TCFDガバナンス・リスク管理の重要性と開示ポイント

気候変動に対するガバナンス (経営体制) とリスク管理は、TCFD開示の土台となる重要分野です。取締役会レベルで気候リスクへの監督体制を整え、経営陣が全社的なリスク管理プロセスに気候変動を組み込むことで、企業は気候リスクを効果的に把握・対応できます。本記事では、TCFDにおけるガバナンスとリスク管理の求められる内容、その実務上のポイントやベストプラクティス、そして他社事例から学ぶ重要項目を解説します。気候変動課題に経営としてどう向き合うべきかを整理することで、自社の開示強化とリスクマネジメント向上に役立ててください。

あわせて読みたい
【SSBJ開示基準】SSBJ導入ロードマップ・独自要件・第三者保証セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)は、IFRS S1・S2を基盤に策定された日本版サステナビリティ開示基準「SSBJ基準」を徹底解説する...
あわせて読みたい
【主要テーマ解説】第三者保証 解説資料 第三者保証とは、サステナビリティ情報(GHG排出量など)の信頼性を、独立した検証機関が国際基準に基づいて評価し、適合性を表明する仕組みです。本資料では、ISO 1406...
目次

TCFD 要約

TCFD提言では、気候関連リスクと機会に関する組織のガバナンス (取締役会による監視体制と経営陣の役割) およびリスク管理 (気候リスクの特定・評価・管理プロセスとERMへの統合)を開示することが推奨されています。

TCFD 結論

気候変動への取り組みを有効に機能させるには、トップマネジメントのコミットメントと明確な役割分担を伴うガバナンス体制、そして既存のリスク管理への気候リスク統合が不可欠です。TCFDのガバナンス・リスク管理情報を充実させることは、単に開示のためだけでなく、社内の意思決定プロセスに気候課題を組み込み、変化に機敏に対応できる組織となることにつながります。特に取締役会の監督の下、経営幹部が横断的にリスクを管理する体制を築くことで、他の戦略要素 (シナリオ分析や財務影響算定、指標管理)も効果的に連動します。要するに、強固なガバナンスと統合的リスク管理は、TCFD開示の信頼性を支えると同時に、企業の長期的なレジリエンスを高める鍵となるのです。

TCFD 背景

TCFD提言では「ガバナンス」が最初に掲げられており、取締役会による気候関連リスク・機会の監視と、経営陣による評価・管理の役割が明確に求められています。これは気候変動を経営課題として位置付け、トップダウンで取り組む重要性を示しています。2017年のTCFD最終報告書以降、投資家は企業に対し気候リスクへの対応姿勢を重視するようになり、企業のコーポレートガバナンスの一環として気候変動が扱われるケースが増えました。日本でも2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂で気候関連リスクへの取組が言及され、2023年度からは金融庁が有価証券報告書での「ガバナンス」 「リスク管理」情報の記載を事実上義務化する方針を打ち出しています。要は、気候変動は経営層が直接関与すべきリスク領域となり、従来のCSR担当部門のみでは不十分だという認識が広まったのです。また、リスク管理面では、従来のERM (統合的リスク管理)に気候リスクを組み込む動きが世界的に進んでいます。企業は気候リスクの洗い出しや重要度評価の手法を定め、他の財務リスクと同様に管理することが求められています。総じて、ガバナンスとリスク管理に関するTCFD開示は、企業が内部統制や経営管理において気候変動をどれだけ真剣に位置付けているかを示す指標とも言え、開示充実のニーズが高まっています。

TCFD 定義

ガバナンス

気候変動課題に対する企業の意思決定・監督の枠組みを指します。具体的には、取締役会が気候関連リスクと機会を定期的に議題として監視・議論する体制、経営陣(執行側)が評価・対応策を管理する役割の両面が含まれます。

リスク管理

企業が気候関連リスクをどのように特定(識別)し、評価し、対策を講じているかという一連のプロセスを指します。これは既存の全社的リスク管理に気候リスクを統合することを意味し、例えばリスク評価では発生確率と影響度で気候リスクを他の事業リスクと比較し、重要なリスクとして認識・管理することが求められます。

TCFD 論点

論点解説のポイント
取締役会の監督体制気候変動に関する重要事項を取締役会がどのような頻度・方法で報告を受け、意思決定に組み込んでいるか。また、気候課題を扱う取締役会委員会を設置しているか。
経営陣の役割と体制気候課題を担当する役員 (CSO等)の任命や、サステナビリティ委員会など管理体制の構築。経営陣内での気候KPI責任の所在。
リスク特定・評価のプロセス気候関連リスクをどのように洗い出し、影響度・発生可能性で評価しているか。気候シナリオ分析の結果をリスク評価にどう活用しているか。
リスク管理の統合(ERM)気候リスク管理が従来のリスク管理プロセスにどう統合されているか。他の事業リスクと一体でモニタリング・報告する仕組み。

TCFD 比較

項目取締役会経営陣
主な役割気候変動課題に対する最終的な監督責任を負う。気候リスク・機会を戦略に反映し、目標設定や対応方針を承認する。気候リスク・機会の評価と管理を実行し、取締役会に報告する。各部門横断で施策を実施し目標達成に努める。
組織体制取締役会直下にサステナビリティ委員会等を設置し、専門知見を活用。必要に応じ社外有識者の助言を得る。CSO(最高サステナ責任者) や環境担当役員を任命し、社内横断チームを編成。各リスク管理部門と連携。
意思決定プロセス気候関連事項を定期議題とし、重要な投資や中期経営計画策定時に気候関連問題を考慮。進捗状況をモニタリングし、必要に応じ是正措置を指示。定量・定性評価した気候リスクをリスク一覧に組み込み、優先度に応じ対策を実施。取締役会向け報告資料を作成し、改善提案も行う。
評価・報酬気候目標の達成度合いを経営評価や経営陣報酬に反映 (CO2削減目標の達成度を報酬指標に組み込む)。部門KPIに気候関連指標を組み込み、社内評価制度で従業員の貢献を評価。

TCFD 重要点

取締役会による気候リスクの監督

取締役会レベルで気候変動を議題にするには、まず気候関連の情報提供を定期化することが重要です。経営陣は四半期あるいは半年に一度、気候リスク評価や進捗に関する報告書をボードに提出し、討議の機会を設けます。取締役会内にサステナビリティ委員会やリスク委員会を設置して専門的に検討するのも効果的です。また、社外取締役や有識者から気候問題の知見を得ることで、取締役会としての理解深化と建設的な提言が期待できます。こうした体制整備により、ボードが気候リスクを財務影響の大きい経営課題として日常的に監視・指導できるようになります。監督のポイントは、重大な気候リスクがビジネス戦略や予算決定に十分織り込まれているか、また気候関連目標の進捗が経営計画と整合しているかをチェックすることです。取締役会が主体的に関与することで、全社に気候対応の文化が根付きます。

気候リスクのERM統合と全社対応

全社的リスク管理 (ERM)に気候変動リスクを組み込むことで、従来の財務・戦略リスクと一貫性を持って管理できます。具体的には、リスクマトリクスに気候リスクの項目を追加し、発生確率×影響度で評価してランク付けします。他のトップリスク (例えば市場変動やサプライチェーンリスク)と比較して重要度を把握することで、経営資源配分の優先度も明確になります。また、既存のリスク管理プロセスへの統合には、社内ルールやマニュアルの改訂も有効です。例えば、事業継続計画や投資審議のチェックリストに気候リスクの項目を追加することで、日常的な意思決定に気候視点が入ります。さらに、気候リスクに対する定量的指標(例えば炭素価格の変動によるコスト増加額など)をリスク管理KPIに設定しモニタリングすることで、抽象的だった気候リスクを他のリスク同様に扱えるようになります。重要なのは、気候リスク管理を環境部門だけの仕事にせず、財務・事業部門も巻き込んだ全社対応とすることです。そのためには経営陣主導で各部門横断のタスクフォースを組成し、リスク情報を集約・分析して定期的に報告させる仕組みが有効です。統合された気候リスク管理は、企業のリスクプロファイルを正確に反映し、意思決定の質を高める効果があります。

TCFD 手順

  1. 経営トップの関与決定: 取締役会で気候変動を重要リスクとして位置付けることを決議します。気候課題を担当する取締役を指名し、監督責任を明確化します。

  2. 専門委員会・担当の設置: サステナビリティ委員会やリスク委員会の下部組織として気候変動ワーキンググループを発足させます。CSO(最高サステナ責任者) や環境担当役員を任命し、各主要部門からメンバーを集めた委員会で対応方針を検討します。

  3. リスクの洗い出しと評価: 社内の専門委員会で、気候関連のリスクと機会を体系的に洗い出します。短期・中期・長期に分け、想定シナリオに基づいて各リスクの発生可能性と影響度を評価します。その結果をリスクマップにプロットし、重大なリスクを特定します。

  4. ERMへの統合: 特定した主要気候リスクを既存のリスク管理プロセスに組み込みます。リスク管理規程に気候リスクを追記し、リスク一覧表に含めます。また、定期的な全社リスクレビューを年次あるいは四半期単位で行い、従来の財務リスクとの相対比較を実施します。

  5. 対策の策定と実行:重大な気候リスクについて、リスク低減策・リスク移転策(例えば保険の活用など)・リスク回避策を検討します。例えば、カーボンプライシングリスクに対し省エネ投資を増やす、サプライチェーンの気候影響に対し代替調達先を確保する、といった具体策を立案し、担当部門に実行を指示します。

  6. モニタリングと報告: 気候リスクに関するKPI (例えばCO2排出量や気温上昇シナリオでの想定損失額など)を設定し、定期的にモニタリングします。四半期ごとに取締役会または委員会に進捗レポートを提出し、状況を共有します。必要に応じて戦略やリスク対応計画を更新します。

TCFD FAQ

取締役会で気候変動を議題にするにはどうすれば良いですか?

まず経営層の理解を深めることが大切です。経営会議や役員研修で気候変動が事業に与えるインパクトを説明し、リスクとして認識してもらいます。その上で、取締役会の年間議題に気候関連事項 (リスク評価結果や目標進捗)を組み込みます。専門委員会を設ける余裕がない場合でも、既存のリスク委員会の議題に追加する形で扱えます。重要なのは、ボードメンバーにとって気候変動が経営課題の一部であると日常的に意識づけることです。社内外の専門家による定期的な講義や報告も有効でしょう。

気候対応の担当者は誰が適任でしょうか?

経営陣レベルでの責任者としては、環境分野に知見のある役員が望ましいです。多くの企業では CSO (Chief Sustainability Officer) や環境担当役員を任命しています。ただし専任を置けない場合、CFOや経営企画担当役員が統括責任を負うケースもあります。重要なのは各部門を横断して調整できる権限と影響力を持つ人物を指名することです。担当役員の下に実務担当のサステナビリティ推進室を置き、そこでリスク分析やデータ収集を行い、役員会にレポートアップする体制を構築すると効果的です。

既存のリスク管理にどう統合すれば良いですか?

まず現在のリスク管理プロセス の中で気候変動が考慮されていない部分を洗い出します。リスク評価手順書やリスク一覧に気候の項目がなければ追記し、社内のリスク評価ワークショップに気候シナリオを組み込みます。また、事業戦略検討や投資判断のフローにおいて気候リスク欄を設けることも有効です。さらに、主要リスク指標 (KRI) に気候関連の数値(例えば炭素価格が1トン当たり100ドルに達した場合のコスト増加額など)を設定し、定期モニタリング対象に加えます。既存の ERMツールやリスクダッシュボードに気候リスク情報を追加すれば、他のリスクと一元管理できます。最後に、統合状況を社内監査や外部のアシュアランスで点検し、継続的に改善することも大切です。

TCFD 章解説

TCFD全体の枠組みや他の要素 (シナリオ分析・財務影響算定・指標と目標)との関係については、親記事で包括的に解説していますので併せてご参照ください。

TCFD まとめ

ガバナンス・リスク管理の充実は、TCFD対応の成否を左右すると言っても過言ではありません。経営トップが率先して気候変動リスクの重要性を認識し、全社的な管理体制を敷くことで、企業は未知の気候リスクにも柔軟に対処できるようになります。取締役会での監督と経営陣の積極的な関与により、気候課題は単なる環境施策に留まらず経営戦略の一部となります。その結果、情報開示の質が高まり、投資家や取引先からの信頼も向上するでしょう。気候変動対応は一朝一夕には成し得ませんが、まずはガバナンスとリスク管理という基盤を強固にすることが、持続可能な経営への第一歩です。

参考リンク

あわせて読みたい
【第三者保証 実務】短期間で実施するリスク低減と企業価値向上セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が開催する本セミナーは、温室効果ガス(GHG)排出量をはじめとする非財務情報の信頼性を高める...

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

目次