企業の気候変動対策の一環として、近年カーボンフットプリント(CFP)の算定に取り組む企業が増加しています。CFPとは、製品やサービスのライフサイクル全体(原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルまで)で排出される温室効果ガス(GHG)排出量を二酸化炭素換算で数値化し、製品などに表示する仕組みを指します。企業は自社の製品・サービスが生み出すGHG排出量を「見える化」することで、環境負荷削減の取り組みを社内外に示すことができます。


CFPが注目される背景と重要性
地球温暖化対策として2050年までにカーボンニュートラル(GHG排出実質ゼロ)の達成が世界的な目標となる中、製品ごとの排出量を把握するCFPへの注目が高まっています。
ネットゼロ社会を実現するためには、単一企業だけでなくサプライチェーン全体でGHG排出削減に取り組む必要があり、製品ごとのCFPを算定・表示することは、脱炭素・低炭素な製品(グリーン製品)が選択される市場を創出する基盤となり得ると考えられています。
実際、CFPの情報開示によって企業間で排出削減に向けた協力が進み、消費者もより環境負荷の小さい製品・サービスを選択しやすくなる効果が期待されています。

CFP算定とライフサイクルアセスメント(LCA)
CFPは製品・サービスのライフサイクル全体を対象としているため、その算定にはライフサイクルアセスメント(LCA)の手法が用いられます。
LCAにより、原材料の採掘・生産から製品の製造、物流、使用、廃棄・リサイクルに至る各段階でのGHG排出量データを収集し、総和としてCO2換算の排出量を算出し、これらは製品ごとにCO2排出量〇〇kgといった形式で表示されることが一般的です。
この「見える化」された情報を活用することで、企業は自社製品の排出量プロファイルを把握し、どの工程での排出削減に優先的に取り組むべきかを明確化できます。
例えば、CFP算定の結果から特定の原料調達過程における排出量が大きいと判明した場合、その部分の代替素材の検討や調達方法の見直しなど具体的な削減策の検討につなげることが可能です。

公的ガイドラインと算定ツール
日本においては、経済産業省・環境省が共同で「カーボンフットプリントガイドライン」(第1部・第2部)および「CFP実践ガイド」(別冊)を公表し、企業がCFPに取り組む際の算定方法や表示・開示方法、排出削減策の検討手順を示しています。
これらガイドラインでは、算定範囲の設定方法、排出係数データの利用方法、結果の表示方法だけでなく、算定結果の信頼性を担保するための検証**についても言及されています。算定したCFP情報の信頼性を高めるには、第三者による検証(監査)を受けることが望ましいとされています。また、CFPの算定目的に応じて内部検証か第三者検証かを適切に選択し、客観性を確保することが推奨されています。
なお、算定作業を支援するための専用ソフトウェアやデータベース(排出原単位集)も整備されており、企業は自社の状況に応じてこれらのツールを活用できます。環境省は「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」などを通じて、サプライチェーン排出量算定やCFP活用のための情報提供も行っています。

各国の動向と CFP の今後
CFPの取り組みは日本国内に留まらず、海外でも広がりを見せています。特に欧州では、製品の環境フットプリント(含むCFP)の表示を企業に義務付ける動きが進んでおり、フランスでは衣料品や食品に対するCFP表示制度が2023年中に導入されました。EU全域でも主要製品カテゴリごとの算定ルール策定が進められており、今後企業はグローバルな規制動向を注視する必要があります。
また EU は2023年に炭素国境調整措置(CBAM)を開始し、鉄鋼やアルミニウム等のエネルギー多消費型製品について輸入時にCFPの報告を義務化しました。
2025年以降にはEU域内で販売される電池にCFP表示を義務付ける規則も予定されており、こうした海外の制度に対応するためにも日本企業がCFPを活用する重要性が増しています。
現在、日本のCFPプログラムは統合版であるSuMPO環境ラベルプログラムの一部として運用されており、国内企業によるCFP表示・認定の仕組みも整備されています。
CFPの算定・公表に積極的に取り組むことは、各国の環境規制に適合するだけでなく、自社製品の環境優位性をアピールする上でも有効な戦略となりつつあります。

企業にとってのメリットと留意点
CFPを導入するメリットとしては、前述のように自社の排出プロファイルを把握して効率的な削減策を講じられる点に加え、環境配慮型製品であることを客観的な数値で示すことで企業のブランド価値向上やステークホルダーへのアピールにつながる点が挙げられます。
CFP表示は消費者や取引先に対し、製品の環境負荷情報を直接伝える手段となるため、環境意識の高い市場ニーズに応えることができます。
また、サプライチェーン全体での排出削減に取り組む一環としてCFP情報を共有すれば、取引先との協働による効率的な脱炭素化も期待できます。さらに、CFP算定のプロセスを通じて社内の環境データ管理体制が強化される、副次的な効果もあります。
一方で、CFP算定・表示にあたってはいくつかの留意点もあります。ライフサイクル全体のデータ収集には時間とコストがかかり、自社だけでは入手しにくいサプライヤーのデータも必要となる場合があります。また、算定結果の精度や前提条件によって数値が変動し得るため、その不確実性を理解した上で活用することが重要です。CFPの表示内容が誤解を招かないよう、算定範囲や第三者検証の有無などを適切に開示することも求められます。
まとめ
本記事では、カーボンフットプリント(CFP)の概要から背景、算定方法の全体像、公的な支援策や国際動向、企業にとってのメリットと注意点までを総合的に解説しました。CFPは企業のGHG排出削減と情報開示の新たな手法として注目されており、気候変動対策を実践する企業にとって重要なツールとなっています。今後、詳細な定義・概念、具体的な算定方法・ツール、第三者保証と各国の規制動向、そして企業事例と導入メリットについて、個別の記事でさらに詳しく解説しますので、併せて参考にしてください。
引用元
環境省・経済産業省
「カーボンフットプリントガイドライン」(第1部・第2部) / 「CFP実践ガイド」
グリーンバリューチェーンプラットフォーム(環境省・経産省)
フランス政府公式サイト
https://www.gouvernement.fr/
炭素国境調整措置(CBAM)
https://ec.europa.eu/taxation_customs/green-taxation-0/carbon-border-adjustment-mechanism_en
