【PPA】PPA導入のメリットとリスクを考察する

企業がPPA契約を導入する際には、得られるメリットと注意すべきリスクの両面を十分に理解しておくことが重要です。PPAは再生可能エネルギー電力の調達手段として多くの利点をもたらしますが、その一方で需要家にとって無視できないリスク要因も存在します。以下では、PPA導入による主なメリットと想定されるリスクについて、それぞれ詳しく考察します。

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目次

1.PPA導入のメリット

PPA契約の導入によって企業が享受できるメリットは大きく分けて「経済的メリット」「環境面・持続可能性のメリット」「企業価値向上のメリット」の3点に整理できます。

経済的メリット(コスト安定化・削減)

 PPA契約最大のメリットは、長期にわたり電力コストを安定化できる点です。契約期間中は燃料費や市場電力価格の変動に左右されず、一定または予見可能な価格で電力を調達できるため、エネルギーコストの計画が立てやすくなります。特に電力価格が高騰傾向にある場合、PPAによる固定価格契約は将来のコスト上昇リスクから企業を守る「ヘッジ」となります。また、多くの場合PPAモデルでは需要家が発電設備を所有しないため初期投資が不要であり、設備購入に伴う資本的支出(CAPEX)を回避できます。その分の資金を本業投資に充当できる経営上の柔軟性も得られます。さらにオンサイトPPAの場合、発電設備が構内にあることで電力の託送料金がかからず、購入電力量単価を抑えることができます。実際、イオンのオンサイトPPA事例では設備導入費ゼロに加え託送料不要で、従来比で経済的負担が軽減されています。このようにPPAは長期の電力調達コストを平準化・削減する有効な手段となります。

環境・持続可能性のメリット

PPA導入により企業は再生可能エネルギー電力を直接調達できるため、自社の温室効果ガス排出削減に大きく貢献できます。購入電力を再エネに切り替えることで、Scope2の大幅な低減が期待でき、気候変動対策の面でリーダーシップを示すことが可能です。特に、PPA契約を通じて新規に再エネ発電設備を建設する場合、発電所の新設分だけ化石燃料発電の代替が進むため追加性のある温室効果ガス削減につながります。これは環境貢献の観点で重要で、単に既存の再エネ電力を購入するよりも社会全体の排出削減効果が高いと言えます。また再エネ利用拡大はSDGsやESG投資の観点から企業の持続可能性戦略の柱となります。PPA導入により、自社のサプライチェーン全体で再エネ比率を高め、将来的なカーボンプライシングリスクにも備えることができます。さらに、一部のケースではオンサイトPPA設備に蓄電池等を組み合わせることで、非常時のバックアップ電源やレジリエンス向上といった付随的メリットも得られます。総じて、PPAは企業の脱炭素目標達成と環境負荷低減に直結する手段となります。

企業価値・ブランド向上のメリット

PPAを活用した再エネ調達は、企業の社会的責任(CSR)やブランド価値の向上にも寄与します。自社事業で使用する電力を再エネに転換することは、ステークホルダーへの強いコミットメントの表明となります。例えばRE100への加盟企業にとって、PPAは目標達成の要となる手段であり、実際にPPA契約締結を発表することで企業姿勢をアピールできます。環境意識の高い消費者からは、製品やサービスにクリーンなエネルギーを使用している企業として評価され、ブランドイメージ向上につながります。投資家の間でもESG重視の流れが強まっており、再エネ活用は企業評価のプラス要因です。さらには、PPAを通じて将来のカーボンコスト増への耐性を高めていることは、中長期的な経営安定性としてアピールできます。このように、PPAによる脱炭素経営の推進は企業価値全般の向上に寄与するのです。

2.PPA導入のリスクと課題

一方、PPA契約には需要家側が認識しておくべきリスクや課題も存在します。主なリスク要因をカテゴリ別に整理すると以下の通りです。

発電量変動リスク

再生可能エネルギーは天候等により発電量が不確実であり、計画発電量を下回る可能性があります。太陽光発電なら日照不足や季節変動、風力なら風況によって出力が変動するため、需要家は不足時に他電源で補う必要が生じます。オンサイトPPAでは自家消費予定だった電力が得られない場合、不足分を電力会社から調達せざるを得ず、市場価格高騰時にはコスト増要因となります。また日本では出力抑制もリスクです。特にオフサイトPPAで遠隔地の太陽光・風力電源を利用する場合、系統の制約により発電事業者が出力抑制を受け、想定電力量が供給されない可能性があります。この発電量リスクは契約上は需要家が負担するケースが多いため、十分な余裕を見た計画と、必要に応じた予備電源確保が求められます。

電力価格変動リスク

長期契約で固定価格を結んだ場合、市場価格の変動次第では契約価格が割高になる可能性があります。例えば将来予想以上に電力市場価格が低下した場合、需要家は市場より高い単価で電力を買い続けることになり、機会損失が発生します。逆にバーチャルPPAのように市場価格と連動して差額決済する契約では、市場価格が低迷すると需要家から発電事業者への支払額が増大しコスト増となります。つまり、固定価格型では「価格低下による割高リスク」、市場連動型では「価格上昇による節約効果減少リスク」をそれぞれ抱えます。どちらにせよ、契約期間中のエネルギー市場の変動は予測が困難なため、価格面での不確実性を織り込んでおく必要があります。契約によっては一定期間ごとに価格をリセットしたり上限下限を設ける仕組みでリスク緩和を図る場合もあります。

長期需要変動リスク

PPA契約は通常10~20年の長期に及ぶため、その間の需要家自身の事業変化もリスクとなり得ます。例えば事業縮小や工場閉鎖などで電力需要が大幅に減少した場合でも、契約上は約定量の電力購入義務が残ることがあります。需要家が使いきれない余剰電力が発生しても、途中解約や契約量削減が困難だとコストの無駄が生じます。また逆に事業拡大で電力需要が増えた際、契約量以上の電力を追加調達する必要があり、PPAだけでは需要を満たせなくなるケースも考えられます。いずれにせよ需要見通しと契約量のミスマッチが起きるリスクを念頭に置き、契約時に柔軟性を持たせることや、無理のない契約量設定が重要です。

カウンターパーティリスク

PPA契約の相手方である発電事業者や小売電気事業者の信用力・運営状況もリスク要因です。発電事業者が経営破綻したり、資金難で発電所建設が遅延・中止となれば、需要家は計画していた電力供給を受けられなくなります。また運転開始後でも、発電設備の重大故障やメンテナンス不備による長期停止などにより、供給計画が崩れる可能性があります。需要家側では事前に事業者の実績や財務健全性、運用体制を十分精査し、信頼できる相手と契約することが肝要です。加えて契約書に万一相手方が債務不履行に陥った場合の対処を明記し、被害を最小限に抑える条項を組み込むべきです。

政策・制度変更リスク

再エネや電力市場を取り巻く制度が変化するリスクもあります。例えば政府の補助金制度変更や非化石証書制度の改定、電力の規制緩和/強化などにより、契約採算性が影響を受ける可能性があります。最近ではFITからFIPへの移行や、自己託送制度の拡充など、企業の再エネ調達に影響を与える政策変更が相次いでいます。こうした制度変更は基本的に需要家側でコントロール不能なリスクですが、契約上で「制度変更が及ぼす影響について協議し必要な契約修正を行う」旨の条項を設けておくなどの対応が考えられます。また常に最新の政策動向をウォッチし、必要に応じ契約内容を見直す姿勢も重要です。

まとめ

以上、PPA導入に伴う主要なリスクを挙げました。もっとも、こうしたリスクは適切な契約設計や事前対策によって軽減可能です。例えば、発電量リスクに備えて余裕ある契約容量設定や追加電源確保策を講じる、価格変動リスクに対して上限価格条項やヘッジ手段を取り入れる、需要変動リスクに備えて柔軟な契約変更条項を盛り込む、といった工夫が考えられます。また、信頼性の高いパートナー選びや契約前のデューデリジェンス徹底は言うまでもなく重要です。PPAのメリットを最大化しつつリスクを最小化するため、企業としてはリスク要因を十分認識した上で対策を講じ、慎重に契約交渉・運用管理を行っていく必要があります。

引用元
自然エネルギー財団
https://www.renewable-ei.org

オフサイトコーポレートPPAについて
https://www.env.go.jp/earth/off-site%20corporate.pdf

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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