同時開示と二段階開示の重要性と影響について解説

同時開示と二段階開示は、企業が財務情報とサステナビリティ情報をどのように報告するかを決定する重要な手法です。ISSB基準(IFRS S1およびS2)の導入により、企業は環境・社会・ガバナンス(ESG)関連データの開示において、適切な手法を選択する必要があります。同時開示は財務情報とサステナビリティ情報を同時に公表することで透明性を高めますが、データ集計・算定及び検証の負担が大きくなります。一方、二段階開示は初期データを先行開示し、後に詳細な情報を公表する手法であり、準備期間を確保できるメリットがありますが、投資家にとって情報が遅れるため、意思決定の遅延を招く可能性もあります。
本記事では、それぞれの手法の特徴や影響、ISSB基準やその他法制度との関連について詳しく解説します。

目次

1. 同時開示と二段階開示とは

企業の温室効果ガス(GHG)排出量やサステナビリティ情報の開示において、同時開示(Simultaneous Disclosure)と二段階開示(Two-Stage Disclosure)が注目されています。これは、国際財務報告基準(IFRS)財団のISSB基準(IFRS S1およびIFRS S2)が求めるサステナビリティ報告と整合性を持つものです。

同時開示
財務報告とサステナビリティ情報を同時に開示する方式。

二段階開示
財務報告とサステナビリティ報告の時期をずらし、次年度以降は同時開示する方式。

ISSB基準のもとで報告を進める企業は、どちらの方式を採用するかを慎重に検討する必要があります。

2. ISSB基準と開示義務ついて

ここでは簡単にISSB基準について説明します。

IFRS S1およびS2について

IFRS S1(全般的な開示要件)
企業のサステナビリティリスクおよび機会を財務報告と統合することを求める。
気候変動を含むESG要素が企業価値に与える影響を報告する。

IFRS S2(気候関連開示)
ガバナンス、リスク管理、戦略、温室効果ガス排出量(Scope 1, 2, 3)を報告することを義務付け。
戦略の項目では物理的リスク(気候変動による影響)と移行リスク(規制・市場変化による影響)を評価することを求めなど、TCFD開示と比較してより詳細化。

3. ISSB基準における同時開示と二段階開示

ISSB基準は原則として財務報告とサステナビリティ報告を同時開示することを求めています。しかし、初年度の導入負担を軽減するため、経過措置として二段階開示が認められています。

初年度
二段階開示が可能(財務報告後、一定期間内にサステナビリティ報告を提出)。

次年度以降
同時開示が義務化。
このため、企業は将来的に同時開示へ移行する必要があります。

引用:第3回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ

4. 同時開示方針と二段階開示方式の比較

同時開示の特徴と影響についてメリット、デメリットを紹介します。

同時開示の特徴

メリット
透明性が高く、投資家の信頼を獲得しやすい。
市場の価格形成に迅速に反映される。
規制当局の求める一貫した報告を実現できる。

デメリット
データ収集・算定及び検証の負担が大きい。
開示期限までに正確な情報を準備する必要がある。

二段階開示の特徴と影響

メリット
初期の負担を軽減できる(財務データとサステナビリティデータの収集タイミングを分離できる)。
データ精度を高める時間を確保できる。

デメリット
投資家にとって情報が遅れるため、意思決定の遅延を招く。
市場の不透明性が高まり、カーボンプライシングなどへの影響が生じる。

5. 他制度との関連

ここでは他制度(ETS・ICP・CBAM)との関係について解説します。

ETS(排出量取引制度)と開示方式の関係

同時開示を採用すると、企業の排出量データが即座に市場に反映され、カーボン価格の決定に貢献する。一方で二段階開示の場合、市場が最新の排出量データを基に価格調整するまでに時間差が生じることになります。

ICP(内部カーボンプライシング)との関連

企業内部の排出量コスト算定において、リアルタイムデータが必要な場合、同時開示が有利。
二段階開示では、初期の概算データを基にICPを算定し、後から修正する形になる可能性がある。

CBAM(炭素国境調整メカニズム)との関係

同時開示を採用すれば、輸出入企業は即時にカーボンフットプリントを提示でき、CBAM対応がスムーズになる。二段階開示の場合、初期データと最終データの不整合が生じるリスクがある。

6. 同時開示と二段階開示における企業の対応戦略

短期的対応(初年度)
ISSB基準適用初年度は二段階開示が許可されるため、段階的な開示戦略を検討する。
内部データ管理体制を強化し、二段階開示から同時開示へスムーズに移行できるよう準備を進める。

中長期的対応(2030年以降)
同時開示の義務化に対応するため、データ収集・報告体制の整備が必須。
ICPやETS、CBAMと連携し、排出量データをリアルタイムで活用できるような強固な内部統制の構築
特に社内ルールの文書化とITシステムの整備。

7. 同時開示と二段階開示についてのまとめ

同時開示と二段階開示は、企業の排出量報告の透明性や市場への影響に大きく関わる重要な概念です。ISSB基準のもと、初年度は二段階開示が許可されるが、最終的には同時開示が義務化されます。
またETSやICP、CBAMなどのカーボンプライシング制度とも密接に関係し、開示タイミングが市場価格にも影響を与えます。
企業は短期的には二段階開示を活用しつつ、最終的には同時開示へスムーズに移行する体制を整えることが求めらており、今後、規制や市場環境の変化に伴い、開示方式の最適化が求められるため、企業は最新の動向を把握し、持続可能な成長戦略を策定することが不可欠です。

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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