【第三者保証】ISAE 3000 保証業務の汎用基準

ISAE 3000(International Standard on Assurance Engagements 3000)は、財務情報や非財務情報を含む幅広い保証業務に適用される国際基準です。

国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって策定され、第三者保証業務の信頼性を高めることを目的としています。この基準は、監査人やその他の保証業務提供者が、対象情報が特定の基準に適合しているかを評価し、それに基づいた意見を表明するための包括的な枠組みを提供します。ISAE 3000は、財務報告書以外の分野で保証業務を提供する際に適用され、多様な利用者のニーズに対応してきました。

本記事では、ISAE 3000の目的、構造、適用範囲、主な特徴、および今後の展望について解説します。

目次

1.第三者保証におけるISAE 3000の策定背景と意義

ISAE 3000は、2003年に初めて策定され、2013年に改訂された保証業務の国際基準です。
この基準は、財務報告書の監査に焦点を当てた既存基準(例:ISAシリーズ)とは異なり、より広範な対象に対応するために作られました。

近年、企業活動が多様化し、非財務情報(例:環境、社会、ガバナンス(ESG)情報)の重要性が増大しています。
投資家やステークホルダーは、これらの情報の信頼性を重視するようになり、ISAE 3000はそのニーズに応える役割を果たしてきました。

2.第三者保証で利用されるISAE 3000の構造と適用範囲

ISAE 3000は、保証業務を実施するための枠組みを提供し、以下のような広範な情報を対象としています

保証対象

財務情報
財務報告書に含まれない情報(例:予算報告、収益見込み)

非財務情報
サステナビリティ、環境、社会、人権、ガバナンス(ESG)情報

特定の手続き
法規制への準拠、内部統制の有効性の検証

保証水準

保証業務には、以下の2つの水準が含まれます。

合理的保証
高度な検証手続きを行い、高い信頼性を提供

限定的保証
検証手続きが限定され、一定の正確性を担保

3.ISAE 3000 限定的保証と合理的保証の違い

ISAE 3000では、保証水準として「合理的保証」と「限定的保証」を規定しています。

合理的保証

監査人が対象情報に関する高い信頼性を提供します。
対象情報に虚偽記載がないという合理的な確信を得るために、リスクベースの詳細な検証を実施します。

例: 内部統制の有効性を確認するための現場訪問

限定的保証

情報に関する中程度の信頼性を提供します。
検証手続きが限定的で、保証範囲が狭くなるケースに適しています。

例: サステナビリティ報告書の一部に限定したレビュー

これらの水準の違いにより、利用者はニーズに応じた保証を選択することが可能です。

4,ISAE 3000の主な特徴

ISAE 3000は、保証業務を実施する上での汎用的な枠組みを提供しており、以下のような特徴があります

適用範囲の広さ

財務情報と非財務情報の両方に適用できるため、企業の幅広い保証ニーズに対応しています。これにより、内部統制や規制準拠など、さまざまな分野で活用されています。

保証業務の透明性
ISAE 3000は、保証業務のプロセスを透明にすることを求めています。保証報告書では、実施した手続き、結果、そして限界について明確に記載する必要があります。

専門性と職業的懐疑心
保証業務を実施する者には、専門的なスキルと職業的懐疑心が求められます。特に、非財務情報では専門知識が重要です。

リスクベースのアプローチ
ISAE 3000では、リスクを特定し、それに基づいた手続きを設計することが推奨されています。このアプローチにより、保証の質が向上します。

5.第三者保証におけるISAE 3000の課題とISSA 5000への統合

ISAE 3000は汎用的な基準として幅広い分野で利用されていますが、いくつかの課題があります。

非財務情報への対応の限界
サステナビリティ情報特有の基準や手続きが明確でないため、監査人や保証業務提供者にとっては対応が難しい場合があります。

専門性の不足
サステナビリティ情報に特化した保証業務では、環境科学や社会学など特定分野の専門知識が求められる一方、ISAE 3000ではこれらの分野を十分に網羅していません。

これらの課題を背景に、IAASBはサステナビリティ情報に特化したISSA 5000を策定しました。ISSA 5000は、非財務情報を対象とした保証業務のために設計され、ISAE 3000の限界を補完することを目的としています。

ISAE 3000では対応が難しかったサステナビリティ情報特有の手続きや基準が、ISSA 5000によって強化され、保証業務の専門性が向上しています。また、サステナビリティ情報に特化した基準として、一貫性のある国際的な枠組みを提供することで、保証業務全体の信頼性も高まりました。さらに、IAASBの主導のもと、ISAE 3000とISSA 5000が統合されることで、将来的には国際的に統一された保証基準が形成される可能性が高まっています。

6.ISAE 3000における第三者保証業務の汎用基準

ISAE 3000は、保証業務の汎用基準として多くの分野で活用されてきましたが、特に非財務情報の分野で限界が見られます。このような背景から、サステナビリティ情報に特化したISSA 5000の策定が進められました。今後、ISAE 3000の一部機能はISSA 5000に統合され、より専門性と一貫性の高い保証基準が誕生することが期待されます。これにより、サステナビリティ保証の分野で企業とステークホルダー双方にとって大きなメリットがもたらされるでしょう。

参考サステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に対する保証業務への国際保証業務基準3000(ISAE 3000)(改訂)の適用に関する規範性のないガイダンス

https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/5-8-0-2a-20220113_1.pdf

サステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に関する補足資料2021年4月

https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/5-8-0-2b-20220210.pdf

https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/5-8-0-2c-20220210.pdf

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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