| 測定基準 | GHGプロトコル参照 | GHGプロトコル必須 | GHGプロトコル準拠 | GHGプロトコル必須 温対法可 |
GRI 305は最も明示的にガス種別の特定を求める基準であり、特にScope 1(305-1)では含まれるガスの特定が必須です(Scope 2・3では利用可能な場合に開示)。バイオジェニックCO2の別途開示も必須です。IFRS S2は重要性に基づく分解を原則とし、石油ガス企業のScope 1メタン別途開示や自動車企業のScope 3カテゴリー11のCO2とN2Oの分解を例示しています。CDPは石油ガスセクターモジュールでCO2とCH4の質量別開示を必須としています。
SSBJは2025年3月5日にサステナビリティ開示基準を公表し、時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期から、同1兆円以上の企業は2028年3月期から適用が義務化されます。IFRS S2との高い互換性を持ちつつ、温対法に基づく算定方法やGWP値の使用も法域救済として認められています。
温室効果ガス種類 手順
以下に、企業が温室効果ガスの種類別管理を整備するための実務フローを示します。
対象ガスと報告基準を確定する。温対法の報告義務、GRI 305、IFRS S2、CDPなど、自社が対応すべき制度と基準を洗い出し、各基準が求めるガス種別開示の粒度を確認します。
排出源の棚卸を実施する。自社の事業活動をエネルギー起源CO2、非エネルギー起源CO2、その他ガスの3分類に沿って整理します。ボイラーや車両の燃料燃焼、工業プロセス、冷媒漏洩など排出源を網羅的に特定します。
GWP値の版を決定する。温対法のAR5、GHGプロトコルのAR6推奨など、対応制度ごとに使用すべきGWPの版を確認し、複数制度に対応する場合は併用管理の方針を決めます。
排出係数を選定する。エネルギー起源CO2は環境省の算定・報告・公表制度の排出係数一覧、非エネルギー起源CO2はプロセス固有の係数、その他ガスはガス種・排出源ごとの係数をそれぞれ確認します。
データ収集体制を構築する。燃料使用量はエネルギー管理部門、プロセス排出は製造部門、冷媒管理は設備管理部門がそれぞれ担当するよう、責任者と収集フローを明確化します。
算定と検証を実施する。3分類それぞれの算定式に従い排出量を算定し、ガス種別のCO2換算値を算出します。算定結果は前年度や業界ベンチマークとの比較で妥当性を検証します。
開示書類を作成する。各開示基準の要求に従い、ガス種別の内訳、使用した排出係数とGWP値の出典、バイオジェニックCO2の別枠報告などを整理して開示書類を作成します。
第三者保証の準備を行う。第三者保証を受ける場合は、算定根拠資料・データ収集プロセスの文書化・内部統制の整備を進めます。ガス種別の算定過程が追跡可能であることが重要です。
温室効果ガス種類 FAQ
Q1 温室効果ガスは何種類ありますか
京都議定書およびGHGプロトコルが対象とする温室効果ガスは7種類です。CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3です。日本の温対法でも同じ7ガスが定義されています。
Q2 エネルギー起源CO2と非エネルギー起源CO2の違いは何ですか
エネルギー起源CO2は化石燃料の燃焼や購入電力・熱の使用に伴うCO2です。非エネルギー起源CO2はセメント製造時の石灰石のか焼や廃棄物の焼却など、エネルギー目的の燃焼以外から発生するCO2です。算定方法も異なり、削減手段もそれぞれ異なります。
Q3 GWPの版はどれを使えばよいですか
報告制度により異なります。日本の温対法はIPCC AR5の100年GWP値を使用します。GHGプロトコルは2024年の更新でAR6の使用を推奨しています。複数の制度に対応する場合は、各制度の指定する版を確認して併用管理する必要があります。
Q4 代替フロン等4ガスはなぜ重要ですか
HFCs、PFCs、SF6、NF3は排出量自体は小さくても、GWPが数百から数万と非常に高く、CO2換算すると大きな影響があります。またPFCsやSF6は大気寿命が数千年から数万年と極めて長く、一度排出されると事実上回収不可能です。
Q5 Scope 2ではCO2以外のガスも報告する必要がありますか
Scope 2のグリッド排出係数にはCO2だけでなくCH4やN2Oも含まれているため、実質的には複数ガスを含む値で報告することになります。ただしCO2が圧倒的に支配的であるため、実務上はScope 2をCO2のみと認識している企業も多いのが実情です。
Q6 バイオジェニックCO2はどう扱いますか
GHGプロトコルでは、バイオマス燃焼由来のCO2はScope 1・2・3の合計とは別枠のメモ項目として報告します。GRI 305でも別途開示が必須です。ただし、バイオ燃料燃焼に伴うCH4やN2Oは通常のScopeに含めます。
Q7 温対法とGHGプロトコルの分類は同じですか
分類の軸が異なります。温対法はガス種別を8カテゴリーに分け、エネルギー起源CO2については需要部門別に細分化します。GHGプロトコルはScopeを1・2・3の3つに分け、各Scope内で全ガスを扱います。両方の分類を理解し、対照表を整備することを推奨します。
温室効果ガス種類 まとめ
温室効果ガスの種類を正確に理解することは、排出量の算定・開示・削減のすべての基盤となります。
エネルギー起源CO2は日本の総排出量の約85%を占める最大の排出源であり、省エネや再エネへの転換が削減の主軸です。非エネルギー起源CO2はセメントや廃棄物等の特定プロセスに起因し、原料転換やCCSといった技術革新が必要です。その他の温室効果ガスはGWPが非常に高く、特に代替フロン等4ガスは漏洩管理と低GWP代替物質への転換が急務です。
企業のサステナビリティ推進室としては、3分類それぞれの算定方法の違い、GWP値の版管理、そして各開示基準が求めるガス種別開示の粒度を把握した上で、データ収集体制を構築することが重要です。
参考リンク
GHG Protocol Corporate Standard — 温室効果ガス算定の国際標準
GHG Protocol Global Warming Potential Values 2024年8月版 — GWP値の一覧
GHG Protocol Scope 2 Guidance — 購入電力の算定手法
GHG Protocol Technical Guidance for Calculating Scope 3 Emissions — Scope 3の算定方法
環境省 2023年度の我が国の温室効果ガス排出量及び吸収量について — 日本の最新排出量データ
環境省 温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 — 温対法の報告制度概要
国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス — 2022年度の温室効果ガス排出量
GRI 305 Emissions 2016 — 排出量開示の国際基準
IFRS S2 Climate-related Disclosures — ISSBの気候関連開示基準
GRIとISSBのGHG排出量開示の相互運用性に関する考察 — フレームワーク間比較


