TCFD 概要
TCFDは気候変動に関する財務情報の開示枠組みであり、企業が気候リスクと機会を適切に経営に組み込むことを促します。本記事では、TCFD提言が求める4つの開示要素、すなわちガバナンス・リスク管理、シナリオ分析、財務影響算定、指標と目標について全体像を整理します。各要素の定義や論点、他の基準との比較、実務での対応プロセスを網羅的に解説し、企業のサステナビリティ担当者が自社の気候対応戦略を高めるための指針を提供します。


TCFD 要約
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業に対し気候変動リスクと機会に関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4分野について情報開示を求める国際的な枠組みです。
TCFD 結論
TCFDの4要素(ガバナンス・リスク管理、シナリオ分析、財務影響算定、指標と目標)を総合的に実施することで、企業は気候変動が自社経営に与える影響を確的に把握し、投資家や金融機関に対して透明性の高い情報開示が可能になります。TCFD提言は自主的な枠組みとして始まりましたが、現在は各国の規制や国際基準に組み込まれ、事実上の標準となりつつあります。気候リスクへの対応を企業価値向上につなげるために、ガバナンス体制の強化、長期シナリオを踏まえた戦略策定、リスク管理プロセスへの統合、そして定量的な指標による進捗管理が不可欠です。本記事と各記事を通じ、包括的なTCFD対応のポイントを理解し、実務に活かしていただければ幸いです。
TCFD 背景
TCFDは2015年に金融安定理事会 (FSB) が設立し、2017年6月に最終提言を公表した気候関連財務情報開示のフレームワークです。狙いは気候変動が企業の財務に与える影響を可視化し、投資家が適切にリスク評価できる情報基盤を作ることにありました。その後TCFD提言は世界中で支持され、2023年10月時点で世界のTCFD賛同組織は約4,872に上り、その約30%が日本企業という状況になっています。特に日本では、民間主導で「TCFDコンソーシアム」が2019年に設立されガイダンス策定など普及に貢献しました。TCFD提言に沿った開示は欧州連合、英国、カナダ、日本など各国で推奨から義務へ移行しつつあり、ニュージーランドでは2023年、英国でも2025年からTCFDに準拠した開示が義務化されています。金融庁も2023年度より有価証券報告書でのサステナビリティ開示欄を新設し、TCFDの「ガバナンス」 「リスク管理」情報を全企業に必須開示とする方針を示しました。さらにTCFDは2023年10月にその使命を終えて解散し、その役割は国際会計基準審議会 (ISSB) の気候開示基準(IFRS S2) に引き継がれました。IFRS S2ではTCFDの全ての推奨開示事項が含まれるとともに、産業別指標やネットゼロ目標の進捗、ファイナンス排出量など一層具体的な開示が要求されます。TCFDは自主的枠組みとして気候情報開示の水準を引き上げ、現在では事実上グローバルスタンダードの位置づけとなっています。この背景からも、自社のTCFD対応を強化することは、国際的な投資資金を呼び込む上で避けて通れない課題となっています。
TCFD 定義
- ガバナンスとは、気候変動課題に対する組織の意思決定と監督の体制を指します。具体的には、取締役会による気候リスク・機会の監視体制や、経営陣による評価・管理の役割分担を含みます。
- リスク管理とは、気候変動リスクを企業がどのように特定・評価し、対応策を講じているかの管理プロセスを指します。既存の全社的リスク管理 (ERM)に気候リスクを統合し、発生可能性や影響度に基づき優先順位付けすることが求められます。
- シナリオ分析とは、将来の気候変動シナリオを設定し、そのもとで自社事業や戦略がどのような影響を受けるかを分析・評価する手法です。不確実な将来を見据え、2℃未満シナリオなど複数の前提条件で事業のレジリエンスをテストします。
- 財務影響算定とは、気候変動に伴うリスクや機会が、売上・費用・資産価値など企業の財務指標に与える影響を金額等で見積もることを指します。例えば炭素税導入によるコスト増加額や、異常気象による損害見積もりなど、リスクの経済的影響を定量化します。
- 指標と目標とは、気候関連の取組状況を測る具体的な数値指標(KPI)と、その達成目標を指します。典型例は自社の温室効果ガス (GHG) 排出量やエネルギー消費量に関する指標と、それらを○年までに△%削減するといった中長期の数値目標です。

TCFD 論点
| 論点 | 詳細を解説する子記事 | 実務での重要度 | 判断のポイント |
| ガバナンスとリスク管理 | 「ガバナンス・リスク管理」 | 極めて高い | 経営陣のコミットメントと統合的リスク管理体制 |
| シナリオ分析 | 「シナリオ分析」 | 高い | 長期シナリオへの備えと戦略のレジリエンス検証 |
| 財務影響算定 | 「財務影響算定」 | 高い | 気候要因の財務インパクトの定量評価 |
| 指標と目標 | 「指標と目標」 | 高い | 進捗状況の定量的な把握と目標達成度の管理 |

TCFD 比較
| 項目 | TCFD提言(2017) | ISSB気候開示基準 (IFRS S2, 2023) | 欧州CSRD (ESRS E1, 2024) |
| 性質 | 自主的な開示フレームワーク | 国際的なサステナビリティ開示基準 | EU法令(企業サステナビリティ報告指令) |
| 義務化 | 任意(2023年10月に活動終了) | 各国で順次導入検討(一部地域で準拠義務) | EUで2024年以降段階的に義務化 |
| 対象範囲 | 気候関連の財務影響(気候リスクと機会) | 気候関連財務情報 (詳細な開示要求を含む) | 環境・社会・ガバナンス全般(気候は一部) |
| 情報開示 | 4分野・11項目の推奨開示 | TCFDの開示項目を完全踏襲+追加要件 | ESRS基準に基づき詳細な定性・定量開示 |
| マテリアリティ | 財務影響に着目(シングル) | 財務影響に着目(シングル) | ダブルマテリアリティ (影響と財務の両面) |
TCFD 章解説
- 「ガバナンス・リスク管理」では、気候変動課題に対する経営体制の構築と、既存のリスク管理への統合手法について解説します。取締役会や経営層の関与を強化したい経営企画・リスク管理担当者向けの内容です。
- 「シナリオ分析」では、将来の温暖化シナリオに基づき自社の脆弱性や戦略の耐性を評価する方法とポイントを紹介します。中長期戦略の策定やリスク評価に関わる実務者に参考となる記事です。
- 「財務影響算定」では、炭素税等の気候要因が企業財務に与える影響を金額で試算する手法や課題を説明します。気候リスクを定量評価して経営判断に活かしたい経理・財務部門の方に有益な内容です。
- 「指標と目標」では、GHG排出量などの重要指標の測定方法と、科学的根拠に基づく削減目標の設定・管理について解説します。環境データ管理やESG目標の策定・進捗管理を担当する方向けの記事です。

TCFD 手順
- 経営方針とガバナンス体制の整備: 取締役会における気候変動への監督責任を明確化し、サステナビリティ委員会等の専門組織を設置します。経営トップが気候課題へのコミットメントを表明し、社内の方針として位置付けます。
- リスク・機会の特定と評価: 社内に横断的なワーキンググループを結成し、自社の事業に影響を及ぼし得る気候関連リスクと機会を洗い出します。重要度(発生可能性と影響度)に基づいて優先順位を評価し、マテリアルなリスク・機会を絞り込みます。
- シナリオ分析の実施: 特定した主要リスク・機会について、例えば産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えた場合や4℃近く上昇した場合など複数の気候シナリオを設定します。各シナリオで自社の事業・財務にどのような影響が生じるかを分析し、戦略のレジリエンス (耐性)を評価します。
- 財務影響の算定と戦略への反映: シナリオ分析の結果を踏まえ、炭素価格の上昇によるコスト増や極端気象による損失など、予想される財務的影響を定量的に算出します。そのうえで事業計画や資本支出計画に気候リスクを織り込み、必要に応じて戦略の見直しや、脱炭素技術への追加投資などを検討します。
- 対応策の実行とリスク管理プロセス統合:気候変動リスクへの具体的な対応策を策定し、事業運営に組み込みます。低炭素製品の開発、エネルギー効率化、サプライチェーン強化などの施策を実行するとともに、これら気候リスク管理プロセスを企業の統合的リスク管理(ERM)に組み入れ、定常的にモニタリングします。
- 指標の測定と目標設定: 温室効果ガス排出量 (スコープ1・2・3)など、気候関連のパフォーマンス指標を継続的に測定します。そして、科学的根拠に基づいた中長期の排出削減目標や再生可能エネルギー比率目標を設定し、社内外に公表します。
- 開示と保証: 上記の取組状況を統合報告書や有価証券報告書などで毎年開示します。その際、開示内容の信頼性を高めるため、GHG排出量等のデータについて第三者機関による保証・検証を受けることが望まれます。

TCFD FAQ
TCFD開示は義務なのですか?
TCFD自体はもともと自主的なフレームワークですが、現在では各国の規制に組み込まれつつあり、事実上多くの企業にとって必須の開示事項となりつつあります。例えば、日本でも金融庁の方針により有報での一部TCFD情報開示が義務化され、英国やEUでもTCFDに沿った開示が法律で求められています。つまり形式上は自主的でも、実質的には遵守が求められる段階に移行しています。
なぜシナリオ分析が必要なのでしょうか?
シナリオ分析は、不確実性の高い将来に備えて企業の戦略耐性を試すために重要です。気候変動の進み方によって規制環境や市場条件が大きく変わり得る中、2℃シナリオ等で事業影響を定量化することで、リスクと機会を具体的に把握できます。これは投資家に対して自社が長期的な視点でリスク管理していることを示し、信頼を高める効果もあります。
TCFDとISSBの気候基準やEUのCSRDとの違いは何ですか?
ISSBの気候開示基準(IFRS S2) はTCFDの4分野・11項目を完全に取り込み、さらに詳細な開示(業種別指標やネットゼロ計画等)を要求する国際基準です。一方、EUのCSRDは気候のみならずESG全般の包括的報告を義務付ける規制であり、気候分野ではTCFDを基にしたヨーロッパ独自の基準ESRSが定められています。要するに、TCFDは原型となる原則的枠組み、IFRS S2はそれを強化したグローバル標準、CSRDは法的拘束力を持つ欧州の包括規制という位置づけです。
気候関連情報に第三者保証は必要ですか?
現時点でTCFD開示に第三者保証 (監査)が法的に義務付けられているわけではありません。しかし、開示情報の信頼性を担保するために、GHG排出量など主要指標について独立した保証を受ける企業が増えています。投資家や金融機関は気候データの信頼性を重視するため、第三者保証は企業のESG情報に対する信頼性向上につながります。特に今後、規制当局がサステナビリティ情報開示の信頼性確保を求める方向にあり、準備として保証を検討する意義は大きいでしょう。
TCFD まとめ
気候変動リスクへの対応はもはや企業経営における必須課題であり、TCFDが提示する4つの開示要素に沿って対策を講じることが世界的な共通基盤となっています。ガバナンスを整備して経営トップのコミットメントを示し、シナリオ分析で長期的な視野に立った戦略検討を行い、リスク管理へ統合して全社で備え、さらに指標と目標によって進捗をトラッキングする一連のプロセスが重要です。これらを実践することで、企業は気候変動によるリスクを低減しつつ、新たなビジネス機会を捉える柔軟性を高めることができます。TCFD対応の深化は、ステークホルダーの信頼獲得や持続的な企業価値向上にも直結すると言えます。まずは本記事で掴んだ全体像を踏まえ、各論点の詳細は子記事で確認いただき、自社の開示と戦略にぜひ活用してください。
参考リンク
- TCFDコンソーシアム公式サイト 「TCFDとは」
- TCFD最終報告書(2017年6月、日本語版PDF)
- IFRS財団”ISSB and TCFD” 解説ページ
- 環境省『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」』 (2023年3月)
- TCFDコンソーシアム『指標、目標、移行計画に関するガイダンス3.0』 (2022年10月)


