【MSCI】ESG評価とは?企業への影響と活用法

MSCI ESG評価、すなわちESG格付けは、企業の環境・社会・ガバナンスへの対応を多面的に評価する指標です。本記事ではMSCIによるESG評価の仕組みや特徴を解説し、ESG格付けが企業に与える影響やその活用方法について整理します。世界的にESG投資が拡大する中で、MSCIの評価枠組みは機関投資家の投資判断に広く活用されており、企業の戦略にも大きな意味を持ちます。企業のサステナビリティ推進担当者に向けて、2023年以降の方法論変更などを含むMSCI ESG評価の最新動向に基づいたポイントを網羅的に解説します。

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目次

1. MSCI ESG評価の仕組みと指標

MSCI ESGレーティング、いわゆるESG格付けは、企業のESGリスクに対する管理体制と対応力を評価する世界有数の枠組みです。評価は最高位のAAAから最低位のCCCまでの7段階で、同業種内での相対的な位置づけとして示されます。

単なる情報開示の有無ではなく、リスクを管理・緩和する実効性が重視されており、財務的に重要なESGリスクと機会への対応力に対する評価意見となっています。各企業の格付けは、その企業が直面し得るESG上の潜在的リスクへの曝露の程度を示すエクスポージャーと、それを軽減するマネジメント体制やガバナンス構造の質を総合的に考慮して決定されます。

評価フレームワークと指標(Key Issues)

 MSCIは環境・社会・ガバナンスの3分野で合計33の重要課題、すなわちキーイシューを設定しており、業種ごとに関連性の高い課題を特定して評価します。

各企業について、環境・社会分野ではその33項目の中から2項目から7項目のキーイシューが選定されます。これは業種や市場特性に応じて異なりますが、それぞれについてリスク曝露度と管理状況が評価されます。例えばエネルギー業界では気候変動が重視され、IT業界ではデータプライバシーが重点課題として挙げられるなど、業種に応じた重要テーマが設定されています。キーイシューごとの評価は0点から10点のスコアで表され、企業が当該分野で直面するリスクの大きさを示す曝露スコアと、そのリスクに対する管理能力を示すマネジメントスコアのバランスによって算出されます。

ガバナンス評価とコンロバーシー 

特にガバナンス分野については全業種共通で評価され、取締役会の構成や腐敗防止といったコーポレートガバナンスおよび企業行動に関する計6項目のキーイシューが設定されています。ガバナンス評価では各企業のガバナンス慣行をベストプラクティスと比較し、そのギャップが分析されます。

また、環境・社会分野でも、クリーン技術や社会的課題解決型ビジネスといった、企業の提供する製品・サービスが環境や社会へ与える正のインパクトについて、市場の需要に応えているかが加点要素として考慮される場合があります。評価プロセスにおいては、企業の公開情報や財務・サステナビリティ報告、ニュースや専門データなど幅広い情報源が用いられ、定性・定量の両面から企業のリスク管理状況が分析されます。さらに重大な不祥事や論争、いわゆるコンロバーシーの発生も評価に影響し、企業のマネジメントスコアを下方修正する要因となり得ます。

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2. 最新の方法論アップデート(2023年以降)

MSCIは評価手法を定期的に見直し、社会の期待や規制動向を反映させています。近年ではESG評価機関に対する一貫性や透明性の要求が高まっており、欧州連合や英国などでESG格付け業界への規制整備が進み始めました。

評価基準の厳格化 

MSCIは2023年に評価方法論の大幅な更新を行っており、特に投資信託やファンド向けのESG格付けでは評価基準を厳格化しました。その結果、AAやAAAといった最高評価を獲得できるファンドの割合が、従来の約20%から0.2%程度にまで大きく低下する見込みであり、高格付けに要求される水準が一段と引き上げられています。MSCIはこの変更について、規制当局の動向によるものではなく市場からのフィードバックに基づくものであると説明しており、顧客やステークホルダーからの意見を踏まえて評価基準の厳格化や透明性向上に努めているとしています。

企業向け評価の調整 

企業向けのESG評価においても、気候変動関連のリスク評価手法の強化や、サプライチェーン上の人権問題などの新たな課題の重要度見直しなど、継続的なアップデートが行われています。2024年版の最新の評価方法論では、財務的に重要なサステナビリティ課題に焦点を当てるという基本方針は維持しつつ、評価モデルの細部に調整が加えられています。企業としては最新の方法論を把握し、自社のどの領域が評価対象となり得るかを把握しておくことが重要です。

3. ESG格付けの企業への影響

MSCIをはじめとするESG格付けは、企業の財務戦略や評価に具体的な影響を与えています。

資金調達コストへの影響 

その一つが資金調達コストへの影響です。MSCIの包括的調査によれば、ESG格付けが高い企業ほど株式や債券の調達コストが低い傾向が明らかになっています。

例えば、2015年8月から2024年5月までの調査期間において、最低評価だった企業群の平均調達金利が7.9%であったのに対し、最高評価だった企業群では平均6.8%の利率で資金調達できており、約1%のコスト差が確認されました。ESG上のリスクに最も強靱、すなわちレジリエントと評価される企業は、脆弱と見なされた企業よりも一貫して低コストで資金を調達できていたことを示すデータです。さらに、格付けが大きく改善した企業では数ヶ月以内に資本コストが低下し、逆に大幅に格下げされた企業は資金調達コストの上昇に直面する傾向も報告されています。このように、ESG格付けの変化は将来の資金調達環境に影響を及ぼし得る重要な指標とみなされています。

株価・企業価値とGPIF指数 

また、株価や企業価値への影響も指摘されています。MSCIの調査では、ESG格付けの高い企業は収益性や株式パフォーマンスにおいても相対的に良好であるという正の相関関係が示されています。日本において顕著な例が、年金積立金管理運用独立行政法人、いわゆるGPIFによるESG指数の採用です。GPIFは2017年以降、MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数や、通称WINと呼ばれるMSCI日本株女性活躍指数といった、MSCIのESG格付けに基づく株価指数を運用に取り入れています。

これらの指数に組み入れられるには業種内で高いESGスコアを獲得する必要があり、実際に当該指数連動の資金が高スコア企業へ投資される仕組みとなっています。その結果、MSCIの格付けが高い企業ほどGPIFやそれに追随する投資家からの資金流入が期待でき、株価の安定や流動性の向上といったメリットを享受しやすくなります。

評判とステークホルダー信頼 

さらに、ESG格付けは企業の評判やステークホルダーからの信頼にも影響します。高いESG評価は持続可能な企業というレピュテーション向上につながり、顧客や取引先からの信頼感醸成、人材採用面での訴求力強化といった無形の効果も期待できます。一方、低い評価や格下げは企業イメージにマイナスとなりうるため、企業はその要因を分析し改善策を講じるプレッシャーを受けます。

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4. MSCIのESG評価と他のESG評価との違い

現在、MSCI以外にもS&Pグローバル、FTSE Russell、Sustainalyticsなど多数のESG評価機関が存在し、各社が独自の評価手法で企業のESGパフォーマンスを格付け・スコア化しています。これら異なる評価機関による評価結果の不一致、すなわちAggregate Confusionもしばしば生じており、同一企業に対するESG評価が機関によって大きく異なる現状が明らかになっています。

評価手法・基準の相違点(範囲・測定・重み付け) 

学術研究によれば、ESG評価機関間の評価差異は大きく分けて、範囲を示すスコープの違い、測定方法を示すメジャーメントの違い、重み付けを示すウェイトの違いという3つの要因に分類できるとされています。ある研究では、約56%が測定手法の違い、38%が評価範囲の違い、6%が重み付けの違いで説明できると報告されています。

Sustainalyticsとの違い

SustainalyticsのESGリスクレーティングは、各企業の未管理のESGリスクの大きさを絶対的に評価する手法です。これはリスクが小さいほど良評価となります。MSCIがリスク管理の優劣を同業比較で評価するのに対し、Sustainalyticsは残存リスクの大きさを絶対評価している点に大きな違いがあります。

S&Pグローバルとの違い

S&PはCSAと呼ばれる詳細なアンケートに基づく評価を行い、非公開情報も加味されます。対してMSCIは公開情報中心の評価であるため、企業の情報開示の質と量がスコアに直結します。
日本企業の情報開示が充実するにつれ、MSCIとFTSEの評価結果の差異が縮小する傾向も確認されており、企業は主要な評価機関ごとの特性を理解し、適切に情報を発信していくことが重要です。

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5. ESG評価の活用方法と企業戦略

ESG評価を単なる投資家向け指標として捉えるのではなく、自社の経営改善や戦略策定に活かす企業が増えています。

経営指標としての導入 

MSCI ESGレーティングは、企業のマネジメント成熟度を映し出す経営の鏡として活用できます。高いESG評価スコアを獲得することは資本市場での評価向上につながるだけでなく、サステナビリティ経営の成熟度を示す客観指標ともなります。経営目標に目標年までにMSCI評価でAAを取得すると掲げる例や、役員報酬の指標にESG評価スコアを含めるケースも報告されています。

評価向上のための具体的アプローチ 

企業が評価向上を図るための主なアプローチは以下の通りです。

  • 情報開示の充実: MSCIなど公開情報ベースの評価機関に対しては、先述のキーイシューに沿った情報を網羅的に提供することが重要です。データギャップを埋める努力が直接評価改善につながります。
  • マテリアリティの特定と対応: 自社の業種に該当するキーイシューを正確に把握し、優先課題を明確化します。KPIを設定してモニタリングし、その結果を開示することで評価機関にアピールできます。
  • 社内体制・ガバナンスの強化: 経営戦略や各事業部門の連携強化にもESG評価は活用可能です。サステナビリティ委員会等を設置し、全社横断的な体制を整備します。
  • 外部評価との対話: 企業が評価プロセスを一方的に受け身で捉えるのではなく、積極的にコミュニケーションを図り、フィードバックを経営改善に活かす姿勢が求められています。

ESG評価を企業価値向上に結びつける 

ESG評価活用の最終目標は、企業価値の向上と持続可能な成長に寄与することです。評価向上のプロセスで得られるリスク低減、ブランド向上、人材獲得といった副次的効果は、長期的な財務パフォーマンスに跳ね返ってくる要素です。MSCI ESGレーティングへの的確な対応を通じて、世界の機関投資家からの信頼を獲得しつつ、持続可能な経営の実現と外部評価の向上を両立させることが期待されています。

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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