【第三者保証】ISAE 3410 温室効果ガス排出量保証の国際基準

ISAE 3000(International Standard on Assurance Engagements 3000)は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が策定した、監査およびレビュー業務以外の保証業務に関する国際基準です。

長年にわたり、温室効果ガス(GHG)排出量やESGデータを含む非財務情報の信頼性を担保するための主要な基準として活用されてきました。2025年現在、サステナビリティ情報については新基準「ISSA 5000」への移行が進んでいますが、ISAE 3000は依然として、サステナビリティ以外の領域(システム統制やガバナンス評価など)や包括的な保証業務において重要な役割を果たしています。

本記事では、ISAE 3000の目的、構造、適用範囲、そしてISSA 5000登場後の位置付けについて解説します。

あわせて読みたい
【主要テーマ解説】第三者保証 解説資料 第三者保証とは、サステナビリティ情報(GHG排出量など)の信頼性を、独立した検証機関が国際基準に基づいて評価し、適合性を表明する仕組みです。本資料では、ISO 1406...
あわせて読みたい
【第三者保証 実務】短期間で実施するリスク低減と企業価値向上セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が開催する本セミナーは、温室効果ガス(GHG)排出量をはじめとする非財務情報の信頼性を高める...
目次

1.第三者保証におけるISAE 3410の背景と意義

ISAE 3410の策定背景には、気候変動問題が国際的に注目される中、企業の温室効果ガス排出データの正確性と信頼性が求められるようになったことがあります。

具体的には、以下の3つの要因が重要な役割を果たしました。

気候変動対策の国際的な規制強化

パリ協定やEUの気候政策(CSRDなど)、日本のGX推進法をはじめとする国際的な取り組みが進展し、企業には温室効果ガス削減目標の達成と、その進捗報告が義務付けられるようになりました。

ESG投資の拡大

投資家や消費者が環境・社会・ガバナンス(ESG)データを重要視する動きが加速し、信頼性の高いデータ提供が企業の資金調達や競争優位性に直結するようになりました。

グローバル市場での透明性確保の必要性

グローバルサプライチェーンにおいて、取引先からGHG排出量の開示と第三者保証を求められるケースが急増しており、国際的に認知された基準(ISAE 3410)に基づく保証が不可欠となっています。

2.第三者保証で利用されるISAE 3410の構造と適用範囲

ISAE 3410は、GHG排出データの検証を効率的かつ透明性を持って行うためのプロセスを以下のように規定しています。

事前評価(受嘱・契約)

企業が提供するGHGデータの算定基準(GHGプロトコル等)や範囲(バウンダリ)を確認し、保証業務としての受入可能性を評価します。

リスク評価と計画

データの誤りが生じやすい箇所(排出係数の選定ミス、海外拠点の集計漏れなど)を特定し、重点的な検証計画を策定します。

データ検証と証拠収集

・分析的手続き: 過去のデータや生産量との相関分析による異常値の検出。
・詳細テスト: 請求書やメーター検針票といった「証憑(エビデンス)」との突き合わせ。
・現地往査: 工場や事業所を訪問し、測定機器の管理状況やデータの入力プロセスを確認。

保証報告書の発行

検証結果に基づき、GHG声明に重要な虚偽記載がないことを表明する独立した保証報告書を発行します。

3.ISAE 3410の保証水準 合理的保証と限定的保証

ISAE 3410では、保証業務を「合理的保証」と「限定的保証」に分け、それぞれ異なる信頼性を提供します。

合理的保証(Reasonable Assurance)


・特徴: 監査に相当する高度な検証手続き(詳細なテストや内部統制の運用評価)が行われ、積極的な形式で結論が表明されます(例:「〜は適正である」)。
・適用状況: 法定開示や、非常に高い信頼性を求められる特定のプロジェクトなど。

限定的保証(Limited Assurance)

・特徴: 手続きが合理的保証よりも限定的(主に質問や分析的手続き)であり、消極的な形式で結論が表明されます(例:「〜していない事項は認められなかった」)。
・適用状況: 現在のサステナビリティレポートや統合報告書におけるGHG保証の主流。

2025年現在、多くの企業が限定的保証からスタートしていますが、規制の厳格化に伴い、将来的には合理的保証への移行が期待されています。

4.第三者保証におけるISAE 3410の特徴

ISAE 3410は、GHG排出データの保証業務に特化しており、以下の特徴を持っています。

環境データへの焦点

GHGデータという特定分野に特化した国際基準であり、気候変動対策に直接的な影響を持つデータを対象とします。

国際基準との整合性

GHGプロトコルやISO 14064といった既存の環境基準との整合性をとる方向で進められており、グローバル市場での適用が容易です。

透明性の確保

保証プロセスの透明性を高めるため、手続き内容や結果を詳細に記録・報告することが求められます。

専門家の活用

検証チームには、会計・監査の知識だけでなく、環境工学や化学などの専門知識を持つメンバー(専門家)を含めることが求められます。

リスクベースのアプローチ

データの誤りや不備のリスクを事前に評価し、それに基づいて手続きを設計する仕組みを導入しています。

5.第三者保証におけるISAE 3410とISO 14064の違い

ISAE 3410とISO 14064(特にPart 3)は、いずれもGHG排出量の検証に関する国際基準ですが、主な利用主体や背景が異なります。

目的と背景の違い

  • ISAE 3410: 国際会計士連盟(IFAC)傘下のIAASBが策定。会計監査の枠組みをベースにしており、統合報告書や有価証券報告書など、財務情報との関連性が強い開示において好まれます。
  • ISO 14064-3: 国際標準化機構(ISO)が策定。環境マネジメントシステムの延長線上にあり、純粋な環境報告や、技術的なプロジェクト(J-クレジット等)の検証で広く利用されます。

相互補完関係

実務上は、どちらの基準を用いても検証の質に大きな差が出ないよう調整されていますが、保証報告書の利用者(投資家か、規制当局か)によって使い分けられる傾向があります。ISSA 5000の登場により、今後はこれらの基準が包括的なサステナビリティ保証枠組みの中で統合・整理されていく可能性があります。

6.第三者保証とISAE 3410 温室効果ガス排出量保証の国際基準まとめ

ISAE 3410は、GHG排出データの信頼性を確保するための「実務の要」として、企業の脱炭素経営を支える重要な基準です。

今後、サステナビリティ保証の包括基準であるISSA 5000の普及が進みますが、GHGという専門性の高い分野においては、ISAE 3410で培われた詳細な検証手法が引き続き参照され続けるでしょう。企業は自社の開示目的やステークホルダーの要請に合わせて、適切な基準に基づく保証を受けることが求められます。



引用:国際監査基準(ISA)https://jicpa.or.jp/specialized_field/isa_15.html
   国際保証業務基準第 3410 号 https://jicpa.or.jp/specialized_field/3410.html
   国際監査・保証基準審議会(IAASB)AT A GLANCE 2012 年6月
   Sustainability Assurance Insights

あわせて読みたい
【第三者保証】ISO(国際標準化機構)を解説 ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)は、国際的な標準規格を策定するための独立した非政府組織です。世界中の製品やサービスの品質...
あわせて読みたい
【第三者保証 入門】国内外動向と検証プロセスの要点セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)は、検証機関としての知見を活かし、サステナビリティ分野における「第三者保証」に関する入門...

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

目次