【カーボンフットプリント CFP】計測手法と計算ツール

カーボンフットプリント(CFP)の核心は、製品やサービスのライフサイクル全体で発生する温室効果ガス(GHG)排出量を正確に算定することにあります。CFPが企業活動において有効に機能するかどうかは、どれだけ適切なデータ収集と分析が行われているかにかかっています。
本記事では、CFP算定の基盤となるライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方や、具体的な計算手法、さらに実務でよく使われるソフトウェアやデータベースなどの計算ツールについて詳しく解説します。

あわせて読みたい
【CFP】CFP第三者保証セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(以下、SSP)は、製品のカーボンフットプリント(CFP)算定と信頼性向上の重要性について解説するセミナ...
目次

CFP算定におけるライフサイクルアセスメント(LCA)の重要性

LCA(ライフサイクルアセスメント)は、製品・サービスが環境に与える影響を、原材料調達から廃棄・リサイクルまでの全段階にわたって評価する手法です。LCAには主に下記のプロセスがあります。

LCAの基本プロセス

目的・範囲の定義(Goal and Scope Definition)
どの製品を、どのような範囲(システム境界)で評価するかを明確化。

インベントリ分析(LCI:Life Cycle Inventory Analysis)
各工程での投入資源や排出物を定量的に調査・集計。

インパクト評価(LCIA:Life Cycle Impact Assessment)
得られたインベントリ(排出物や使用資源など)の環境影響を定量化(例:CO₂排出量、資源枯渇度など)。

解釈(Interpretation)
結果を分析し、削減策や意思決定に活用。

CFPはインパクト評価のうち「気候変動影響(GHG排出)」にフォーカスして、最終的にCO₂換算値を算定・表示するものです。

システム境界設定のポイント

製品ごとの排出量を算定する際、どこまでをライフサイクルの範囲(システム境界)に含めるかが重要です。たとえば、自社で生産する中間材の排出だけでなく、その原材料の採掘・生産工程(サプライヤー側)や流通時の燃料使用、さらには消費者が実際に使用する段階、使用後の廃棄・リサイクル工程まで考慮する必要があります。

この境界設定が曖昧だと、最終的なCFP数値に大きな誤差が生じることになります。そのため、LCA・CFP関連の国際規格(ISO 14040/44、ISO 14067など)では、「目的に応じて合理的なシステム境界を設定し、前提条件を明確にする」ことが求められています。

CFPの算定ステップ

引用:カーボンフットプリント ガイドライン

ステップ1:データ収集

CFP算定の第一歩は、対象製品(サービス)のライフサイクル全体にわたる活動量データを集めることです。たとえば、製造時の電力・燃料使用量、原材料や部材の重量・生産地域、輸送距離・輸送手段、消費段階でのエネルギー消費量、廃棄方法などが含まれます。
企業が保有していないデータ(例: upstreamのサプライヤー情報)は、可能な範囲でサプライヤーやパートナーから提供を受けるか、既存の公的データベース(国や業界団体が公開している排出原単位データなど)を活用します。日本では環境省や経済産業省が整備している産業連関表や、SuMPOのLCAデータベース(IDEAなど)が代表例です。

ステップ2:排出係数の適用

データ収集が終わったら、各工程の活動量に排出係数を掛け合わせ、CO₂換算排出量を算出します。排出係数とは、「1kWhの電力使用で何kgのCO₂が排出されるか」「1トンの原材料生産で何kgのCO₂が排出されるか」といった目安の値です。国際エネルギー機関(IEA)の統計や、国内外の研究機関が公表しているデータを参照することで得られます。
排出係数は地域や生産技術ごとに異なるため、可能な限り実態に近いデータを選定することが精度向上の鍵となります。

ステップ3:合算と評価

全工程の排出量を合計し、製品1単位あたりのカーボンフットプリントとして最終値を求めます。たとえば、飲料1本あたり○○g-CO₂、あるいは自動車1台あたり○○kg-CO₂といった形で表示します。このとき、算定過程での前提条件や仮定はレポートに明示することが推奨されます。信頼性を担保するため、内部監査あるいは第三者保証を受けるケースも多く見られます。

CFP実務で使える計算ツールとデータベース

ここでは海外のLCAに関するツールを紹介していきます。

海外のLCAソフトウェア

SimaPro
オランダのPRé Sustainabilityが開発する有名なLCAソフトウェア。数多くのデータベースが利用でき、
CFP算定にも応用可能。

GaBi
ドイツのifu Hamburg社とThinkstep社が開発。産業別の詳細なデータセットを豊富に含む。

openLCA
オープンソースのLCAソフトウェアで、無料で利用可能。カスタマイズの柔軟性があり、導入コストを抑えたい企業にも適している。

排出原単位データベース

IDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)
日本のSuMPOが提供するLCA用データベース。国内で流通・生産される多種多様な製品・材料の排出原単位が整理されている。

環境省・経産省の排出原単位リスト
日本政府が公開する公的データ。電力や燃料、主要材料などの一般的な排出係数が揃っている。CFP算定の初期段階で利用しやすい。

引用:環境省 算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧

簡易CFP計算ツール

近年、Excelベースで簡易にCFPを計算できるツールも提供されています。ワーキンググループや勉強会などでこうしたテンプレートをダウンロードして利用できる事例が紹介されています。特に、中小企業や算定対象が限定的な製品であれば、まずは簡易ツールで大まかな排出量を把握し、必要に応じて本格的なLCAソフトへ移行するといったステップが現実的です。

CFP計算精度と品質管理のポイント

CFP算定の精度は、どの程度実態に合ったデータを使えるかで大きく変動します。サプライヤーとの連携を強化し、可能な範囲で実測値に近いデータを入手することが理想です。データが得られない場合は代表値(アベレージ)を用いることになりますが、その旨をレポートで明示し、不確実性の度合いを考慮する必要があります。

第三者検証の活用

企業が算定したCFPを外部に公表する場合、第三者機関による検証を受けることで信頼性を高められます。ISO 14067に準拠した監査プロセスを経れば、取引先や投資家に対し客観的に裏付けられた数値として提示できます。社内での検証体制を整えることも一つの手法ですが、独立性の観点で外部検証が重視されるケースが多いです。

CFPまとめ

本記事では、カーボンフットプリント(CFP)の算定に欠かせないライフサイクルアセスメント(LCA)の手法や、具体的な計算ツール・データベースの活用方法について解説しました。
企業がCFPを実際に導入する際には、システム境界の設定やデータ精度の確保、第三者検証の受け方など、細部にわたる注意が必要です。
次の記事では、算定したCFP情報の信頼性担保(第三者保証)や、国内外の規制動向について深掘りしていきます。CFPを社内外で活用していくためにも、各国で進む制度化の流れや検証プロセスの概要を押さえておくことは不可欠です。

引用元

ISO 14040:2006 (Environmental management — Life cycle assessment — Principles and framework)
https://www.iso.org/standard/37456.html

ISO 14044:2006 (Environmental management — Life cycle assessment — Requirements and guidelines)
https://www.iso.org/standard/38498.html

ISO 14067:2018 (Greenhouse gases — Carbon footprint of products — Requirements and guidelines for quantification)
https://www.iso.org/standard/71206.html

環境省「カーボンフットプリント制度試行事業」関連資料
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/tsuho/02_2.html

環境省・経産省「排出係数一覧(算定・報告・公表制度)」
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc_method/

あわせて読みたい
【カーボンフットプリント CFP】第三者保証と各国規制 カーボンフットプリント(CFP)を算定し、公表・活用する際には、その信頼性と透明性が欠かせません。企業が「この製品はライフサイクルで◯kgのCO₂排出にとどまります」...

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

目次