気候変動対策の一環として、カリフォルニア州は自発的カーボンオフセット市場(VCM)の透明性向上を目的とした新たな情報開示法を制定しました。2023年10月7日、ニューサム州知事はAB1305「自主的カーボン市場開示法(Voluntary Carbon Market Disclosures Act)」に署名し、カーボンオフセットの販売・購入やカーボンニュートラルの主張を行う企業に対し詳細な情報開示を義務付けました。この法律は全米でも初めての試みであり、従来自主的に行われてきたカーボンオフセットの利用に一定の規制と説明責任を課すものです。

1. 施行時期と適用対象
AB1305は2024年1月1日に発効しましたが、企業による実際の開示義務は2025年1月1日から開始されます。当初、開示期限を半年延期し要件を明確化するAB2331という修正法案が提案されましたが、2024年末までに成立しなかったため現行法のまま進められます。
適用対象となるのは
・カリフォルニア州内で自主的カーボンオフセット(VCO)を販売またはマーケティングする事業者
・自主的カーボンオフセットを購入・使用して「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」等の気候に関する主張を行う事業者
・上記オフセットの有無にかかわらず自ら「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ」等の達成を主張する事業者
営利・非営利を問わず、法人(株式会社、LLC、パートナーシップ等)であれば国内外を問わず該当しうる広範な定義が取られており、カリフォルニア州で事業を行う企業がこれらの活動や主張を行う場合はAB1305の規制を念頭に置く必要があります。
2. 開示義務の内容
オフセットの販売や購入、マーケティング事業者などの切り分けによって、開示項目が変化します。
オフセット販売・マーケティング事業者に対する開示項目
カリフォルニア州で自主的カーボンオフセットを販売または宣伝する企業は、自社ウェブサイト上で各オフセットプロジェクトに関する以下の情報を毎年開示しなければなりません。
・オフセットの排出削減量・除去量を算定する際に使用したプロトコルと基準(算定方法の概要)
・各プロジェクトの所在地、開始日、種類(削減系か除去系か)、実施期間、および年間の削減・除去見込量
・プロジェクト期間が大気中のGHG寿命より短い場合はその耐久性に関する情報
・プロジェクトが未完了の場合のアカウンタビリティ(責任の所在や代替措置)に関する対策
・各プロジェクトの属性について独立した専門家または第三者認証の有無
オフセット購入・使用企業(カーボンニュートラル主張)に対する開示項目
カリフォルニア州で事業を行い、自社のカーボンニュートラルやネットゼロの達成を主張するために自主的オフセットを購入・使用している企業は、以下の情報をウェブサイトに開示する必要があります。
・各オフセットの販売者名、利用したオフセット登録簿の名称とプロジェクト名
・ID(該当する場合)、プロジェクトの所在地と種類(除去系か回避系か)
・削減量・除去量の算定に用いたプロトコル
・各オフセット・プロジェクトに第三者検証が行われているか否か
カーボンニュートラル等の主張企業に対する開示項目
カリフォルニア州で事業を行う、または同州内で宣伝を行う企業が「ネットゼロ達成」「カーボンニュートラルな製品」等の主張をする場合、その根拠を示す情報をウェブサイトで開示しなければなりません。
・「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」等の主張がどのように達成または実現されたかを示す全ての情報(算定方法や達成状況の証拠)
・その目標に向けた中間経過を測定する方法および進捗状況(第三者によるGHG排出量データの検証や、科学的根拠に基づく目標設定(SBT)の有無などを含む)
・公表しているGHG排出量データや「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」主張に対して独立した第三者による検証が行われているかどうか
以上の開示情報は毎年少なくとも一度更新する必要があり(少なくとも年1回のウェブサイト更新)、企業がこれらの情報を適切に提示しない場合には罰則の対象となります。
3. 罰則(ペナルティ)
AB1305に違反した企業には民事上の制裁が科される可能性があります。開示義務違反1件あたり日額最大2,500ドルの罰金が科され(累計最大50万ドルまで)、これらはカリフォルニア州司法長官や各郡検事、市弁護士などにより民事訴訟で追及され得ます。罰金額としては他の気候関連開示法(SB253やSB261)の違反金に比べると小さいものの、対象企業にとっては法的リスクと評判リスクを伴うため無視できません。
4. 企業に求められる対応策
最後に上記を踏まえた企業における対応策について示します。
適用有無の確認
自社がオフセットの販売・マーケティング、または購入・使用、あるいは気候中立に関する宣言を行っているかを洗い出し、AB1305の対象となるか早急に確認します。
開示データの整理
対象となる場合、法が求める開示項目を満たす情報を収集・整理します。販売側であれば各オフセットプロジェクトの詳細データを、購入側であれば利用しているオフセットの情報を、また自社の気候目標の根拠となるデータ(排出インベントリや進捗状況)を取りまとめます。
社内体制と教育
関係部署(サステナビリティ、経営企画、法務、マーケティング等)に法令の趣旨と要求事項を周知し、適切な担当者によるレビュー体制を構築します。特にマーケティングや広報部門には、気候に関する表現に対する法規制が強化されたことを認識させる必要があります。
ウェブサイトでの公開準備
開示すべき情報を自社ウェブサイト上に表示する準備を行います。初回の開示期限である2025年1月1日までに必要情報を掲載し、以後は毎年最新情報に更新するプロセスを確立します。
継続的なモニタリング
規制の動向やベストプラクティスを継続的に監視します。2024年に試みられた修正法案のように、今後法的要件が見直される可能性もあるため、州当局からのガイダンスや追加の立法措置に注意を払い、柔軟に対応できるようにしておきます。
引用
https://www.persefoni.com/blog/ab-1305
https://corpgov.law.harvard.edu/2024/11/14/what-companies-need-to-know-about-californias-ab-1305/
