第三者保証とISAE 3410 温室効果ガス排出量保証の国際基準

ISAE 3410(International Standard on Assurance Engagements 3410)は、企業が報告する温室効果ガス(GHG)排出量の信頼性を担保するための国際基準です。国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって策定されたこの基準は、企業の気候変動対策の透明性を確保し、利害関係者からの信頼を向上させるための重要なツールとなっています。

本記事では、ISAE 3410の背景、構造、保証水準の違い、特徴、そして課題と今後の展望について詳しく解説します。

目次

1.第三者保証におけるISAE 3410の背景と意義

ISAE 3410の策定背景には、気候変動問題が国際的に注目される中、企業の温室効果ガス排出データの正確性と信頼性が求められるようになったことがあります。

具体的には、以下の3つの要因が重要な役割を果たしました

気候変動対策の国際的な規制強化

パリ協定やEUの気候政策(CSRDなど)をはじめとする国際的な取り組みが進展し、企業には温室効果ガス削減目標の達成が求められるようになりました。

ESG投資の拡大

投資家や消費者が環境・社会・ガバナンス(ESG)データを重要視する動きが加速し、信頼性の高いデータ提供が企業の競争優位性に直結するようになりました。

グローバル市場での透明性確保の必要性

企業間取引や国際的な投資を行う上で、透明性のある報告が必須条件となり、国際的に整合性のある基準の策定が求められました。

これらの要因により、ISAE 3410は企業が提供するGHG排出データの信頼性を向上させるための枠組みとして、2012年に正式に導入されました。

2.第三者保証で利用されるISAE 3410の構造と適用範囲

ISAE 3410は、GHG排出データの検証を効率的かつ透明性を持って行うためのステップを以下のように規定しています。

事前評価

企業が提供するGHGデータの計算方法や範囲を確認し、保証業務の計画を策定します。これには、適用する基準(例:GHGプロトコルやISO 14064)を明確化するプロセスが含まれます。

データ検証と現地調査

第三者保証機関が、企業のデータ収集プロセスや内部統制の有効性を検証するために現地調査を行います。

・データサンプルの抽出と検証
・データ収集の方法論の確認
・排出源の現場訪問による確認

保証報告書の発行

検証結果に基づき、GHGデータが国際基準に適合していることを証明する保証報告書を作成します

3.ISAE 3410の保証水準 合理的保証と限定的保証

ISAE 3410では、保証業務を「合理的保証」と「限定的保証」に分け、それぞれ異なる信頼性を提供します

合理的保証

特徴: 高度な検証手続きが行われ、データの完全性について積極的な結論が表明されます。
例: 現地訪問や原始証憑との突き合わせ。
適用状況: 高い信頼性を求められる場合(例:投資家向け報告)。

限定的保証

特徴: 手続きが簡易化され、中程度の信頼性が提供されます。
例: データ分析や質問形式のインタビュー。
適用状況: 初期段階やコスト重視の場合。

保証水準の選択は、報告対象や利用者のニーズに応じて決定されます。

4.第三者保証におけるISAE 3410の特徴

ISAE 3410は、GHG排出データの保証業務に特化しており、以下の特徴を持っています。

環境データへの焦点

GHGデータという特定分野に特化した国際基準であり、気候変動対策に直接的な影響を持つデータを対象とします。

国際基準との整合性

GHGプロトコルやISO 14064といった既存の環境基準との整合性をとる方向で進められており、グローバル市場での適用が容易です。

透明性の確保

保証プロセスの透明性を高めるため、手続き内容や結果を詳細に記録・報告することが求められます。

リスクベースのアプローチ

データの誤りや不備のリスクを事前に評価し、それに基づいて手続きを設計する仕組みを導入しています。

5.第三者保証におけるISAE 3410とISO 14064の違い

ISAE 3410とISO 14064は、いずれも温室効果ガス(GHG)排出量に関する国際基準ですが、それぞれ異なる目的と適用範囲を持っています。

目的の違い

ISAE 3410
第三者保証業務の指針として、排出データの信頼性と透明性を高めることを目的とします。

ISO 14064
企業が自らの排出量を算定・管理するための指針を提供します。

適用範囲の違い

ISAE 3410
第三者保証機関がデータ検証に使用します。

ISO 14064
企業内部で排出量を算定・報告する際にも用いられます。

利用者の違い

ISAE 3410
投資家や規制当局など、データの信頼性を求める利害関係者が多い。

ISO 14064
排出データを管理する企業や組織が利用する場合が多い。

相互補完関係

ISO 14064で算定・報告された排出データが、ISAE 3410に基づく第三者保証を受けることで、より高い信頼性と透明性を得られる可能性が高い。

6.第三者保証とISAE 3410 温室効果ガス排出量保証の国際基準まとめ

ISAE 3410は、GHG排出データの信頼性を確保するための基準として、企業の気候変動対策を支える重要なツールです。データ透明性の向上や技術革新の活用により、今後さらに進化し、企業とステークホルダーの信頼関係を強化する役割を果たすでしょう。



引用:国際監査基準(ISA)https://jicpa.or.jp/specialized_field/isa_15.html
   国際保証業務基準第 3410 号 https://jicpa.or.jp/specialized_field/3410.html
   国際監査・保証基準審議会(IAASB)AT A GLANCE 2012 年6月
   Sustainability Assurance Insights

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

目次