【PPA】PPAの全体解説と企業向け活用方法

Power Purchase Agreement (PPA)とは、企業や自治体などの法人が発電事業者から再生可能エネルギー由来の電力を長期にわたり購入する契約のことです。電力購入契約を意味するPPAを活用することで、需要家は自社で発電設備を持たずに再生可能エネルギーを調達でき、長期固定価格で電力を確保するメリットがあります。近年、太陽光や風力発電のコスト低下によりこうしたコーポレートPPAが世界的に活発化し、大手企業を中心に導入が進んでいます。日本でも2020年代に入り、脱炭素経営を目指す企業が相次いでPPA契約を締結し始めており、オンサイトPPAやオフサイトPPAなど様々な形態での事例が増えてきました。本記事では、PPA契約の仕組みやプロセス、種類ごとの特徴、導入のメリット・リスク、そして法的な留意点について解説します。

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目次

1.PPA契約の仕組み

PPA契約は、発電事業者と需要家との間で電力を売買する長期契約です。その基本的な仕組みとして、需要家は設備の初期投資を負担せず、発電事業者が設置・運用する再エネ設備から供給される電力を契約期間中に購入します。需要家は月々の電気料金を支払うことで再生可能エネルギーを利用でき、設備の維持管理は発電事業者側が担います。契約期間中の電力単価はあらかじめ取り決められており、一般に10~20年以上の長期にわたって固定もしくは安定した価格で供給されます。これにより需要家はエネルギーコストの見通しを立てやすく、価格変動リスクの低減につながります。

PPA契約のプロセス

まず需要家が自社の電力需要や再エネ導入目標に基づきPPA事業者候補と協議を行います。発電事業者との間で電力量や設置条件、契約期間・料金などについてヒアリングと提案を重ね、双方で契約条件の合意に向けた交渉が行われます。契約条件では、例えば供給する再エネ電力の年間想定量、電力料金の算定方式)、契約期間中の料金調整条項、トラブル時の対応などを明確にします。合意に至れば契約を締結し、その後発電設備の設置工事や系統接続準備が進められます。設備完成後、テスト運転を経て商用運転が開始され、需要家への電力供給がスタートします。運用開始後は、発電事業者が設備の遠隔監視や定期メンテナンスを行い、発電量の確保と安定供給に努めます。需要家は契約に従い電力料金を支払い、再エネ電力の利用による脱炭素効果を得ることができます。

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2.PPAの種類ごとの特徴と企業での活用方法

PPA契約には主に「オンサイトPPA」「オフサイトPPA」および「バーチャルPPA」の種類があります。それぞれ導入形態やメリットが異なり、企業は自社の状況に応じて適切なタイプを選択します。

オンサイトPPA

需要家の施設内や屋根上に発電事業者が太陽光発電設備等を設置し、そこで発電した電力を直接その施設で供給する形態です。送配電網を経由せず構内で電力を供給するため、小売電気事業者を介さずに契約可能であり、託送料金もかかりません。需要家にとっては初期費用ゼロで自社施設に再エネ電力を導入できるメリットが大きく、屋根や遊休地の有効活用にもつながります。日本国内でも商業施設の屋根を活用した例など多数の実績があり、工場や大学キャンパスでの導入事例も増えています。

オフサイトPPA

需要家の敷地外にある発電所から電力を供給する形態で、発電設備と需要地が離れている場合に用いられます。日本では法規制上、発電所から一般の送配電網を通じて需要家に電気を届けるには小売電気事業者を介するのが原則であり、このモデルでは需要家・発電事業者間に小売事業者が入る「間接型オフサイトPPA」が一般的です。需要家は小売事業者との契約を通じて特定の再エネ電源からの電力供給を受ける形となり、実質的にPPAと同等の効果を得ます。

たとえば不動産業のヒューリックは、自社グループ内の小売電気事業者を介して埼玉県の発電所で生み出された太陽光電力を東京本社ビルで利用するフィジカルPPAを国内で初めて実現しました。このスキームではグループ会社が小売事業者となることで中間コストを抑えつつ、長期固定価格での電力調達と非FIT電源の開発を両立しています。なお、2021年の制度改正により発電事業者と需要家が協同組合を組成する等の条件下では、送配電網を介した直接契約も一部可能となりました。一般には前述の間接型が主流です。オフサイトPPAは自社で大規模発電所を保有せずとも遠隔地の大規模再エネ電源の電力を調達できるため、需要電力量の大きい製造業や鉄道・IT企業などで活用が広がっています。

引用:https://www.tepco.co.jp/rp/about/company/press-information/press/2025/pdf/250331j0101.pdf

バーチャルPPA(仮想型PPA)

実際の電力供給を伴わず、発電事業者と需要家が電力の売買契約と価格保証契約を結ぶ手法です。発電事業者は再エネ電力を市場や小売電気事業者に売電し、需要家は通常どおり電力会社から電気を購入しますが、契約によって両者はあらかじめ定めた電力価格で精算を行います。同時に、発電事業者から需要家へ非化石証書など環境価値の移転が行われ、需要家は再生可能エネルギー利用分の環境価値を取得します。この方式では物理的な電力のやり取りがないため場所の制約が小さく、海外では複数拠点にまたがる企業が安価な地域の電源と契約するケースもあります。日本ではバーチャルPPAは始まったばかりですが、村田製作所が三菱商事と非FIT新設太陽光からの環境価値(非FIT非化石証書)を購入する契約を結ぶなど先行事例が登場しています。バーチャルPPAは電力需要地と発電地が離れていても追加的な再エネ導入を支援できる点で、今後国内でもRE100達成を目指す企業を中心に活用が期待されています。

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3.PPA導入のメリットとリスク

PPA契約を導入することで、企業はエネルギー調達や環境対応面で多くの利点を得られます。第一に、長期固定価格で電力を購入できるため、燃料費や市場価格の変動に左右されず電力コストの安定化が図れます。電力コストを予測可能にすることで、中長期の事業計画が立てやすくなる経済的メリットがあります。第二に、初期投資無しで再エネ設備を導入できる点も重要です。設備資金を自社で負担せずに済むため、資金を本業へ振り向けつつ脱炭素化を実現できます。第三に、再生可能エネルギーの利用により自社の温室効果ガス排出削減に貢献でき、環境目標の達成に寄与します。これは企業のCSRやESG評価向上にもつながり、ステークホルダーや顧客からの信頼強化、ブランド価値向上という効果も期待できます。さらに、新規の再エネ発電所と契約する場合、追加的な自然エネルギー設備の開発を後押しすることにもなり、社会全体の脱炭素化に寄与する点も付随的メリットと言えます。

リスク・留意点

一方、PPA導入にはいくつかのリスクや課題も存在します。第一に、再エネ特有の発電量変動リスクです。太陽光・風力は天候の影響を受けやすく、想定を下回る場合には、不足分を別途調達する必要が生じる可能性があります。また、出力抑制のリスクにも留意が必要です。第二に、長期契約に伴う需要変動リスクがあります。契約期間中に事業縮小などで需要が減少しても購入義務が残る一方、需要増加時も柔軟な契約見直しが難しい点が課題です。第三に、価格競争リスクです。将来、市場価格の低下や技術進展により、PPA料金が割高となる可能性があります。特にバーチャルPPAでは、市場価格下落時に差額負担が増えるリスクがあります。第四に、発電事業者の信用リスクも重要です。供給停止などに備え、事業者の信頼性確認や契約条件の精査が不可欠です。加えて、オンサイトPPAでは、設備設置によるスペース占有が将来の建物利用に影響する可能性も考慮する必要があります。

以上のようなリスクは、契約時の条項設定や保険の活用、不測時の柔軟な調整メカニズムの構築によって軽減が図れます。メリットとリスクの両面を踏まえ、十分な事前検討と社内合意のもとでPPA導入を進めることが肝要です。

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4.PPA契約の法的留意点と規制対応のポイント

法規制(電気事業法)とスキーム上の制約

日本でPPAを導入する際は、まず電気事業法上「需要家へ直接供給できるのは原則として小売電気事業者」という制約を押さえる必要があります。このためオフサイトPPAは需要家と発電事業者の直接契約が基本的に難しく、通常は小売電気事業者を介したスキームになります。

一方で例外として、同一構内での供給は小売許可が不要とされる場合があります。また、制度改正により自己託送の要件が拡充され、資本関係や組合等を通じた「密接な関係」があるケースでは、送配電網経由でも直接融通できる余地が広がりました。ただし供給先が限定されるなど制約があり、一般的なPPAは依然として小売経由が主流です。

契約実務(長期契約・環境価値・制度変更リスク)

PPAは長期契約のため、途中解約・条件変更・不可抗力時の扱い(ペナルティや措置)を契約で明確化しておくことが重要です。加えて、再エネの環境価値の取り扱いも要点です。FIT電源は環境価値が国に帰属するためPPAに不向きで、一般に非FIT/FIP電源を用いて需要家が非化石証書等を取得し、再エネ利用実績として報告できる形を整えます。契約書には環境価値の移転方法を明記し、需要家側で確実に証明を得られるようにします。

さらに、電気事業法や再エネ特措法(FIT/FIP法)などの制度変更リスクもあるため、政策動向を注視しつつ、必要に応じて見直し条項・追加条項で対応できる設計にしておくと安心です。

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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