【サプライヤーエンゲージメント】SAQの全体像とエンゲージメント

サプライヤーエンゲージメント(Supplier Engagement)とは、自社とサプライヤー(供給業者)との協働関係を強化し、サプライチェーン全体の持続可能性や倫理性を高める取り組みを指します。企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)を果たす上で、自社の直接の取り組みだけでなく、取引先を含むバリューチェーン全体での活動が重要視されています。特に環境・社会面の影響はサプライチェーン由来が大きく、ある分析では企業のサプライチェーンからの温室効果ガス排出量(Scope 3)が自社拠点からの排出量(Scope 1・2)の平均26倍に達すると報告されています​。このようにサプライヤーとの協働なくしては、持続可能な経営目標の達成は困難です。また、サステナビリティ自己評価質問票(SAQ)の活用も進んでおり、サプライヤーに自律的な自己評価を促すことで、効率的な情報収集とリスク管理を図る動きが広がっています。

目次

1. サプライヤーエンゲージメントの定義と目的

サプライヤーエンゲージメントとは、企業が調達先であるサプライヤーとの関係性を戦略的に構築・強化し、相互の目標達成に向けて協働することです。その目的は、品質・コスト・納期といった従来の指標の改善のみならず、環境負荷の低減や労働環境の改善などサステナビリティ面での向上にもあります。効果的なサプライヤーエンゲージメントにより、企業はサプライヤーとのより強固で透明性の高い価値ある関係を築けます​。これは結果的に、調達コスト削減や品質・コンプライアンス向上といった直接的なメリットから、脱炭素やイノベーション創出、外部リスクの低減といった戦略的目標の達成にまで波及します​。

サステナビリティへの影響

持続可能性の観点から、サプライチェーン上の取り組みは極めて大きな影響力を持ちます。多くの企業にとって、自社の環境・社会リスクの大部分はサプライヤーや原材料調達段階に存在します。例えば、温室効果ガス排出ではサプライチェーン(Scope 3)が主要部分を占めており、企業が気候変動対策を進めるにはサプライヤーとの協働が不可欠です。実際、CDPの開示制度では、サプライヤーエンゲージメント戦略の有無が評価に組み込まれており、気候変動質問書におけるサプライヤー関与度合いがCDPサプライヤーエンゲージメント評価(SER)の35%を占めています​。また、サプライチェーン上の労働慣行や人権問題も企業の社会的責任に直結しており、例えば児童労働や安全性問題が発生すれば企業ブランドに深刻な打撃を与えかねません。したがって、環境・社会両面でサプライヤーと協調し持続可能性を高めることが重要です。

企業の社会的責任(CSR)と調達戦略

CSRの文脈では、調達戦略に社会・環境の視点を統合した持続可能な調達戦略(Sustainable Procurement)が求められます。持続可能な調達とは、企業の購買プロセスや意思決定にCSRの原則を組み込みつつ、ステークホルダーの要求を満たすことと定義されています​。具体的には、調達先選定において環境保護や人権尊重の基準を盛り込み、例えば児童労働の排除や有害物質削減といった要件をサプライヤーに課すことです。このような戦略を取ることで、企業は自社の中核的価値観をサプライチェーン全体に浸透させることができます。

さらに、持続可能な調達はリスクマネジメントの強化にもつながります。調達段階で問題のあるサプライヤーを炙り出し是正を促すことで、後に発生し得るスキャンダルや風評被害を未然に防ぐ効果があります​。例えば、不適切な労働環境のサプライヤーと契約していたがために不買運動に発展するといった事態を避け、逆に倫理的な調達姿勢を示すことでブランド価値を向上させることができます。

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2. SAQ(サステナビリティ自己評価質問票)とは?

SAQ(サステナビリティ自己評価質問票)とは、サプライヤー自身に環境・社会・ガバナンスに関する取り組み状況を自己申告させるための質問票です。企業はSAQを活用することで、多数のサプライヤーから一斉にCSR/サステナビリティに関するデータを収集し、リスク評価や改善指導に役立てます。

例えば自動車業界では、業界全体で共通のSAQが策定されており、各サプライヤーは単一のプラットフォーム上で質問票に回答することで複数の完成車メーカーからの要求に応えられる仕組みになっています​。このSAQはサプライヤーの持続可能性パフォーマンスを継続的に向上させる長期戦略の一環であり​、回答結果を通じてサプライヤーの課題を特定し、是正策を共同で策定することも可能としています。

SAQの目的と運用方法

SAQ導入の目的は、サプライチェーン上のサステナビリティ情報を効率良く把握し、サプライヤーの持続可能性向上を促進することにあります。企業はまず調達方針に基づき質問票の設問を設計します。質問項目には、環境マネジメント体制の有無、労働安全衛生の取り組み、人権方針やコンプライアンス体制など、国際基準や業界標準に沿った内容が含まれます。SAQは通常オンラインで運用され、企業から招待を受けたサプライヤーが所定のフォームに回答し、必要に応じて証拠書類をアップロードします​。回答内容は企業または第三者によって検証され、各サプライヤーにスコアや評価が付与されます。その結果は調達プロセスに組み込まれ、高リスクと判定されたサプライヤーには追加調査や現地監査、是正要求が行われます。

一方で優良と評価されたサプライヤーは「推奨サプライヤー」として位置づけられ、取引拡大や表彰の対象となることもあります。実際、自動車メーカー各社はSAQの結果に基づきS-Rating(サステナビリティ評価)を導入し、基準を満たさない企業とは取引しない方針を打ち出しています​。このようにSAQは、単なるアンケートではなく調達ガバナンスの一部として運用され、継続的なサプライヤーの改善サイクルに組み込まれています。

企業が直面する課題と解決策

SAQを導入・運用する上で、企業はいくつかの課題に直面します。

1.サプライヤーの協力姿勢や回答率の問題
多くのサプライヤーは多数の顧客企業から類似の質問票への回答を求められるため、「アンケート疲れ」を起こし、回答率が低下する傾向があります​。この対策として、業界全体で質問票を標準化し一元化する動きが有効です。前述の自動車業界のように、共通のプラットフォームで一度回答すれば複数社と共有できる仕組みを整えれば、重複回答の負担軽減につながります​。

2.回答内容の信頼性とデータ分析
サプライヤーによる自己申告には主観やばらつきがあるため、企業側での精査が欠かせません。解決策として、高リスク分野については証拠書類の提出を求めたり、必要に応じ現地監査で検証したりすることが挙げられます。また、収集した膨大なデータを分析しリスク評価に結びつけるには、専門部署の整備やITシステムの活用が鍵となります。最近ではAIを用いて回答データやオープンソース情報を分析し、サプライヤーごとのリスクスコアを自動算出する試みもあります​。

3.サプライヤーとの信頼関係
質問票を送付するだけでは一方通行になりがちなため、結果フィードバックを共有し、改善に向けた対話を行うことで「共に良くしていく」姿勢を示すことが重要です。例えば、SAQ結果をサプライヤーにフィードバックし、他社平均とのベンチマークや優良事例を共有することで、サプライヤーの学習とモチベーション向上につなげることができます。このような協働的アプローチにより、SAQは監査ツールに留まらずエンゲージメント促進の手段となり得ます。

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3. サプライヤーとの関係構築における課題

サプライヤーエンゲージメントを推進する中で直面する主な課題には、「信頼関係の構築と透明性の確保」、「モニタリングとパフォーマンス評価」の2点があります。これらは裏を返せばエンゲージメント成功の鍵でもあり、各企業が様々な工夫を凝らしています。

信頼関係の構築と透明性向上

サプライヤーとの信頼関係を築くことは、エンゲージメントの出発点であり最大の課題です。調達先との関係が単なる価格交渉や契約上のやり取りに留まっている場合、サプライヤーは自社の問題点や改善ニーズを積極的に開示しようとしません。信頼が不足しているサプライチェーンでは、不都合な情報が隠蔽されたり、データの不透明性が高まったりし、結果としてリスク顕在化時に対処が遅れる恐れがあります。つまり多くの企業でサプライチェーンの深部がブラックボックス化しています。

解決の方向性としては、まずコミュニケーションの活性化が挙げられます。定期的な情報共有や対話の場(四半期毎のビジネスレビューや「サプライヤーの日」の開催など)を設けることで、相互理解を深めます​。また、取引の前提として透明性確保を約束し合うことも有効です。たとえばサプライヤー行動規範において、労働上の事故や環境インシデントの報告義務を明記し遵守を求めることで、問題発生時の迅速な情報共有と対処が可能になります。テクノロジーの活用も透明性向上に寄与します。

トレーサビリティの向上

ブロックチェーン技術を用いた製品トレーサビリティの確立はその一例で、米ウォルマートでは食品流通にブロックチェーンを導入し、特定商品の原産地特定に要する時間を従来の7日間から2.2秒に短縮する成果を上げました​。このようなデジタル基盤を活用すれば、サプライチェーン上の情報を改竄困難な形で共有でき、信頼性と透明性を飛躍的に高めることができます。透明性が高まれば、サプライヤーとの相互信頼も強化され、問題発生時にもオープンに議論し協力して解決策を講じる「同じチーム」としての関係性が醸成されます​。

モニタリング

もう一つの課題は、広範囲に及ぶサプライチェーン全体のモニタリング(監視)とサプライヤーパフォーマンス評価をいかに効果的かつ効率的に行うかです。多国籍企業では数百社以上のサプライヤーを抱えることも珍しくなく、全サプライヤーを定期的に現場監査したり詳細な評価を下したりすることはリソース的に困難です。そのため、多くの企業はリスクに応じた優先度付けを行い、重要もしくは高リスクと見なしたサプライヤーに経営資源を集中しています​。

例えば調達額が大きい戦略的サプライヤーや、労働人権上のリスクが高い地域に所在するサプライヤーをピックアップし、重点的なエンゲージメントや監査を実施します。一方、比較的リスクの低い領域については自己評価(SAQ)やデータモニタリングツールを活用し、異常値のみ精査するアプローチを取るなど、メリハリを利かせた監視体制が取られています。

パフォーマンス評価

評価手法としてはサプライヤースコアカードの導入が一般的です。スコアカードには品質、コスト、納期のみならず、CO₂排出削減量や法令遵守状況、労働環境改善努力といったCSRに関するKPIを組み込み、定量的にサプライヤーを評価・比較します。その結果を四半期ごとや年次でフィードバックし、優良サプライヤーには表彰やインセンティブを与える一方、低評価の企業には経営層との対話の場を設け改善計画を策定するといった対応を取ります。もっとも、こうしたデータ駆動型の評価にも限界はあります。データの裏付けや信憑性を確保するため、定期的な現地確認やサードパーティ監査を組み合わせることが重要です。

4. 業界別のサプライヤーエンゲージメント事例

サプライヤーエンゲージメントの重要性はどの業界においても共通ですが、業種ごとに抱える課題や注力点には違いがあります。以下では製造業、小売業、IT業界それぞれにおける具体的な取り組みや戦略の事例を概観します。

製造業における取り組み

製造業(製造・組立産業)では、サプライチェーンが多層にわたり原材料から部品、組立まで広範囲に及ぶのが特徴です。そのため環境負荷低減と持続可能な調達に関する取り組みが重視されています。例えば自動車産業では、原材料調達段階から製造プロセスに至るまでCO₂排出量や水資源使用量の削減が求められ、各社がサプライヤーに対しISO 14001など環境マネジメントシステムの認証取得を奨励・要求しています。また、紛争鉱物の調達禁止や化学物質規制(RoHS指令など)への適合も製造業共通の課題であり、部品レベルでのトレーサビリティ確保やサプライヤーへの情報開示要求が行われています。

業界全体でのアプローチ

自動車業界は業界横断型の協調例として、欧州のDrive Sustainabilityイニシアチブがあります。同イニシアチブでは主要自動車メーカーが協働でSAQを策定し、世界中の部品サプライヤーに対しCSR自己評価を実施する仕組みを導入しました。その結果、BMWやフォルクスワーゲン、トヨタ等多数の大手OEMが共通プラットフォームを用いてサプライヤーのCSR情報を収集・共有できるようになり、重複する監査を削減しつつサプライヤーの持続可能性水準を底上げしています​。

このように業界全体で協調することで、個社では対応が難しいサプライチェーン全体の課題(例:鉱山まで遡った人権問題など)にも取り組みやすくなります。一方で製造業においては、取引先のリスク管理も極めて重要です。部品供給の途絶は即座に生産ライン停止につながるため、自然災害や政情不安といった外的リスクに対する事業継続計画の観点からもサプライヤーとの密な関係が不可欠です。多くの製造業企業は主要サプライヤーと長期契約を結び、定期的にリスク評価を実施しています。例えば半導体や重要部品を調達する際には、単一工場からの供給に依存しないよう複数拠点からの供給網を構築したり、在庫を戦略的に確保したりするなどの措置が講じられます。

小売業のサプライチェーン管理

小売業(流通・販売業)では、自社で製造を行わず世界各地から商品を調達するため、特に倫理的調達とトレーサビリティ(追跡可能性)の確保が戦略の中心となります。アパレル産業や食品業界では、サプライチェーン上流における労働搾取や環境破壊が社会問題化してきた歴史があり、企業は調達方針に厳格な倫理基準を組み込むようになりました。

具体例として、アパレル大手の多くは自社のサプライヤー行動規範を策定し、児童労働の禁止や労働時間の上限、最低賃金の遵守などを契約条件としています。また調達先工場のリストを公開し透明性を高めるブランドも増えています。これにより消費者やNGOによる監視が働き、問題発生時には早期に指摘・是正が行われるという抑止効果も生まれています。食品や日用品の小売では、原材料の栽培・収穫から加工・流通までの履歴を追跡するトレーサビリティ体制が重要です。サプライチェーンのどこかで不祥事(例:産地偽装や異物混入)があれば、迅速に原因箇所を突き止め対応する必要があります。

業界でのトレーサビリティ管理

ICTを活用した高度なトレーサビリティの事例として、前述のウォルマートによるブロックチェーン活用が挙げられます。同社はブロックチェーン技術により農場から店舗までの流通経路を記録・共有し、生鮮食品の安全性と透明性を飛躍的に高めました​。小売業におけるこれらの取り組みは、最終消費者からの信頼獲得という視点でも重要です。消費者の関心は年々高まっており、ある調査では78%の消費者が製品購入や店舗選択の際にサステナビリティを重視すると回答しています​。さらに約65%の消費者は持続可能な商品に対して5%以上高い代金を支払ってもよいとさえ答えています​。

このように倫理や環境に配慮した商品提供は、単にリスク回避の手段というだけでなく競争優位の源泉にもなりつつあります​。そのため、小売企業はサプライヤーと協力してフェアトレード認証品の調達拡大や環境負荷低減型商品の開発を進め、サステナブルなブランドイメージ確立に努めています。例えばスターバックスはコーヒー豆の調達においてC.A.F.E.プラクティス認証(倫理的調達基準)を導入し、生産農家の労働環境改善と環境保護に取り組んでいます。また英国の小売大手マークス&スペンサーは「プランA」という包括的サステナビリティ戦略の下、サプライヤーと協働で森林保護やコミュニティ支援プロジェクトを実施しています。

IT業界の特徴と課題

IT業界(情報技術・ハイテク産業)におけるサプライヤーエンゲージメントは、大きく二つの側面で特徴づけられます。一つはデータセンターなど自社運用インフラのサステナビリティ対応、もう一つはハードウェア製造を担う外部パートナー企業との関係構築です。

自社運用インフラのサステナビリティ対応

まず、クラウドサービス企業や大規模IT企業は世界中にデータセンターを保有・運営しており、その電力消費や環境フットプリントが大きな課題となっています。国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、2022年時点でデータセンターが消費する電力は年間460TWhに達し、世界全体の電力使用量の約2%を占めています​。AIの普及などにより需要はさらに増大しており、IT企業は電力会社や設備サプライヤーとの協働を通じてエネルギー効率向上と再生可能エネルギー利用拡大に取り組んでいます。例えば、GoogleやMicrosoftはデータセンター運用電力の24時間365日クリーンエネルギー化(24/7カーボンフリー電力)を目標に掲げ、再生可能エネルギー電力の直接調達(PPA契約)を電力事業者と締結しています。

気候変動対応

また冷却技術やサーバー設備の効率化に向けてサプライヤーと共同開発を行い、エネルギー使用効率(PUE値)の改善に努めています。ITサービス企業が自社設備以外で排出する温室効果ガスの大半は、電力サプライヤーから購入する電力(Scope 2)とサプライヤーの製造過程(Scope 3)に由来するため、これらを削減するサプライヤーエンゲージメントが気候変動対策上避けて通れません。近年ではAppleやH&Mなど一部の企業が、自社のサプライチェーンにおける使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する目標を掲げ、主要サプライヤーにも再エネ転換計画の提出を求め始めています​。特にAppleは2030年までに自社製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成する目標を公表し、その実現には部品製造を担うサプライヤー各社の協力(再エネ利用や省エネの徹底)が前提となっています。このようにIT業界ではエネルギー・環境面でのサプライヤー関与が今後一層重要になるでしょう。

外部パートナーシップ構築

次に、IT・ハイテク産業は複雑なハードウェア製品を構成する部品や製造を外部委託するケースが多く、主要ベンダー(供給企業)との長期的パートナーシップ構築が競争力の源泉となっています。例えば、スマートフォンやPCメーカーは半導体チップやディスプレイ部品を特定の有力サプライヤーから調達しており、そうしたサプライヤーとの協調関係なくしては安定供給や技術革新が困難です。このためIT企業はサプライヤーに対し短期的な価格交渉に終始せず、長期契約や資本提携、技術協力などを通じて関係を強化する戦略を取ります。

サステナビリティ面でも同様で、主要サプライヤーの労働環境や環境対応力を高めるために企業が直接支援する例があります。代表的なのが電子業界のRBA(Responsible Business Alliance)の取り組みです。RBAはApple、Intel、Dellなど大手IT企業が加盟する業界団体で、サプライチェーンの労働・環境基準を定め監査プログラムを実施しています。これにより、加盟各社は共通のコードに基づきサプライヤーを監督・支援し、労働時間是正や安全対策の標準を業界全体で引き上げています。

また、前述のAppleの例のように気候変動対策でもサプライヤーとの協働が見られ、主要サプライヤーに対して排出量報告や削減計画の策定を義務付けたり、達成度合いを毎年評価して公表したりしています。ITハードウェアの製造委託先であるEMS(電子機器受託生産)企業との関係も極めて重要です。EMS最大手のフォックスコン(鴻海)で労働問題が起きた際、アップルは経営陣を現地に派遣して是正措置を講じさせるなど、責任ある対応を取ったことが知られています。

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5. まとめ

上記事例のように主要ベンダーとの関係は単なる取引を超えたパートナーシップへと発展しており、相互信頼と協力の下で品質向上やCSR課題の解決、さらには新技術の共同開発などが推進されています。IT業界では技術革新のスピードが速いため、サプライヤーとともに学習・成長し合う関係性を築く企業こそが、市場変化に柔軟に対応できるといえるでしょう。

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引用元

CDP公式サイト
https://www.cdp.net

ISO 20400: Sustainable Procurement (国際標準化機構)
https://www.iso.org/standard/63026.html

Corporate Sustainability Reporting Directive (CSRD)
https://ec.europa.eu/info/business-economy-euro/company-reporting-and-auditing/company-reporting/corporate-sustainability-reporting_en

ドイツ連邦労働社会省:サプライチェーン・デューデリジェンス法 (LkSG)
https://www.bmas.de/EN/Services/Press/reports/supply-chain-law.html

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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