削減貢献量(WBCSD)とは 考え方・実務対応を整理

削減貢献量(Avoided Emissions)とは、企業の製品やサービスによって実現される温室効果ガス(GHG)排出削減効果を定量化した指標です。近年、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)がグローバル指針を策定し、注目を集めています。本記事では、削減貢献量の基本概念から課題、実務のポイントまでを体系的に解説します。

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目次

1. 削減貢献量の基本概念と位置づけ

削減貢献量の定義

削減貢献量とは、特定の気候変動ソリューションを導入した場合に排出されるGHG量と、それを導入せずに従来の代替手段を用いた場合に排出されるGHG量との差分として定義されます。簡潔に言えば、自社のソリューションによって社会全体で減らせたCO2量です。WBCSDは2025年版ガイダンスで、この概念を Avoided Emissions(回避された排出量)と定義しました。

GHGプロトコルとの関係

削減貢献量は、企業の直接・間接排出量を測定するGHGプロトコル(スコープ1・2・3)とは明確に区別される指標です。GHGプロトコル上では他者への貢献分を自社の排出量と相殺することは許容されていません。そのため、削減貢献量はスコープ4と呼ばれることもありますが、あくまで補助的な情報開示項目として位置づけるのが適切です。

企業戦略上の位置づけ

WBCSDガイダンスでは、気候変動対応の優先順位として、まず自社排出の削減(ピラーA)、その次に社会の脱炭素化への貢献(ピラーB)を挙げています。削減貢献量はこのピラーBに該当し、自社の排出削減努力を前提とした上で追加的に主張すべき指標です。環境価値を提供する企業にとって、自社の提供価値を示す重要なKPIとなり得ます。

2. WBCSDによるガイダンス策定とその意義

グローバル標準化への歩み

削減貢献量の考え方は以前から存在していましたが、統一された算定ルールがなかったため各社が独自の手法を用いていました。これに対し、WBCSDが中心となって2023年3月に算定・報告ガイダンスを発行し、2025年7月には改訂版v2.0を公表しました。これにより、グローバルな標準化への道筋が示されました。

ガイダンスv2.0における強化ポイント

2025年版のガイダンスv2.0では、参照シナリオの定義方法や使用データの品質確保など、算定時の考慮事項が具体化されました。また、最新の第三者検証済みGHGインベントリ公開や1.5度目標の設定といった適格要件も明確化されています。報告テンプレートの提示や国際基準との整合性も図られ、透明性の高い開示が可能となりました。

標準化がもたらす価値

共通ルールの下で信頼性の高い開示が可能になったことで、グリーンテクノロジーの優劣比較や投資判断に活用しやすくなりました。これは技術革新のインセンティブにも繋がります。日本国内でもGXリーグが基本指針を策定するなど、グローバル標準と歩調を合わせる形で情報開示の輪が広がりつつあります。

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3. 削減貢献量という指標の限界と課題

仮想的な推計値としての性質

削減貢献量は実測値ではなく、シナリオ比較による推計値です。そのため、参照シナリオの選定によって数値が大きく変動する可能性があり、絶対的な精度は保証されません。数値を公表する際は、どのような条件と比較した結果であるかを明確に伝える必要があります。

ダブルカウントのリスク

社会全体で見た削減量は単一ではないため、複数企業が同じ排出削減を自社の貢献として主張する二重計上の恐れがあります。例えば再エネ設備の場合、メーカーと電力会社がそれぞれ全量を主張すればダブルカウントとなります。マクロの視点では単純な合算ができないことを認識しておく必要があります。

自社排出増加とのトレードオフ

環境ソリューションの供給を拡大すれば社会の排出は減りますが、製造に伴う自社の排出(スコープ1〜3)は増加する場合があります。WBCSDは削減貢献量と自社排出実績を安易に相殺すべきではないと強調しており、プラスとマイナスの両面を総合的に評価することが求められます。

将来予測に伴う不確実性

製品ライフサイクル全体など将来にわたる効果を見積もる際、電力の排出係数や他技術の普及動向といった不確実な予測が含まれます。技術進歩によって当初の参照シナリオが陳腐化する可能性もあるため、ある程度の誤差範囲や将来変化を織り込んで慎重に捉える姿勢が必要です。

多面的な社会影響評価の難しさ

削減貢献量はGHG削減に特化した指標ですが、ソリューションの価値はそれだけではありません。例えばEV普及はCO2削減に寄与する一方で、資源採掘の社会影響などの課題も伴います。単一の数値で価値を過信せず、副次的な影響やリバウンド効果を含めた包括的な視点を持つことが重要です。

4. 削減貢献量算定の実務ポイント

LCA手法に基づいた算定プロセス

削減貢献量はライフサイクルアセスメント手法に則って算定します。ソリューションの機能単位とシステム境界を設定し、参照シナリオを定義した上で、両者の排出量をデータ収集・計算して差分を求めます。WBCSDガイダンスが示す5つのステップに沿って進めるのが基本です。

透明性の確保と不確実性への対応

算定時には、参照シナリオの妥当性やデータの精度管理に注意を払う必要があります。特に将来予測を含む仮定については、その透明性を確保し、どのような推計に基づいているかを明示します。ダブルカウント防止策についても、自社の主張範囲を明確にするなどの配慮が求められます。

対外的な情報開示の要諦

開示の際は、単に数値を示すだけでなく、比較対象や計算方法、製品ごとの内訳などを詳細に報告します。また、自社排出実績とは別枠で扱い、両者を混同・相殺しないことが重要です。読み手が裏付けを理解できるように丁寧にコミュニケーションを行うことが信頼に繋がります。

国内外の動向と戦略的対応

日本では経済産業省や金融庁が開示を促進しており、国際的にもTCFDやCSRDの枠組みで貢献指標の報告が議論されています。早めに社内で算定・開示の基盤を構築しておくことで、将来的な規制対応や投資家からの要求に先手を打つことが可能になります。

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5. おわりに

削減貢献量は、企業がイノベーションを通じて気候変動対策に寄与する度合いを数値化できる有用な指標です。適切に活用することで、自社を気候価値創造型の企業としてアピールできます。ただし、指標の限界や注意点を正しく認識し、透明性と客観性を確保した運用が不可欠です。国際標準に沿った算定と誠実な情報開示を実践し、サステナビリティ戦略を次のステージへと押し進めていきましょう。

引用

  • WBCSD 削減貢献量算定・報告ガイダンス v2.0
  • 経済産業省 削減貢献量の算定・活用に関する指針
  • 日本公認会計士協会 非財務情報に対する保証業務の指針
  • GXリーグ 排出量削減等に関する開示事項の検討結果
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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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