【FTSE】ESG格付基準と評価メソドロジーについて解説

FTSE Russellは世界的なESG評価機関の一つであり、独自のESG格付スコアを提供しています。フッツィー(FTSE)は企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを多角的に分析し、ESGスコアを算出します。このスコアは機関投資家による投資判断やESG指数の構成銘柄選定に活用されており、信頼性と透明性の高さで知られています。本記事では、FTSEのESG格付基準や評価手法、その特徴について解説します。

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目次

1.FTSE RussellとESG格付の概要

FTSE Russellはロンドン証券取引所グループ(LSEG)傘下のグローバルなインデックス・プロバイダーであり、株価指数やESGインデックス、ESGスコアなどのデータ・分析サービスを世界中の投資家に提供しています。同社はESGや気候変動に関する各種指数を算出するとともに、ESG評価データも提供しています。2023年時点でFTSE RussellがESG評価の対象とする企業は全世界で約8,000社、うち日本企業は約1,400社にのぼります。提供されるFTSE Russell ESGスコアは企業のESGパフォーマンスを総合的に数値化したもので、投資家や企業に広く活用されています。

公開情報のみ評価対象

FTSEは2001年にESG指数「FTSE4Good Index Series」を開始して以来、20年以上にわたり企業のESG情報に基づく評価を継続しています。特に企業の公開情報のみを評価対象とする手法を採用しており、その信頼性と透明性の高さから国際的に注目を集めてきました。また、ESG指数の基盤となっているFTSE RussellのESGスコアも、投資家にとって有用なツールとして広く認識されています。

2.FTSE ESGスコアモデルの構造と評価基準

FTSE RussellのESG評価は、環境・社会・ガバナンスの3つの領域(ピラー)における企業のリスクと取組状況を総合的にスコア化したものです。

ESG評価の枠組み

評価の枠組みとして、企業の事業特性に応じて14のESGテーマが設定されています。内訳は環境分野が5テーマ(「気候変動」「汚染と資源」「生物多様性」「水の安全保障」「サプライチェーン:環境」)、社会分野が5テーマ(「労働基準」「人権と地域社会」「健康と安全」「顧客に対する責任」「サプライチェーン:社会」)、ガバナンス分野が4テーマ(「コーポレートガバナンス」「腐敗防止」「リスクマネジメント」「税の透明性」)です。もっとも、適用されるテーマは各企業の業種や事業内容に依存するため、全ての企業に14テーマ全てが適用されるわけではありません。例えば製造業と金融業では直面するESG課題が異なるため、評価対象となるテーマも異なります。

300設問

各テーマの下には企業のESGへの取り組み状況や情報開示状況を評価するための詳細な設問項目が20~30項目設けられており、総設問数は合計で300を超えます。その中には特定の業界だけに適用される項目も含まれており、例えば銀行業には「与信に関するESG方針の開示」といった金融業特有の評価項目が存在します。このようにFTSEの評価枠組みは、業種ごとのESG課題に対応した柔軟な設計となっています。

3.リスク・エクスポージャーと取組評価のプロセス

FTSEのESG評価プロセスでは、企業が直面する潜在的なESGリスク(エクスポージャー)の大きさと、リスクに対する取組み(対応状況)の両面を評価する点が特徴です。まず、調査対象企業の事業内容・収益構造・活動国などの情報に基づき、先述の14テーマのうち該当するテーマを特定し、各テーマについてリスクの大きさ(エクスポージャーレベル)を「高・中・低」の3段階で判定します。次に、適用された各テーマごとに、企業の公開情報をもとにリスクへの対応状況が評価されます。ここでは企業の取組みの充実度が5段階で評価され、テーマ毎のスコア(テーマスコア)が算出されます。最後に、それぞれのテーマについて判定されたリスクレベルと取組みスコアの値が数式に入力され、環境・社会・ガバナンス各ピラーのスコアおよび総合的なESGスコアが算出されます。FTSE RussellのESGスコアは0〜5点の範囲で付与される5点満点方式であり、これらの算出は透明性の高いルールベースの方法に則っています。

取組評価のプロセス

算出されたFTSE ESGスコアは、そのまま企業のESGパフォーマンス総合評価となるだけでなく、ESG投資のための株価指数への組み入れ基準にも利用されています。例えば、日本株を対象とした「FTSE Blossom Japan Index」では、FTSE ESGスコアが3.3以上の企業が構成銘柄として選定されます。このようにFTSEのESGスコアは、企業の相対評価のみならず機関投資家の投資判断基準としても重要な指標となっています。なお、FTSE ESGスコアの評価は年1回見直され、企業の決算期に合わせて毎年6月または12月に最新スコアが公表されます。多くの日本企業の場合、3月期決算の翌年6月頃に新しいスコアが発表されるサイクルとなっています。

4.透明性の確保と評価基準のアップデート

FTSE RussellのESG評価手法は、その透明性と客観性を確保するよう設計されています。企業に対して追加の質問票を送付せず公開情報のみに依拠して評価を行うため、恣意的な情報や非公開情報に左右されにくいのが特徴です。実際に、FTSEの調査員は企業が開示する有価証券報告書や統合報告書、企業ウェブサイト上の情報など全て公開されている資料のみを収集・確認して評価を実施しています。評価の過程で参照した情報源も後で企業側が確認できるように提示されるなど、プロセスの透明性が高められています。

国際的なフレームとの整合

さらにFTSEの評価項目は、GRIスタンダードやSASB基準、TCFD提言など国際的に支持されているESG情報開示のフレームワークを考慮して設計されています。これは企業にとって、自社のESG情報開示をこれらグローバル基準に沿って行うことでFTSEの評価要件を自然に満たしやすくなることを意味します。また、FTSEは評価基準を取り巻く最新動向を反映し、毎年メソドロジーを定期的に更新しています。例えば2018年には水資源リスクの高まりを受けて「水の安全保障」テーマを強化し、2019年には「人権と地域社会」の調査項目を見直すなど、毎年評価基準に見直しと改訂が加えられています。このような継続的アップデートにより、FTSEのESGスコアは最新のサステナビリティ課題を適切に織り込んだ指標であり続けています。

引用

日本取引所グループ(JPX)「FTSE Russell, an LSEG business」の紹介ページ (2025年更新)
https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/esg-rating/02.html#

内閣府_平成27年度 女性活躍情報を中心とした非財務情報の投資における活用状況調査
https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/160331_07.pdf

FTSE_FTSE Blossom Japan Sector Ralative Index
https://www.lseg.com/content/dam/ftse-russell/en_us/documents/ground-rules/ftse-blossom-japan-sector-relative-index-ground-rules-japanese.pdf

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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