【カーボンフットプリント CFP】企業事例と導入メリット

カーボンフットプリント(CFP)は、単なる環境ラベリングの手法にとどまらず、企業経営やサプライチェーン全体に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。実際に多くの企業がCFPを活用し、排出削減だけでなく新たなビジネスチャンスやブランド価値向上を実現しています。
本記事では、CFPを導入・活用している国内外の企業事例をいくつか取り上げ、その成果やメリットを具体的にご紹介します。また、成功事例から導き出される導入のポイントや注意点にも触れ、読者の皆様が自社でCFPを検討する際の参考となる情報を提供します。

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国内企業のCFP活用事例

ここでは国内における製造業や流通業に着目して解説していきます。

食品業界(例:ハム・ソーセージメーカー)

日本の食品業界では、ある大手ハム・ソーセージメーカーが早期からCFPの試行事業に参加し、自社製品にCFPラベルを表示していました。具体的には、1パックあたりのCO₂排出量を算出し、店頭パッケージにマークを付与することで、消費者に環境配慮の訴求を行いました。
この取り組みの成果として、

・消費者への認知度向上
店頭で「環境に配慮した製品」として差別化

・生産工程の効率化
排出データを詳しく分析し、エネルギー多消費工程を改善

・社内意識の変革
商品開発から廃棄管理まで、部門を横断した協議が増加

といった効果が得られ、企業のブランドイメージ向上にも寄与しました。

物流業界

輸送サービスにおけるCO₂排出量の可視化を推進しました。具体的には、荷物1個あたりのGHG排出量を算定し、配送伝票や顧客向けの情報提供ツールを通じて開示する取り組みを実施しています。これにより、企業顧客に対して環境負荷低減への意識を高めるとともに、輸送の最適化を支援しています。
この取り組みの成果として、

・顧客への環境情報提供の強化
荷物ごとのCO₂排出量を算定・開示し、環境配慮型物流の選択肢を提供

・輸送の効率化と排出削減
GHG排出量データを基にルート最適化を推進し、トラックの積載率向上やEV・低炭素車両の導入を促進

・社内意識と事業戦略の変革
従業員の環境意識向上を図るとともに、CFPを活用した環境配慮型サービスの開発を加速

製造業界(例:化学素材メーカー)

一方、化学メーカーでは、製造工程が複雑かつ多段階にわたるためCFP算定は難易度が高いとされていました。しかしある大手化学企業は、サプライチェーン全体から詳細なデータを収集し、特定素材(樹脂・フィルムなど)のライフサイクル排出量を定量化することに成功。さらに得られた結果をもとに、

・原材料の切り替え(高炭素素材 → 低炭素素材)
・製造プロセスの省エネルギー化
・廃棄時のリサイクル性向上

といった具体的施策を講じ、最終的に製品のCFPを大幅に削減しました。
こうした成果が評価され、自動車部品メーカーなど取引先からの受注拡大にもつながっています。

海外企業のCFP活用事例

ここでは海外の製造業に着目して解説していきます。

欧州の飲料メーカー

欧州では、食品・飲料メーカーの間でCFPを製品ラベルに表示する動きが活発です。特に炭酸飲料やミネラルウォーターを扱う企業が、ペットボトル製造や輸送に関わる排出量を可視化し、再生素材の活用やリユースボトルの拡大を進めています。大手飲料メーカーは、CFPラベルの導入後にヨーロッパ数カ国で売上が向上したことを公表している企業もあります。環境意識の高い消費者層から「持続可能なブランド」と評価され、他社との差別化に成功したことが要因とみられています。

IT企業とデジタル製品

IT企業でもサプライチェーン排出量の透明化を図るために、サーバーやデバイスの製造・使用・廃棄段階に着目したCFP算定を行う事例が増えています。例えば、あるPCメーカーは各製品におけるCO₂排出量をウェブサイト上で公開し、顧客が製品選択の際に参考にできる仕組みを導入しました。
結果として、法人顧客(BtoB)の調達担当者からの信頼度が向上し、企業向けPCの販売において新規契約を獲得するケースが増えたと報告されています。

CFP導入による主なメリット

CFP導入により、排出の多い工程を特定し、対策を講じることでコスト削減と生産性向上が可能になります。さらに、環境配慮の可視化は市場競争力を高め、資金調達にも有利に働きます。また、規制対応を先行することで、リスク低減と国際競争力の強化につながります。

排出削減とコストダウンの同時達成

CFP算定を行うと、製品ライフサイクル内で特にGHG排出が多い工程を特定しやすくなります。
そこに集中的に対策を施すことで、
・省エネ施策によるエネルギーコストの削減
・高効率設備投資による生産性向上

などの相乗効果を得る企業が多いです。
また、排出削減の成果をCFPの数値として見える化できるため、社内のモチベーション向上や投資判断の明確化にもつながります。

ブランド価値・市場競争力の向上

エンドユーザー向けの消費財では、環境負荷を明確に示したラベリングが顧客の購買意欲を高める一因となります。特に欧州や北米など環境意識の高い市場では、CFP表示がブランド差別化の有力な手段です。一方、BtoB取引においても、環境配慮を評価する取引先が増加しており、CFPの有無が受注を左右する場面が見られます。
また、金融機関や投資家が企業の脱炭素戦略を重視する流れが強まっており、明確なGHG排出削減目標とアクションを示すCFP導入企業は、資金調達面でも有利になる可能性があります。

リスクマネジメントと規制対応

先述のEU電池規則や炭素国境調整措置(CBAM)をはじめ、世界各地で製品単位のGHG排出量に関連する規制が強化される傾向があります。CFPを算定し、第三者検証の仕組みを整えておけば、今後の規制対応コストや市場参入リスクを軽減できます。さらに、先行してCFP対応を済ませておくことは、国際競争力の確保にもつながる戦略的メリットを持ちます。

CFP導入成功のためのポイント

経営層の支援とサプライヤー協働が重要であり、CFPを軸に連携を強化することで精度向上やコスト削減を実現します。

経営層のコミットメント

CFPは部門横断的なデータ収集が必要となるため、トップダウンでの指示や組織体制づくりが欠かせません。経営層が「環境経営」を企業方針として位置づけ、必要な予算や人員を確保することが成功への第一歩です。

サプライヤーとの協働

自社内での排出量把握だけでなく、サプライチェーン全体での協力が重要です。サプライヤーからのデータ提供を受けられないと、CFP算定の精度が下がるだけでなく、排出削減策の実施範囲も限定されます。逆に言えば、CFPを軸にサプライヤーと連携を強化すれば、共同開発や共同調達によるコスト削減やイノベーション創出も期待できます。

CFPまとめ

本記事では、CFPを実際に導入・活用している企業の事例を通じて、どのようなメリットがあるのかを具体的に解説しました。食品や化学素材、飲料、ITなど多岐にわたる業界でCFPは着実に浸透し、排出削減だけでなく経営戦略上のプラス効果をもたらしています。
今後、国内外でCFP関連の規制や市場ニーズが拡大する中で、早い段階からCFPを導入することは、企業にとってサステナブル経営を実現するうえで大きなアドバンテージとなります。ぜひ自社での導入を検討し、サプライチェーン全体での持続的な成長を目指すことが重要です。

引用元

ISO 14067:2018 (Greenhouse gases — Carbon footprint of products)
https://www.iso.org/standard/71206.html

GHGプロトコル(GHG Protocol) – Product Standard
https://ghgprotocol.org/product-standard

日本ハムグループ CSRレポート
https://www.nipponham.co.jp/csr/report/

Carbon Trust
https://www.carbontrust.com/

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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