【環境データ】資源消費・原材料使用量の第三者保証

製品の製造過程で投入される原材料の使用量や資源消費量(重量ベースの原料投入総量、リサイクル素材の使用率、包装材使用量など)は、循環型経済の観点から企業が注目・開示する環境データです。これらのデータに第三者保証を付与することで、計測・集計方法の妥当性が担保され、サプライチェーンを含む資源効率の取り組みを信頼性高く示すことが可能となります。本記事では、資源消費・原材料使用データの概要、測定上の課題、第三者保証の意義、適用基準、国内企業の事例、将来展望について論じます。

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目次

1. 資源消費・原材料使用量データの概要

原材料使用量とは、製品やサービスの提供に直接使用された原材料・部品・半製品などの総使用量を指し、通常は重量(トンなど)で表されます。例えば製造業では一年間に購入・使用した鉄鋼やプラスチック、ガラスなど素材の重量を集計し、公表する場合があります。資源消費量という場合には、エネルギー・水以外の各種資源、例えば金属鉱物や化石燃料由来資材、化学物質、木材、紙などの使用量を含む広い概念として用いられることも多いです。

リサイクル素材の利用率や再生原料比率

これらに関連してリサイクル素材の利用率や再生原料比率も重要な指標です。例えば「製品中に占める再生プラスチックの割合○%」や「原材料のうち再生紙パルプの割合○%」など、循環利用の程度を表すデータです。また包装材使用量も資源消費の一項目として注目されており、特に消費財メーカーなどでは年間の包装材(段ボール、プラスチック包装)の使用重量や、それに占めるリサイクル材の割合等を報告します。

さらに、最近では資源生産性(製品1単位あたりの原材料使用量の逆数として算出)や循環利用率(事業活動で使う資源のうちリサイクルで賄った割合)といった指標も提唱されています。例えばブリヂストンは売上高あたりの原材料使用量から資源生産性を算出し、公表しています。これらの資源系指標は、気候変動対策と並ぶ「循環経済」推進の成果を示すものであり、第三者からの信頼確保が求められる分野です。

2. 測定・報告上の課題と不確実性

資源消費・原材料使用データの測定・報告における課題として、第一にサプライチェーン範囲の設定が挙げられます。自社工場内で実際に投入した原材料量を把握することは比較的容易ですが、製品に組み込まれた部品・半製品の製造段階まで遡るとなると、自社では直接管理できないデータが発生します。そのため報告範囲を自社使用分に限定するのか、サプライヤーから購入した全重量を含めるのかで対応が分かれます。典型的には購買管理システム上の購入重量データを集計して原材料使用量としますが、この場合社内生産と外注生産の違いなどで統計上のブレが生じる可能性があります。

素材カテゴリーの分類と集計

第二に、素材カテゴリーの分類と集計です。鉄、アルミ、プラスチック、紙といった大分類で報告する企業もあれば、「鉄(うち再生スクラップ○%)」「プラスチック(バージン樹脂○トン、再生樹脂○トン)」のように詳細に開示する企業もあります。分類粒度によってデータ収集の手間は大きく変わり、また分類基準も曖昧になりやすいです。例えば「プラスチック」には熱可塑性樹脂だけ含めるのか、熱硬化性も含めるのか、添加剤は除くのか等、統一的なルールが必要となります。

リサイクル素材利用率

リサイクル素材利用率の算定にも困難が伴います。製品や材料の中にどれだけ再生材が入っているかは、仕入れ先からの申告や製造記録に頼る部分が大きいです。サプライヤーが各ロットに再生材含有率を報告していなければ、年間平均値を推定するしかないですし、「再生可能資源」(バイオ由来など)と「再生資源」(リサイクル由来)を区別するか否かなど、指標定義の違いもデータの互換性に影響します。

包装材使用量では、製品1単位あたりの標準包装から総使用量を逆算するケースも多く、実測ではなく設計値ベースゆえの誤差が生じます。さらに、出荷量の変動や梱包仕様変更による影響を補正する必要があるが、実態把握が難しいことも課題です。

在庫変動や歩留まり

不確実性要因としては、在庫変動や歩留まりの扱いも挙げられます。年初と年末で原材料在庫量が大きく異なる場合、単純購買量集計では実使用量とズレが出ます。また、仕掛品や廃棄ロスが出た場合、購入量=製品化量ではなくなりますし、これらをどうデータ上で調整するかは各社で対応が異なる可能性が高いです。

3. 第三者保証の意義

資源消費・原材料使用量データに第三者保証を付与することは、企業の循環型社会への取り組み実績を信頼性高く示す上で大きな意義を持ちます。まず、保証人が入ることでデータ定義と範囲が明確化されます。保証プロセスでは、「原材料使用量に社外調達部品は含むか」「再生資源利用率の算出方法は何か」等、細部まで質問・検証が行われます。その結果、企業側も報告定義を再点検・明示することになり、読み手にとって分かりやすい開示につながります。

データ取集プロセスの検証

また、データ収集プロセスの検証により、情報源の信頼性が担保される。例えば原材料購入量であれば購買台帳や受入検収記録をサンプリングし、計上漏れや誤記録がないか確認します。再生材利用率であれば、サプライヤーからの成分証明書や社内配合レシピをチェックし、主観的な過大評価がないか検証します。これにより、企業が発表する「当社の原材料○万トンのうち再生材○%使用」というデータにも客観的なお墨付きが与えられることになります。

改善機会の発見

保証人はデータのばらつきや異常値に着目するため、例えば「ある工場だけ原材料使用量あたりの製品生産量比率が極端に低い(ロスが多い)のはなぜか」といった点が浮き彫りになる可能性があります。企業はそれを契機に歩留まり改善やデータ精査を行い、結果的に資源効率向上につなげることができます。ブリヂストンは保証付きデータとして資源生産性や再生資源比率をトラッキングしており、第三者保証を通じてそれら指標の信頼性と社内認識が高まったと考えられます。

さらにステークホルダーに対する説明責任の果たし方が強化されます。大量の資源を消費する業界では、資源制約や廃棄物問題への懸念から投資家も注目する指標です。保証付きであれば、投資家や評価機関は安心して企業間比較や進捗評価を行えます。例えば「ある企業は再生プラスチック利用率50%と公表しているが、保証取得済みでありデータ信頼性が高い」と評価されれば、その企業の循環経済貢献度にポジティブな評価が繋がります。

4. 採用される保証基準と枠組み

資源消費・原材料使用データに対する保証も、基本的にはISAE 3000に準拠して実施されます。保証人(独立監査法人や認証機関)は、対象データが企業の報告基準や国際ガイドラインに沿って適正に算出・表示されているかを検証します。

GRI 301

GRI301-1では使用した原材料の重量(一次原料と再生原料の別を含む)の開示を求め、301-2ではリサイクル素材の投入比率を開示することになっていますので、多くの企業がこちらに従ってこれら数値を報告しており、第三者保証でも定義通りにデータが作成されているか確認されます。

たとえば、「原材料使用量5,000千トン(GRI301-1)」と報告している場合、保証人はその中身が自社内で使用した重量のみか、売却した材料も含むのか、在庫はどう扱ったかといった細部をヒアリングし、GRIの趣旨に沿っているか判断します。また301-2の再生原料比率については、分子(再生原料重量)と分母(総原料重量)の取り方がGRI基準と一致しているか(再生可能資源を含めるか否か等)照合するイメージです。

ISO 14051・ISO18604

ISO 14051(マテリアルフローコスト会計)など資源投入と廃棄ロスを見える化する手法や、ISO 18604(包装材のリサイクル性評価)など関連指標は存在します。もっとも、これらは報告指標というより社内管理手法であるため、第三者保証では参考情報として扱われる程度です。

むしろ、製品環境宣言の枠組み(EPD)やカーボンフットプリント算定では、製品あたり原材料使用量データが活用され、その文脈で第三者検証されることがあります。例えば建材メーカーがEPD取得する際、製品1単位あたりの原材料投入量や再生材割合をLCA手法で算出し、第三者検証に付します。これは製品別ではありますが、企業全体の原材料データ精度向上にも直結します。EPDではISO 14025の下、LCA計算とデータが検証されるため、間接的に資源使用データ保証の役割を果たします。

5. 日本企業の事例と保証機関

日本企業では、ブリヂストンが資源系データの第三者保証の先行事例と言えます。同社はESGデータで「原材料使用量」「再生資源由来原材料の比率」などを報告し、2024年3月期データについて第三者保証を取得しました。具体的には、2023年の原材料使用量3,969千トンや再生資源比率39.6%といった数値に★マークを付し、第三者保証済みであると注記しています。

紙パルプ業種や食品飲料業種

資源循環に積極的な企業も保証取得に動いています。例えば紙パルプ業界や食品・飲料業界では、包装材削減や再生プラスチック利用が大きなテーマとなっており、その実績データに第三者検証を導入し始めています。飲料大手では、「年間総包装材使用量および削減量」についてデータレビューを受け、社外発表資料に「第三者の検証を経た数値」と記載している例もあります。またパナソニックは自社開発の環境指標である「資源循環スコア」を公開しており、これには製品に再利用した部品重量などが含まれますが、第三者意見として専門家から評価コメントを得て信頼性を担保しています。

6. 今後の展望

資源消費・原材料使用量の第三者保証は、サーキュラーエコノミーへの移行が加速する中で、その重要性が増していくでしょう。欧州連合では廃棄物削減やリサイクル率向上を柱とした政策(欧州循環経済行動計画)が進んでおり、企業にも資源効率指標の開示が求められつつあります。将来的にこれら指標の保証も求める動きが出てくれば、日本企業も対応を迫られるでしょう。具体的には、製品中リサイクル素材含有率の保証義務化や、サプライチェーン全体の資源使用量報告の制度化などが考えられます。

国内の動き

2023年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法に関連して、事業者によるプラ使用量の報告が強化される方向です。現状は自己報告ベースだが、信頼性確保の観点から将来は一定規模以上の事業者に対し独立検証を義務付けることも検討されうる為、その際は第三者保証の枠組みが活用される可能性が高いとされます。

技術領域

技術革新もこの分野を後押します。例えばブロックチェーン技術を用いて素材の由来情報(バージンかリサイクルか、何回目のリサイクルか)をトレーサビリティ管理する取り組みが始まっています。こうしたデジタル管理台帳が普及すれば、第三者保証人はブロックチェーン上の記録を検証することで効率よくデータを確証できるようになるかもしれません。またAIの活用により、購買記録から異常なデータポイントを自動検出し事前に修正するなど、データ品質向上の仕組みも期待されます。

企業にとっては、資源関連データの保証取得はサステナビリティ経営の成熟度を示す一つの指標となります。先進企業はすでにGHGや水だけでなく資源面でも目標を掲げ、その達成状況に保証を付して発信し始めており、今後は業種を問わず、自社の素材使用や循環利用状況を定量的に示し、それを第三者のお墨付きで社内外に説明することが当たり前になるでしょう。そうした流れの中で、資源消費・原材料使用量の第三者保証は、企業価値と環境価値の両立を支える基盤として一層重要性を帯びていくと考えられます。

引用元
https://www.bridgestone.co.jp/csr/esg_data
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000205.000017062.html
https://corporate.murata.com/ja-jp/csr/evaluation/third_party

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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