本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズが、GX推進法に基づく排出量取引制度について、ゴム製品製造業がどのように制度対象となり、ゴム製品製造の4工程(練り混合・押出裁断・成型・加硫)に伴う燃料使用を燃料ベンチマーク(基準活動量=燃料使用量GJ)でどう捉えて排出枠償却に至るのかを整理するものです。なおGX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、CH4・N2O・HFC等の非CO2温室効果ガスや間接排出は対象外です。


結論
ゴム製品製造業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上となる事業者としてGX-ETSの制度対象となり、ゴム製品製造業ベンチマーク(燃料BM)で排出目標量を算定します。ベンチマーク指標は直接排出量/燃料使用量、基準活動量は基準年度における燃料使用量(ギガジュール)の平均で、目指すべき原単位は2026年度0.05052、2030年度0.04939 tCO2/GJです。対象工程は練り混合工程、押出・裁断工程、成型工程、加硫工程を有する工場等全体の燃料使用に伴う直接排出で、蒸気ボイラー・加硫設備等の燃料計量が実務の焦点となります。GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、排水処理のメタン・N2Oや保冷ドライアイスの非CO2排出は本制度の対象外です。
背景
ゴム製品製造業は、天然ゴムや合成ゴムにカーボンブラック・硫黄・酸化亜鉛等を配合して練り上げ、成型・加硫・仕上げの各工程を経てタイヤ、ベルト、ホース、成型品を製造する業種です。主要な直接排出は加硫工程の蒸気ボイラーからの燃焼CO2で、他にVOC処理設備や補助加熱設備の燃料消費が加わります。GX-ETSではゴム製品製造業として独立したベンチマーク(07、燃料BM)が設定されており、練り混合・押出裁断・成型・加硫の4工程を有する工場等全体の燃料使用が算定対象です。
SSPの定義
SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿におけるゴム製品製造業とは、経済産業省生産動態統計調査のゴム製品月報(自動車用タイヤ、自動車タイヤを除く)調査品目に該当する製品を製造する事業を指します。加硫とは、ゴムに架橋構造を形成して弾性を付与する熱処理工程で、主に蒸気加熱で実施されます。VOC処理設備とは、有機溶剤蒸気を蓄熱式燃焼装置RTOや触媒酸化装置で酸化処理する設備で、処理過程の燃料燃焼に伴うCO2が算定対象となります(GX-ETSはCO2直接排出のみが対象で、非CO2ガスは対象外)。
変更点の要約
- ゴム製品製造業のベンチマークが独立設定され、蒸気ボイラーが主要対象となりました。
- 基準活動量は燃料使用量(GJ)で、目指すべき原単位は2026年度0.05052→2030年度0.04939 tCO2/GJです。
- 対象工程は練り混合・押出裁断・成型・加硫の4工程を有する工場等全体の燃料使用です。
- 他者から製造の一部の委託を受けて一部の工程のみ有する工場等は本ベンチマークの対象外です。
- 同一工場等内でゴム製品製造業以外のベンチマーク対象事業がある場合は、当該事業に係る工程排出を除外します。
- GX-ETSはCO2直接排出のみが対象で、排水処理由来のCH4・N2O、保冷用ドライアイス等の非CO2・間接排出は対象外です。
基礎知識
ゴム製品排出管理で押さえるべき前提は3点です。第1は燃料使用の網羅で、4工程(練り混合・押出裁断・成型・加硫)を含む工場等全体の蒸気ボイラー、VOC処理補助燃料、加熱装置等の燃料使用量をGJ単位で計量します。第2は燃料種別の集計で、A重油・都市ガス・LPG・廃油・廃タイヤなど多様な燃料を使う場合の高位発熱量と排出係数の出典を明示し、計量の継続性を確保します。第3はバウンダリの整合で、同一工場等内に有機化学工業製品BM等の別ベンチマーク対象事業が並存する場合、該当工程の燃料使用を除外する運用が必要です。なおGX-ETSはCO2直接排出のみが対象で、排水処理のメタン・N2O等の非CO2ガスは対象外です。
論点整理表
| 論点 | 制度上の位置づけ | ゴム製品製造での該当 | 判断基準 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 対象判定 | GX推進法第33条第1項 | 年度平均排出量10万t以上 | 直近3年度のCO2直接排出量の平均 | 大手タイヤメーカー等は対象可能性 |
| 加硫蒸気ボイラー | エネルギー由来 | 燃料燃焼 | 燃料別排出係数 | ボイラー別計量が必要 |
| VOC処理 | エネルギー由来 | RTO・触媒酸化 | 補助燃料とVOC処理量 | ライン別に燃料集計 |
| 廃棄物焼却 | エネルギー由来 | 焼却炉 | 廃棄物組成×係数 | 化石炭素/バイオマス分離 |
| 排水メタン | 非CO2ガス | 嫌気性処理 | 負荷量ベース推計 | GWP換算 |
| 排水N2O | 非CO2ガス | 硝化脱窒 | 処理量×排出係数 | GWP換算 |
| 構内移動燃焼 | エネルギー由来 | フォークリフト等 | 車両燃料計量 | バウンダリ内 |
| ドライアイス | CO2排出 | 昇華放出 | 使用量×係数 | 計上要否を確認 |
| 排出枠償却 | GX推進法 | 翌年度1月31日までに保有 | 保有義務量分の排出枠 | 不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付 |
比較表
| 排出源 | 分類 | 算定ロジック | 証憑 |
|---|---|---|---|
| 蒸気ボイラー | エネルギー由来CO2 | 燃料使用量×発熱量×係数 | ボイラー燃料計量 |
| VOC処理 | エネルギー由来CO2 | 補助燃料計量×係数 | RTO運転記録 |
| 廃棄物焼却 | エネルギー由来CO2 | 廃棄物×炭素×化石比率 | 焼却管理票 |
| 排水メタン | 非CO2 | BOD負荷×係数×GWP | 排水分析結果 |
| 排水N2O | 非CO2 | N負荷×係数×GWP | 処理場分析 |
| 構内車両 | エネルギー由来CO2 | 車両燃料×係数 | 給油日誌 |
| ドライアイス | CO2 | 使用量×放散率 | 受入伝票 |
制度対象判定とスケジュール特例
事業者単位の判定
ゴム製品製造事業者は、タイヤ製造大手で年度平均排出量10万tを超える例が多く、工業用ゴム製品や成形品メーカーでも大規模工場を擁する事業者は対象となる可能性があります。判定は事業者単位で、海外子会社は対象外、国内法人格単位で判定する運用です。
2026年度特例
2026年度に対象となる場合は、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみ届出し、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。2026年度中に、4工程の燃料計量標準化、燃料種別の高位発熱量と排出係数の出典整備、登録確認機関の契約を整えることが実務上必要です。
ゴム製品ベンチマークの仕組み
算定式と活動量
ゴム製品製造業のベンチマーク(07)は燃料BMで、排出目標量=目指すべき原単位×基準活動量の構造です。基準活動量は基準年度における燃料使用量(ギガジュール)の平均、目指すべき原単位は2026年度0.05052、2030年度0.04939 tCO2/GJです。燃料使用量は購買量、購買量+在庫変動、または燃料使用量の計測で把握し、単位発熱量はデフォルト値・実測値・燃料供給事業者提供値から選定して継続運用します。
排出源別の積み上げ
排出実績量は4工程(練り混合・押出裁断・成型・加硫)を含む工場等全体の燃料種別(A重油・都市ガス・LPG・廃タイヤ等)に燃料使用量を積み上げ、単位発熱量と排出係数を乗じて算定します。各燃料の単位発熱量・排出係数の出典を証憑として整備し、年度間の継続性を確保します。
ベンチマークとグランドファザリングの境界
対象工程
ゴム製品製造業ベンチマークの対象工程は、練り混合工程、押出・裁断工程、成型工程、加硫工程およびこれらに紐付くユーティリティ施設(ボイラー・タービン等)です。原料受入、素練り、検査、包装、蒸気プラント、VOC処理の補助燃料等も対象工場等内であれば燃料使用量として含めます。
対象外とグランドファザリング
事務所、研究棟、別敷地の試作ラボ、物流倉庫、販売拠点などはベンチマーク対象外またはグランドファザリング扱いです。
排出枠割当と未償却相当負担金
排出枠の運用
ゴム製品製造業者の排出枠は、蒸気ボイラー燃料の転換、VOC処理の最適化、廃棄物焼却の減量、排水処理改善などの削減策と連動して管理します。排出枠は1t単位で無償で割り当てられ、取引市場と相対取引で売買可能です。
負担金リスク
翌年度1月31日時点の排出枠不足時には不足分×参考上限取引価格×1.1を未償却相当負担金として納付します。排出源が多岐にわたるため、各排出源の変動要因を可視化した月次モニタリングが重要です。
移行計画と登録確認機関
移行計画の記載
ゴム製品事業者の移行計画では、ボイラー燃料転換(LNG化・水素混焼・バイオマスボイラー)、VOC処理の電化・水素化、廃熱回収、排水処理の嫌気処理最適化、ドライアイス代替などを投資計画に記載します。
確認業務のポイント
登録確認機関は、4工程のバウンダリ設定、燃料使用量(GJ)の計量の網羅性、単位発熱量と排出係数の選定根拠、ボイラー別計量、燃料購買伝票と在庫管理表の整合、別ベンチマーク対象事業との切り分けを確認します。
実務フロー
- Step1 事業者単位の年度平均排出量を確認し、制度対象判定を確定する。
- Step2 ERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
- Step3 4工程(練り混合・押出裁断・成型・加硫)のバウンダリ設定、燃料使用量(GJ)計量および単位発熱量管理の体制を整備する。
- Step4 登録確認機関と契約し、フロー図と証憑を共有する。
- Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。
- Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
- Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
- Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。
FAQ
VOC処理の補助燃料はどう計量しますか
RTOや触媒酸化装置への補助燃料として使用する都市ガスやLPGを装置別に計量し、発熱量と排出係数を乗じて算定します。VOC処理量が少ない時間帯に補助燃料が増える傾向があるため、装置の運転ログとの整合確認が重要です。
廃タイヤを自所で焼却処理している場合は
廃タイヤの焼却は、タイヤ組成のうち化石由来炭素とバイオマス由来炭素の比率を把握し、化石由来分にのみ排出係数を適用します。焼却量、組成、発熱量の記録を整備し、熱回収を行っている場合は熱利用先も明記します。
排水処理や構内移動燃焼は算定対象に含まれますか
GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とするため、排水処理由来のメタン・N2Oは本制度の算定対象外です。構内移動燃焼(フォークリフト・構内車両)については、ゴム製品製造業BMは「4工程を有する工場等全体の燃料使用」を対象とするため、該当工場等内の燃料消費であれば燃料使用量(GJ)に含めて算定します。
保冷ドライアイスは算定対象ですか
GX-ETSは燃料の使用に伴う直接排出を対象とする制度で、保冷用ドライアイスの昇華によるCO2は燃料使用に該当しないため本制度の直接排出量算定の対象外です。ただし、SHK制度等の他の温室効果ガス報告制度では対象となる場合があるため、各制度の対象範囲を個別に確認する必要があります。
加硫蒸気を外部購入している場合は
ユーティリティ会社等から購入した蒸気を加硫に使用する場合、蒸気製造に伴うCO2排出は供給側の事業者が計上し、ゴム製品製造事業者は自所の直接排出としては計上しません。ただし間接排出量としては移行計画で記載します。
構内フォークリフトが電動化された場合は
電動フォークリフトの電力消費は間接排出として扱われ、直接排出量算定の対象外となります。一方、従来の内燃機関車両からの転換は排出削減効果として移行計画の投資計画欄に記載可能です。
まとめ
ゴム製品製造業にとってGX-ETSは、練り混合・押出裁断・成型・加硫の4工程を有する工場等全体の燃料使用量(GJ)を基準活動量とする燃料ベンチマーク(目指すべき原単位2026年度0.05052→2030年度0.04939 tCO2/GJ)で排出目標量を算定する制度設計です。GX-ETSはCO2直接排出のみが対象で、排水処理のメタン・N2O、保冷ドライアイス等の非CO2ガスや電力由来の間接排出は対象外です。燃料計量の網羅性、単位発熱量と排出係数の出典管理、別ベンチマーク対象事業との切り分けを登録確認機関の確認に耐える形で整備することが実務の要となります。排出枠市場の活用と未償却相当負担金リスクの管理、ボイラー燃料転換・VOC処理の高効率化・省エネ投資などを移行計画で対外公表することが、この制度下でのゴム製品事業者の対応の骨格となります。
参考リンク
- 経済産業省 排出量取引制度のページ
- GX推進機構 排出量取引制度関連情報
- デジタル庁 GビズID
- GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律


