【PPA】PPAの種類ごとの特徴と企業での活用方法

一口にPPA契約といっても、その形態にはいくつかの種類があります。発電設備の設置場所や契約方式の違いにより、主に「オンサイトPPA」「オフサイトPPA」そして「バーチャルPPA」の3つに大別されます。それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なり、企業は自社の状況や目的に応じて最適な手法を選択しています。本記事では、各PPAタイプの仕組みと特徴、および企業での具体的な活用事例について解説します。

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目次

1.オンサイトPPAの特徴と活用

オンサイトPPAとは、需要家の敷地内に発電事業者が再エネ設備(多くは太陽光発電)を設置し、発電した電力をその需要家に直接供給する契約形態です。発電設備が需要家の構内にあるため、発電事業者から需要家への電気供給に送配電ネットワークを利用しません。このため、日本の電気事業法上も、小売電気事業者の仲介や特別な許可を必要とせずに実施できます。需要家は自社施設で発電された再エネ電力をそのまま利用でき、不足分のみ通常の電力会社から購入する形となります。

メリット・デメリット

オンサイトPPAの利点は何と言っても需要家側の初期投資負担がゼロである点です。建物の屋根や遊休地を提供するだけで、発電設備の設置・運用は事業者側が行うため、設備購入資金を用意する必要がありません。また発電設備が近接しているため送電ロスがほとんどなく、託送料金も不要で経済的です。さらに再エネ導入による温室効果ガス削減を自社の実績として直接訴求できるメリットもあります。一方で、需要家の敷地内に十分な設置スペースが無い場合は導入が困難な点が制約です。例えばビル街のオフィスでは大規模設備を置く場所が確保できず、オンサイトだけでは必要量の電力を賄えないケースもあります。また、契約期間中は屋根等のスペースが占有されるため、将来の建物改修や用途変更に影響を及ぼすリスクもあります。

企業での活用例

オンサイトPPAは主に、広い屋根面積や用地を持つ工場・流通施設・大学キャンパスなどで盛んに導入されています。例えば流通業界大手のイオンは、商業施設の屋上を活用してオンサイトPPAを導入し、2019年に滋賀県のショッピングセンター「イオンタウン湖南」で約1MWの太陽光発電設備をPPAにより設置しました。発電した電力は施設内で消費され、同社は脱炭素経営の一環として初期費用ゼロで再エネ電力利用を開始しています。他にも、DMG森精機やプロテリアルといった製造業が自社工場にオンサイトPPAでメガソーラーを導入する例や、大学キャンパスでのカーポート型太陽光導入例など、オンサイト型は全国各地で広がっています。

引用:https://www.aeon.info/wp-content/uploads/news/pdf/2019/04/190418R_1_1.pdf

2.オフサイトPPA(フィジカルPPA)の特徴と活用

オフサイトPPAとは、需要家の所在地とは別の場所に設置された再エネ発電所から電力を調達する契約形態です。需要家と発電所が離れているため、発電電力は送配電網を介して需要家に届けられます。日本では電力供給網を使って第三者に電気を販売するには小売電気事業者の役割が必要なため、一般に発電事業者と需要家の二者だけで直接契約することはできません。そこで実際のオフサイトPPAでは、小売電気事業者が仲介に入った間接型オフサイトPPAの形を取ります。この場合、需要家は特定の再エネ電源と連動した電力メニューを小売事業者から購入する形態になります。小売事業者は発電事業者との間で長期購入契約を結び、再エネ電力を調達して需要家に供給します。結果として、需要家-小売-発電事業者の三者間で実質的にPPAと同等の契約関係が構築されます。

直接型オフサイトPPA

なお例外的に、発電事業者と需要家が直接電力契約を結ぶ直接型オフサイトPPA(小売事業者不介在)も、一部のスキームで可能です。例えば発電事業者と需要家が共同出資する協同組合を組成し、その組合が発電した電力を構成員である需要家に送配電網経由で届ける「自己託送」の仕組みを使えば、実質的に直接契約が可能になります。ただしこの場合も供給先は資本関係等で「密接な関係」にある需要家に限られ、一般的な第三者への電力販売には適用できません。現状では、大多数のオフサイトPPAは小売事業者を介した間接型で実施されています。

メリット・デメリット

オフサイトPPAの最大の利点は、需要家の敷地条件に縛られず大規模な再エネ電源を活用できることです。自社では設置困難な大容量の太陽光・風力発電所から電力を調達できるため、使用電力量が多い企業でも再エネ比率を大幅に高められます。また発電コストが低い地域の電源を選ぶことで、長期的に割安な価格で電力を確保できる可能性もあります。一方デメリットとしては、送配電網の利用に伴う託送料金や系統制約の影響を受ける点が挙げられます。系統混雑による出力抑制リスクや、送電ロス分も踏まえた契約設計が必要です。また間接型では小売事業者のマージンも含まれるため、オンサイトに比べコスト高となる傾向があります。さらに契約や調整に関与する主体が三者に増える分、スキームが複雑化し事務手続きも煩雑になります。さらに、2024年度からは送配電網の新たな費用負担として発電側課金や容量拠出金も導入されており、契約電力の価格設定にこうした追加コストを織り込む必要があります。

企業での活用例

オフサイトPPAは、電力需要の大きい製造業・鉄道・データセンター運営企業などで採用が広がっています。都市部のビルに電源を置けない不動産企業も、地方の太陽光・風力発電所と契約するケースがあります。例として、不動産業のヒューリックは2020年、埼玉県に新設したメガソーラー(1MW超)で発電した電力を東京の自社ビルで利用するフィジカルPPA契約を締結しました。同社は子会社を小売電気事業者として立てることで、発電事業者とグループ内小売を介した長期契約を実現しています。また、小売業界ではセブン-イレブンが北陸電力グループと提携し、同社店舗向けに北陸地方の太陽光発電所から再エネ電力を供給するオフサイトPPAを進めています。さらに、製造業のジェイテクトが中部電力ミライズと3.6MW規模の太陽光PPA契約を結ぶなど、電力会社の新電力子会社と需要家企業が組んだ地域分散型の事例も増えてきました。オフサイトPPAはこのように多様な業種で活用が進んでおり、特に2023年以降その契約容量が急増しています。

引用:https://www.tepco.co.jp/rp/about/company/press-information/press/2025/pdf/250331j0101.pdf

引用:https://sustainability.sej.co.jp/news/000330/

3.バーチャルPPAの特徴と活用

バーチャルPPAとは、物理的な電力の受給を伴わず、発電事業者と需要家が金融的な契約を結ぶ手法です。需要家は実際の電力は従来通り地元の電力会社から購入しますが、別途発電事業者との間で「あらかじめ取り決めた価格で一定量の電力を売買したものとみなす」契約を結びます。具体的には、発電事業者が市場に売電した再エネ電力の実際の売価と、需要家との契約で定めた仮想的な電力価格との差額を、双方で精算し合う形です。例えば契約価格を10円/kWhと設定し、市場価格が8円/kWhだった場合は需要家が差額2円/kWhを発電事業者に支払い、市場価格が12円/kWhなら発電事業者が2円/kWhを需要家に支払います。これにより、発電事業者は固定価格相当の収入を得て新規設備の投資採算性を確保し、需要家は再エネ電力を購入したのと同等の経済効果を得ます。また、この契約には再エネの環境価値の譲渡も組み込まれており、需要家は発電事業者が創出した環境価値を取得して自社の再エネ利用としてカウントできます。

メリット・デメリット

バーチャルPPAのメリットは、地理的制約を超えて再エネ調達が可能な点です。発電所と需要家が異なる国や電力系統上であっても契約可能で、需要家は最適な条件の発電プロジェクトを選択できます。また物理的な電力供給ルートを変更しないため、電力の安定供給を担保しつつ追加的に再エネ投資を支援できる手法とも言えます。契約手続きも基本的に二者間で完結するため、物理PPAに比べ柔軟性があります。一方で、デリバティブ取引特有の複雑さがあります。電力市場価格との清算による損益変動リスクが需要家側にも生じ、市場価格が大きく低下すると需要家から発電事業者への支払額が増大しコスト増となる可能性があります。また、契約した再エネ発電所の電力が実際には自社拠点に届いていないため、社内外にその効果を説明する際には環境価値証書による裏付けが重要です。会計上もデリバティブ取引としての扱いや報告が必要になる場合があり、財務部門との連携が欠かせません。

企業での活用例

バーチャルPPAは欧米のグローバル企業で盛んに利用されています。日本国内ではまだ事例が少ないものの、先進的な企業が動き始めています。電子部品大手の村田製作所は2022年、商社の三菱商事とバーチャルPPA契約を締結し、同社が新設する太陽光発電所由来の非FIT非化石証書(環境価値)を2025年度までに7万kW分購入する計画を発表しました。この契約により村田製作所は、自社工場で使用する電力の一部を実質再エネ化するとともに、蓄電池を活用した調整力サービスにも参画する方針です。また、IT大手のGoogleは日本国内で40MW規模および20MW規模のバーチャルPPA契約を結んでおり、自社のデータセンター向けに再エネ電力相当分の環境価値を確保しています。今後、日本でもRE100を掲げる企業を中心にバーチャルPPAの採用が拡大すると見込まれています。

4.企業におけるPPA形態選択のポイント

ここまで紹介したように、オンサイトPPA・オフサイトPPA・バーチャルPPAそれぞれに長所と留意点があります。企業が自社に適した形態を選ぶ際には、以下のポイントを考慮するとよいでしょう。

設置スペースと電力需要規模

自社施設に十分な空き屋根や用地があり、中規模程度の電力需要を賄えるならオンサイトPPAが有力です。一方、需要が非常に大きくオンサイトだけでは賄えない場合は、オフサイトPPAで遠隔地の大型電源を組み合わせることが必要です。

電力調達の柔軟性

特定エリアの電源に依存せず柔軟に調達したい場合や、海外拠点を一括して賄いたい場合にはバーチャルPPAが適しています。バーチャル型なら地域を跨いだ契約や複数国での包括契約も可能なため、グローバル企業に向いています。

法規制対応

日本国内では、オンサイトPPAは比較的簡易に実施できますが、オフサイトPPAは小売事業者との連携スキームが必要です。自社が許認可取得や電力事業への参画に前向きであれば、自社グループ内で小売事業者を立ち上げフィジカルPPAを行う道もあります。難しい場合は、既存の新電力や大手電力会社の提供するPPAメニューを活用するのが現実的です。

コストとリスクの許容度

PPAにより得られる電力単価やコストメリットは案件により様々です。初期費用ゼロでも、長期的な総コストで見て自家設置に劣る場合もあるため、複数案での試算が必要です。また、市場価格リスクをどこまで許容できるかで、固定価格型のフィジカルPPAか、市場連動型のバーチャルPPAかの選択も変わります。

企業のRE戦略

自社の再エネ導入戦略(例えば「2030年までに50%再エネ化」など)の目標値やスケジュールも影響します。迅速に大規模導入したい場合はオフサイトPPA併用、徐々に進めるならまずオンサイトから着手、といった段階的アプローチも有効です。複数の契約形態を組み合わせてポートフォリオを構築する先進企業も登場しています。

いずれの方法を採用するにせよ、企業としては信頼できるパートナー選びと周到な契約設計が重要です。各PPA形態の特徴を踏まえて自社に最適なモデルを選択し、再生可能エネルギー調達を効果的に進めていくことが求められます。

引用元
自然エネルギー財団

https://www.renewable-ei.org

オフサイトコーポレートPPAについて
https://www.env.go.jp/earth/off-site%20corporate.pdf

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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