【FTSE】他ESG格付機関との評価手法比較

ESG格付はFTSEを含む複数の機関によって提供されています。本記事では、FTSEと主要なESG格付機関(MSCI、S&Pグローバルなど)の評価手法の違いを比較し、それぞれの特徴を解説します。各機関の評価方法やスコア算出基準は異なるため、同じ企業でも格付結果が一致しない場合があります。企業にとっては、各格付機関の特徴を理解し、適切に対応することが重要です。

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目次

1.主なESG格付機関とFTSEの位置づけ

ESG格付けを提供する主な機関には、FTSE RussellのほかMSCI(エムエスシーアイ)、S&Pグローバル(旧RobecoSAM、ダウ・ジョーンズサステナビリティ指数の評価会社)、Sustainalytics(サステイナリティクス、現モーニングスター傘下)などがあります。いずれの機関も投資家向けに企業のESGパフォーマンスを評価・スコア化していますが、評価項目には共通点がある一方で、その評価手法や採点基準は機関ごとに異なるため、企業側には個別の対応が求められる部分もあります。特にFTSEとMSCIは、日本の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内株式のESGパッシブ運用に採用する指数の算出に利用されており、国内企業にとって重視すべき格付機関と言えます。一方、グローバルな大手機関投資家からの評価を意識する場合は、Sustainalyticsなど他の格付も無視できません。

2.FTSEとMSCIの評価手法の比較

MSCIのESG格付(MSCI ESG Ratings)の特徴

MSCIはモルガンスタンレー傘下の企業で、世界的に幅広いESG格付を提供しています。MSCIの評価手法はFTSEと同様、業種ごとに重要なESG課題(Key Issues)を特定し、それぞれの企業の取組状況を評価する点で共通しています。しかし、MSCIでは各ESG課題について「そのリスクや機会が顕在化する想定期間」を考慮に入れている点がFTSEとは異なります。具体的には、想定期間が短期(例:2年以内)か長期(5年以上)かによって課題に対する重みづけを変えており、短期的に顕在化し得るリスクにはより高いウェイトを置いて評価する手法を採っています。FTSEには時間軸の概念は明示的には組み込まれていないため、MSCIの特徴的な部分と言えるでしょう。

また、MSCIのESG格付における総合評価スコアは、AAAからCCCまでの7段階のレーティングで表されます。これは数値(0~5)で示されるFTSEのスコアとは形式が異なります。MSCIでは同業他社との相対評価に基づき、AAA(リーダー)からCCC(ラガード)までの格付けを付与する方式が採られています。評価プロセス自体は公開情報に基づいて財務的に重要なESGリスクへの対応力を分析する点でFTSEと目的を同じくしていますが、スコア表現やリスクの時間軸考慮といった点で両者には違いがあります。

S&Pグローバル(DJSI)の評価手法

S&Pグローバル(旧RobecoSAM)は、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)シリーズの評価で知られる機関です。その最大の特徴は、各企業に対して詳細なサステナビリティ評価の質問票(アンケート)を送り、非公開情報も含めた回答を収集して分析するコーポレート・サステナビリティ評価(CSA: Corporate Sustainability Assessment)を実施していることです。FTSEやMSCIが企業の公開情報を主な情報源とするのに対し、S&Pの手法では企業自らが提出する追加情報や証拠書類が評価に反映されます。このため、調査項目の深さと網羅性に定評があり、企業のサステナビリティ活動をより細部まで評価できる反面、企業側の回答負荷は高くなります。

業界内での相対的位置付け

S&Pグローバルの評価では、ESGパフォーマンスが百分率スコア(0〜100点)で算出され、業種内での相対的位置づけが明らかになります。DJSIなどの指数は各業種ごとの上位企業が選定される方式で、たとえば「DJSI World」ではCSAスコアが業種トップ数%に入る企業が採用されます。さらにS&Pは評価過程でメディア&ステークホルダー分析(外部から報じられる企業の問題や論争リスクのチェック)も行っており、企業の持続可能性に対する総合的な評価を下します。

このようにS&Pグローバル(CSA/DJSI)は、企業からの詳細な情報提供を受けて評価するアプローチを取っており、公開情報中心のFTSEやMSCIとは評価プロセスが大きく異なります。スコア算出尺度(7段階評価 vs 100点満点)も異なるため、企業はS&P向けにはより精緻な内部データの開示とエビデンスの整備が求められる点に留意が必要です。

3.Sustainalyticsやその他の格付機関の特徴

Sustainalytics(サステイナリティクス、現在は米Morningstarグループの一員)は、他の格付機関とはやや異なるリスク評価アプローチを取っている点が特徴的です。同社の提供するESGリスクレーティングでは、各企業が抱える「未管理のESGリスク」の程度を数値化して評価します。スコアは原則として数値が低いほどリスクが小さい(管理が行き届いている)ことを意味し、例えば「リスクスコア10」は「リスクスコア30」よりもESGリスクへの対応が進んでいると判断されます。従来の格付が「高い方が良いスコア」なのに対し、Sustainalyticsでは低リスクであるほど評価が高いという逆の指標となっている点に注意が必要です。

Sustainalyticsの手法はESGリスクの大きさに着目するため、投資家にとって企業の潜在リスクを比較しやすいメリットがあります。実際、世界の大手機関投資家の中にはSustainalyticsのリスクスコアを重視する例も増えており、グローバルに定評のある格付の一つとなっています。そのほか、ISS-ESG(経営権投資顧問のISSによる格付)やMoody’s ESG、気候変動や環境特化のCDPスコアなど、様々な評価機関が存在します。各社ごとに評価範囲や手法が異なるため、企業は主要な格付機関の特徴を把握した上で自社のESG戦略に活かす必要があります。

4.異なる格付結果への対応と留意点

前述のように、ESG格付機関によって評価手法やスコアリングが異なる結果、同一企業でも格付結果に差異が生じることがあります。実際、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が公表した分析によれば、FTSE社とMSCI社のESGスコアには、評価分野によって相関性の強さが異なることが確認されています。具体的には、ESG総合スコアおよび「環境(E)」スコアでは一定の正の相関が見られたものの、「社会(S)」および「ガバナンス(G)」スコア間では明確な相関が認められなかったと報告されています。これは、ある企業がFTSEで高スコアであってもMSCIでは必ずしも高評価になるとは限らないことを示唆しています。

このような格付結果のばらつきに対応するため、企業側では複数の格付機関の基準を満たす情報開示とESG活動をバランスよく行うことが重要です。一つの格付だけに注力するのではなく、自社のESG取り組みを総合的に強化・開示していくことで、どの格付機関においても一定以上の評価を得ることが望ましいと考えられます。例えば、GPIFの指数採用を目指すのであればFTSEやMSCIの基準を重視しつつ、海外投資家の評価を意識するならSustainalyticsなどの指標にも目を配る、といった戦略が考えられます。

国際的なESG情報開示フレームワークの活用

また、国際的なESG情報開示フレームワークを活用することも有効です。各格付機関が求める情報には共通点が多いため、GRIスタンダードや統合報告フレームワーク、TCFD提言など世界的な開示基準に沿って自社のESG情報を整理・公表すれば、結果的に複数のESG格付で一定水準の評価を確保できると指摘されています。実際、主要な格付機関はこれら国際フレームワークで重視される情報(気候変動関連情報や人的資本など)を評価項目に取り入れているため、グローバル基準に沿ったESG経営はあらゆる格付に通用する土台となります。総じて、各ESG格付の違いを正しく理解しつつ、自社の持続可能性情報を広範かつ戦略的に開示していくことが、企業価値向上とステークホルダーニーズ双方に応えるカギとなるでしょう。

引用

日本取引所グループ(JPX)「FTSE Russell, an LSEG business」の紹介ページ (2025年更新)
https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/esg-rating/02.html#


内閣府_平成27年度 女性活躍情報を中心とした非財務情報の投資における活用状況調査
https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/160331_07.pdf

FTSE_FTSE Blossom Japan Sector Ralative Index
https://www.lseg.com/content/dam/ftse-russell/en_us/documents/ground-rules/ftse-blossom-japan-sector-relative-index-ground-rules-japanese.pdf

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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