【CSDDD】導入プロセスとは?企業の準備と対応手順

EU発の企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)に対応するには、体系立てた導入プロセスが欠かせません。本記事では、企業がCSDDDを遵守するためにどのような準備と手順を踏めばよいかを解説します。ステップごとの具体的なアクションや、導入を成功させるためのポイント、さらに既に取り組みを進めている企業のベストプラクティスも紹介します。これから対応を始める際の参考として役立てれば幸いです。

目次

1. CSDDDを導入するためのステップ

CSDDD対応の導入は、計画策定から実行・改善まで継続するプロセスです。一般的なステップを順に追ってみましょう。

適用範囲の確認

自社グループがCSDDDの対象企業に該当するか評価します。EU域内外での売上や従業員数が基準を超えるか、またはグループ会社に対象がいるかを確認します​。該当しない場合も主要取引先が対象かどうか調べ、間接的影響の可能性を洗い出します。

社内体制の構築

経営層の承認のもと、CSDDD対応プロジェクトチームを発足させます。責任者(例えばCSR部長やコンプライアンス責任者)を任命し、法務・CSR・調達・人事・環境など関係部門から人材を集めます。必要に応じて経営陣を含むステアリングコミッティを設け、重要事項は経営会議で審議・決定する仕組みにします。
※ステアリングコミッティ:プロジェクトの進行を管理・監督するための委員会。経営層を含めた関係者で構成され、重要事項の判断やリスク対応などを担う。

現状評価(ギャップ分析)

自社の現在の取り組みを棚卸しし、CSDDD要件とのギャップを明確化します。例えば「人権方針はあるがサプライチェーンには適用範囲が限定的」「環境リスク評価は工場単位では実施済みだが原材料レベルでは不十分」といった点を洗い出します。この際、社内ドキュメントや手続をチェックするだけでなく、現場担当者へのヒアリングも行い運用実態を把握します。

計画策定

ギャップを踏まえ、デューデリジェンス実施計画を策定します。ここには、人権・環境リスクの詳細評価スケジュール、リスク低減措置の検討事項、必要なリソース(予算・人員)、社内教育計画、外部専門家の活用計画などを盛り込みます。計画は短期(半年~1年)と中長期(1~3年)でマイルストーンを設定し、段階的に成熟度を高めるロードマップとします。経営層の承認を得て正式な社内方針として打ち出しましょう。

方針整備とコミュニケーション

新たに策定・改訂した人権方針やサステナビリティ方針を社内外に公表します。従業員や取引先に対しては説明会や通知を行い、トップからのメッセージとして発信することでコミットメントを示します。また、取引基本契約書など関連文書も必要に応じ更新し、取引先への周知を図ります。

デューデリジェンス実行

計画に基づき、リスク評価と対処を実行に移します。具体的にはサプライヤーアンケート調査、現地監査、人権影響評価(HRIA)ワークショップの開催などの方法でリスクを詳述します。その結果に基づき、優先度の高い課題について改善アクションを開始します。例えば「労働時間が長すぎるサプライヤーAに対し是正要求を行い、3ヶ月後に再監査」「森林減少リスクがある原料について代替素材への切替を技術検討」等、個別案件ごとに施策を進めます。

研修と意識啓発

並行して、従業員や主要サプライヤー向け研修を実施します。管理職や調達担当者にはCSDDD遵守の重要性と具体策を教育し、現場レベルでも労働者の権利や環境保護に関する意識向上プログラムを提供します。継続的なトレーニングによって組織文化として定着させることが狙いです。

モニタリングと是正

取り組みの進捗や効果を測定します。KPIを設定して(例:サプライヤー監査実施率、是正完了件数、CO2排出削減量等)、定期的にプロジェクトチーム内でレビューし、必要なら計画を見直します。また通報窓口に寄せられた苦情も分析し、新たなリスクの発見や既存対策の漏れをチェックします。是正すべき事項があれば迅速に責任部署へフィードバックし、追加対策を講じます。

報告と改善

一定期間(通常年度単位)の活動をまとめ、経営層および社外向けに報告書を作成します。報告書では達成したことだけでなく、未解決の課題や次年度の計画も示し、透明性あるコミュニケーションを心がけます​。フィードバックを受けて翌年度以降の計画に反映し、デューデリジェンス体制を年々強化・改善していきます。

以上が基本的なステップです。企業規模や業種により細部は異なりますが、重要なのは計画→実行→検証→改善のサイクルを回し続けることです。一度に完璧を目指すのではなく、まずできる範囲から着手して徐々に高度化していくアプローチが現実的と言えます。

2. 効果的な運用のポイント

CSDDD導入プロセスを有効に機能させるためには、いくつかのポイントに留意する必要があります。

経営層の継続的コミットメント

スタート時の号令だけでなく、経営会議での定期報告や役員ボーナスへのKPI組み込みなど、継続的にトップが関与する仕組みを作ります。トップダウンの後押しがあると社内の優先順位が保たれ、部署横断の協力も得やすくなります。

部署間の連携強化

デューデリジェンスは一部門では完結しません。調達部門とCSR部門、法務と現場生産管理部門など普段あまり接点がない部署同士が密接に連携する必要があります。定期的な横断ミーティング開催や情報共有ツールの整備によって、部署間の壁を越えたチームワークを醸成しましょう。

外部リソースの活用

全てを自前で行おうとせず、必要に応じて外部の専門家やサービスを利用するのも効果的です。例えばサプライチェーン調査には専門調査会社、気候変動リスク分析には環境コンサル、人権研修にはNGOや有識者講師といった具合に、その道のプロの知見を借ります。費用対効果を考慮しつつ、社内にはないスキルを補完することが大切です。

従業員の巻き込み

単なるコンプライアンスではなく「より良い会社づくり」として捉えてもらうため、従業員からのボトムアップの提案や参加も促します。例えば社内公募で「サステナブルアイデア」を募ったり、優秀な取組を表彰する制度を作ると、社員の主体性を引き出せます。全員参加型の運動にすることで、現場の協力を得ながら運用レベルを上げていけるでしょう。

段階的な目標設定

CSDDD対応は範囲が広くハードルも高いので、段階的な目標を設定して成功体験を積むことが重要です。初年度は「主要10社のサプライヤー評価を完了する」、次年度は「高リスク3社の是正計画を達成する」など、小さなゴールをクリアしていくことで、プロジェクトチームの士気も維持できます。進捗に応じて計画を柔軟に見直す余裕も持たせましょう。

最新動向の反映

規制当局から新しい指針が出たり、他社の優良事例が報告された場合には、自社のプロセスに素早く取り入れます。常に情報収集を怠らず、進化するベストプラクティスを採用する柔軟性が求められます。逆に自社の成功事例は社外に発信し、業界全体の底上げにも貢献する姿勢が望ましいでしょう。

これらのポイントを意識して運用することで、形式的なチェックリスト対応に終わらない、実効性の高いCSDDDコンプライアンスが実現できます。

3. モデルケース

既にヨーロッパを中心に、CSDDDに先駆けて人権・環境デューデリジェンスに取り組んでいる企業の事例が出始めています。それらのモデルケースをいくつか紹介します。

事例1

フランスの小売企業A社 – フランスの「デューティ・オブ・ビジランス法」に対応する形で早期にサプライチェーンの人権デューデリジェンスを導入。全主要仕入先と契約を更新し、人権基準を厳格化するとともに、第三者監査を毎年実施。結果として労働問題の早期発見が可能となり、大きなトラブルを未然に防いでいる​。同社は公開した年次報告で、監査を受けたサプライヤーの98%が改善計画を順守したと公表し、透明性と実効性の高さが評価されている。

事例2

ドイツの製造業B社 – ドイツのサプライチェーン法施行に合わせ、グローバルで約5,000社に及ぶサプライヤーを対象にリスクマッピングを実施。AIを活用し、各国の人権・環境リスクデータと自社調達情報を掛け合わせてハイリスク取引先を自動抽出。その上位200社に対し、優先的に現地訪問や是正指導を行った。結果、初年度で重大リスクの8割に対応策を講じることができ、監督当局への報告もスムーズに行えた。

事例3

日本の商社C社 – いち早く欧州の動向を踏まえ、自主的にグループ全体のサステナビリティ方針を策定。特に森林資源と鉱物資源の調達に注力し、各事業部に専門家を配置して現地ステークホルダーと協働。違法伐採ゼロと紛争鉱物ゼロを掲げ、国際NGOと定期的にモニタリングプロジェクトを実施している。こうした取り組みは投資家からも高く評価され、ESG投資指数への選定や格付け向上といった形でメリットが表れている。

これらの事例に共通するのは、トップの強い意志と透明性の確保、そしてテクノロジーや専門機関の活用です。また、単にルールに従うだけでなく、自社ならではの重点テーマ(例えば森林保護や紛争鉱物排除)を設定しリーダーシップを発揮している点も注目されます。ベストプラクティスは各社の状況によって様々ですが、成功している企業は皆、単なる義務対応を超えて戦略的にCSRを捉えていると言えるでしょう。

自社のCSDDD対応を進める上でも、こうした先行事例から学びつつ、自社の強みや価値観に合った形で取り組みをデザインすることが大切です。そうすることで従業員の共感も得やすくなり、ひいては持続可能な形でプロセスを定着させることができるでしょう。CSDDD導入はチャレンジではありますが、他社の知見も活かしながら、自社らしいサステナビリティ経営を築く好機と捉えて積極的に取り組んでいきましょう。

引用
EU Official Q&A(CSDDD提案時のQ&A資料)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/qanda_22_1146

OECD「多国籍企業行動指針」「デューデリジェンス・ガイダンス」

OECD Due Diligence Guidance

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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