【CBAM】CBAMの影響を受ける業界と企業対策

EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)は、特に排出量の多い産業に大きな影響を及ぼします。
本記事では、CBAMの影響を受けやすい主な業界と、その業界の企業が取るべき対策について解説します。

目次

1.CBAMの影響が大きい主な業界

CBAMの対象となる製品は、現在のところ以下のような高炭素産業に集中しています​。
これらの業界は製造工程で大量のCO2を排出するため、CBAM適用によるコスト増加や競争環境の変化が特に顕著になると予想されます。

セメント業界

セメント製造過程では、石灰石を焼成する際の化学反応と燃料燃焼の両面から大量のCO2が発生します。代替素材が限られることから排出削減が難しい業界ですが、CBAM導入により低炭素型セメント(例えば混合セメントや製造プロセスでのCCUS技術活用)の開発が急務となっています。

引用:JETRO EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

鉄鋼業界

鉄鋼生産は高炉による石炭利用などにより膨大なCO2を排出します。日本を含む世界の鉄鋼メーカーは、CBAMにより欧州市場向け製品のコストが上昇する可能性に直面しています。特に鉄鋼は取引量も多く影響範囲が広いため、CBAMの動向が注目される分野です。

引用:JETRO EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

アルミニウム業界

アルミ精錬は電力多消費型プロセスであり、電源構成によっては間接的なCO2排出が非常に大きくなります。EUでは再生可能エネルギー電力で製造された「グリーンアルミ」の需要が高まる可能性があり、化石燃料由来電力に依存したアルミ製品はCBAMで不利になるでしょう。

引用:JETRO EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

肥料業界

肥料、とりわけ窒素肥料(アンモニア)の生産では、化石燃料から水素を生成する過程でCO2が大量に排出され、また副生成物としてN2O(一酸化二窒素)も発生します。CBAMの適用によって従来型肥料のコストが上がる一方、再生可能エネルギー由来の水素で製造する「グリーンアンモニア」など新技術へのシフトが促されるでしょう。

引用:JETRO EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

電力業界

EUは周辺国との電力取引も対象に組み込んでおり、石炭火力など高排出の発電電力にはCBAMコストが反映されます。日本企業では電力の輸出入は直接関係ありませんが、製造業にとって電力由来の排出削減(再エネ転換)は間接的にCBAM対策につながります。

水素産業

水素は将来のエネルギーキャリアとして期待されていますが、現状の多くは天然ガス改質による「グレー水素」でCO2排出が伴います。CBAM対象に水素が含まれたことで、排出の少ない「グリーン水素」(再エネ電力での水電解製造)への転換が国際的に後押しされています。水素関連事業者は生産プロセスの脱炭素化が競争上不可欠となるでしょう。

引用:JETRO EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

以上の業界は、CBAMの直接影響が大きい分野です。さらに将来的には、化学(石油化学)や自動車など他の産業にもCBAMの対象が広がる可能性があり、サプライチェーンを通じた影響にも注意が必要です。

2.CBAM対象業界の企業が取るべき対策

高炭素産業の企業にとって、CBAM時代を生き抜くためには抜本的な脱炭素戦略が求められます。

以下に、主な対策の方向性を業界横断的な観点からまとめます。

技術革新による排出削減

各業界とも、根本的には製造プロセスの革新によって排出量を減らす必要があります。鉄鋼であれば高炉から電炉へのシフトや水素還元製鉄の実用化、セメントでは代替原料の使用や炭素回収・利用(CCUS)の導入、アルミニウムでは再生アルミの活用や電力の脱炭素化、肥料では製造プロセスの電化とグリーン水素の投入など、業界固有の技術開発がカギを握ります。企業は研究開発投資や実証プロジェクトへの参加を通じて、これらの低炭素技術を自社の競争力に転換していくことが重要です。

エネルギー転換と効率化

製造時に使用するエネルギー源の転換も共通の課題です。再生可能エネルギー電力の調達拡大や、自家発電設備の再エネ化によって、製品あたりの間接排出を削減できます。特にアルミニウムや化学産業では電力由来の排出が大きいため、電力の低炭素化がCBAMコスト低減に直結します。また、設備の高効率化や廃熱利用など、省エネ施策による燃料使用量の削減も各業界で取り組むべき対策です。生産効率が上がれば、単位製品あたりの排出も減り、CBAM負担の軽減につながります。

サプライチェーン全体での対応

高炭素産業では、上流から下流まで広いバリューチェーンを持つことが多いため、サプライチェーン全体での脱炭素化連携が必要です。例えば、自動車メーカーは自社がCBAM対象でなくても、素材である鋼板やアルミのコスト増の影響を受ける可能性があります。そのため、自動車メーカーが素材サプライヤーと協力して排出削減に取り組むような動きも重要です。このように、バリューチェーンを横断した協働によって、最終製品のカーボンフットプリント全体を下げていくことが、結果的に各企業の競争力を守ることになります。

規制への先手対応と情報開示

対象業界の企業は、CBAMなどの規制動向に先手を打って対応策を講じる姿勢が求められます。具体的には、早期に自社の排出量算定と第三者検証を行い、必要な情報をステークホルダーに開示していくことが有効です。欧州の取引先や投資家は、今後ますますサプライヤーの炭素情報開示や削減計画を重視するでしょう。自社の排出データを透明性高く公開し、CBAMへの対応方針(例えば将来の排出削減目標や設備投資計画)を示すことで、取引先の信頼を維持できます。また、政府や業界団体と連携して政策提言や情報収集を行うことも重要です。業界全体で現実的な脱炭素ロードマップを描き、必要な支援策を訴えていくことで、企業個社の負担を軽減する道も開けるでしょう。

3.CBAMまとめ

CBAMの影響を強く受ける業界として、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力、水素などが挙げられます。これらの業界に属する企業は、技術革新やエネルギー転換、サプライチェーン協働など多角的な対策を講じ、脱炭素への対応を競争力強化につなげていく必要があります。CBAMは厳しい規制である一方、低炭素化を推進する大きな潮流でもあります。各企業がこの潮流を捉え、積極的な対応策を実施することで、新たなビジネスチャンスを掴む契機ともなるでしょう。​

引用元

CBAM対象セクター詳細 (鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・電力・水素)
提案規則:付属書I (対象製品の関税コード)

エネルギー転換・再エネ利用に関する情報
IEA (国際エネルギー機関)

カーボンリーケージ防止措置との関係
EU ETSのカーボンリーケージリスト

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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