【MSCI】MSCIのESG評価と他ESG評価との違いを解説

複数存在するESG評価機関の間で、同じ企業に対する評価結果が大きく異なることがあります。本記事ではMSCIのESG評価、すなわち格付けの特徴を整理するとともに、SustainalyticsやFTSE、S&Pといった他の代表的なESG評価とのアプローチの違いを解説します。さらに、評価結果の不一致が生じる要因である評価範囲・測定方法・重み付けの違いやその影響について、研究結果を踏まえて考察します。企業がESG評価を理解し戦略対応する上で、各評価機関の違いを知ることは重要です。

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目次

1. ESG評価機関による評価のばらつき

ESG評価は一社だけでなく世界中に数多くの提供者が存在します。MSCI以外に著名なものとして、モーニングスターグループのSustainalytics、ロンドン証取グループのFTSE Russell、旧RobecoSAMであるS&P Global、さらにはISS ESGやCDP、日本ではR&Iや日本経済新聞社の環境経営度など様々です。

評価結果の不一致

こうした機関ごとに評価手法やスコアリングの基準が異なるため、同一企業でもスコアや格付けといった評価結果が一致しないケースが頻繁に見られます。例えばある企業がMSCIではAAという高い評価であっても、Sustainalyticsでは中位のスコアだったり、S&Pの評価では業界平均以下だったりすることが起こり得ます。

このような評価の不一致は近年、ESGレーティングの不協和などと呼ばれ問題視されることもあります。特に投資家にとっては、どの評価を信頼すべきか迷いを生む要因となり、規制当局や学界でも議論の的となっています。

多面的な評価の必要性 

しかし専門家は、評価が異なること自体は必ずしも悪いことではないとも指摘します。ESGという概念がそもそも多面的であり、評価者ごとに着目点や価値観が違うのは自然なことでもあります。一つの企業を測るにしても、温室効果ガス排出削減の達成度を重視するか、革新的な環境ビジネスへの貢献度を重視するかで評価は変わり得ます。したがって、重要なのはなぜ評価が違うのかを理解することであり、評価機関間の違いを把握することが企業にも投資家にも求められています。

2. 評価手法の違い:範囲・測定・重み付け

ESG評価が異なる主な理由は、方法論、すなわち評価手法の違いにあります。評価手法の差異はさらに、1つ目に何を評価対象とするかという範囲の違い、2つ目にどう評価するかという測定方法の違い、3つ目に各項目をどれだけ重視するかという重み付けの違い、の3つに分類できます。

評価範囲であるScopeの違い 

まず評価範囲、すなわちScopeの違いですが、評価機関ごとにESGと言っても何を含めるかの定義が微妙に異なります。MSCIは前述のように33のキーイシューを定義し、財務的に重要なものに絞っています。一方、例えばSustainalyticsは20項目以上のESGリスク要因を全業種共通で評価し、CDPは気候変動や水などテーマ特化型のスコアを出しています。つまり、評価項目の網羅範囲が異なるのです。

研究によれば、特にMSCIと他社の評価の差異のうち約68%は評価範囲の違いで説明できるという分析があります。MSCIは独自の「エクスポージャー・スコア」を用いて業種固有の項目にフォーカスするため、他社と評価対象がズレやすい傾向があるとされています。例えば、MSCIは製品炭素フットプリントという項目で製品使用時の排出まで見るのに対し、他社はそれを評価していないなどのケースです。

測定方法の違い 

次に測定方法、すなわちMeasurementの違いです。これは各評価項目にスコアを付ける際の基準や計算方法の差です。たとえばCO2排出量を評価する際、MSCIは業種平均との相対比較で点数化するかもしれませんが、別の機関は絶対量や削減トレンドを見るかもしれません。この測り方の違いが評価差の最大要因で、全体の56%程度を占めるとの報告があります。

Sustainalyticsは未管理リスクという独自指標で測定し、低い方が良いという逆尺度でスコアを出します。一方MSCIは管理努力を、高い方が良いという正の尺度で評価します。またS&Pはアンケート回答を点数化しますが、回答しない企業はスコアが低く出る傾向があります。こうした評価アルゴリズムやスケーリングの違いが、同じデータを入力しても異なるスコアを生む原因となっています。

重み付けの違い 

最後に重み付け、すなわちWeightの違いです。仮に評価項目と測定方法が同じでも、どの項目をどれだけ重視するかのウェイト設定で差が出ます。MSCIは業種別にウェイトを設定し、ガバナンスは常に33%以上とするなどのルールがあります。FTSEやS&Pも独自のウェイト体系があります。

例えば、気候変動をMSCIは石油会社に対して30%の重みを置くものの、他社は20%かもしれません。この違いは評価全体の6%程度の差異要因と推計されています。ウェイトの違いは、評価者の価値判断、すなわち何が重要かという視点の反映でもあります。

3. 主な評価機関の特徴比較

各評価機関の特徴は以下の通りです。

MSCI

業種相対評価と財務的影響重視が特徴です。スコアは7段階の文字格付けで提供されます。企業との直接対話は限定的ですが、年1回報告書提供と事実確認のプロセスがあります。数千社をカバーし、機関投資家の採用実績が多いです。

Sustainalytics

ESGリスクレーティングを提供し、0点から40点以上までのスコアで表します。0に近いほどリスクがないことを示します。評価は絶対水準で、例えば炭素事業比率が高ければ高リスクと見做されます。格付けというよりリスクスコアである点がMSCIとの大きな違いです。多数の企業を網羅し、モーニングスター系のESGファンドなどで活用されています。

FTSE Russell

0点から5点までのESGスコアを提供し、E・S・G各60近い細分類項目への評価に基づき総合スコアを算出します。産業ごとの調整はありますが、スコアは絶対値です。FTSE4Good指数などに用いられ、企業にもフィードバックを行っています。

S&P Global

 旧RobecoSAMから引き継いだCSA、すなわちCorporate Sustainability Assessmentの0点から100点までのスコアを提供します。企業からの詳細な回答を重視し、業種ごとに質問項目が異なります。トップ企業は毎年「サステナビリティイヤーブック」に掲載され、Dow Jones Sustainability Indices、いわゆるDJSIの採否にも使われます。回答企業は高スコアになりやすいとの指摘もあります。

ISS ESG

AプラスからDマイナスまでのレーティングを提供し、国ごとや産業ごとに、投資適格であることを示すプライム評価かどうかも提示します。ガバナンス領域に強みがあり、議決権行使助言とセットで利用されることもあります。重視項目は国・業界の配点で決まり、独自性があります。

CDP

投資家向けと言うより企業の開示努力評価に近く、気候変動や水などテーマ別にAからDまでのスコアを付与します。質問票への回答をもとに評価する点でS&Pに似ています。スコアは公表されるため企業評判に影響します。

評価尺度の違いと実例 

以上のように、各機関で7段階評価か100点満点かといった評価尺度や、重視分野、インプット情報が異なるため、結果の差異が生まれます。例えばTesla社は一時MSCIで高評価だったものの、S&PのDJSIから除外されたことがあります。これはTeslaが気候変動対応では優れる一方、労働問題や経営倫理面で課題を抱えており、総合評価の重み付け次第で評価が割れた例とされています。

また、日本企業では公的年金連合のGPIFがMSCIとFTSEという複数のESG指数を採用したことで、両社の評価が異なる企業への対応が議論となりました。GPIF自身は、各評価の違いを理解するために評価機関と対話しているとし、単一評価に依存しない姿勢を示しています。

4. 評価の不一致への対応

企業や投資家にとって評価の不一致は悩ましい問題ですが、解消ではなく理解と活用が現実的な対応策といえます。企業側から見ると、自社が主要な評価機関からどのように見られているかを把握し、重要度の高い評価に優先的に対応することが必要です。たとえば、自社株主の多くがMSCI系ファンドならMSCI格付けを重視し、欧州投資家が多ければCDPやSustainalyticsのスコアも重視するといった具合に戦略を立てます。

企業側の戦略的対応 

一方で、評価機関ごとに言われることが違う場合、全てに振り回されるのは得策ではありません。むしろ共通課題を抽出して取り組む方が効果的です。どの評価でも低い領域は真に弱点と考えられ、優先改善課題とすべきです。また、開示不足が原因なら、まず情報開示を増やすことで複数の評価が改善する可能性があります。

投資家側の活用と規制動向 

投資家側でも、各評価の違いを理解した上で、自らの投資目的に合致した評価を組み合わせて使う動きがあります。例えば短期の信用リスクを見るならSustainalytics、長期の企業変革力を見るならMSCI、といった具合です。また大型投資家の中には、複数の外部評価や自社分析を組み合わせてスコア化する独自のESG評価モデルを構築するところも増えてきました。これは不一致問題を内部で咀嚼する努力と言えます。

規制面では、欧州を中心にESG評価機関の透明性向上が議論されています。将来的には、各評価の方法論や意図をもっと開示させ、投資家である利用者が違いを理解しやすくするルールが整備される可能性があります。日本でも金融庁の専門分科会が2022年に報告書をまとめ、評価機関による情報開示や質の向上を促しています。

本質的な企業価値との関係 

最後に重要なのは、企業も投資家もESG評価を鵜呑みにせず、中身を理解することです。評価結果そのものより、なぜその評価なのかを分析し、本質的な企業価値との関係を考えることが求められます。ESG評価の不一致は手法の違いから生じる集計上の錯綜、すなわちAggregate Confusionと呼ばれますが、むしろ多様な視点が得られる機会とも捉えられます。

一つの尺度では見落とすリスクが、複数の尺度で浮き彫りになるとも言えるからです。従って、企業は様々な評価を参考にしつつ、自社にとって何が重要なESG課題かを見定め、取り組みの軸をぶらさないことが肝要でしょう。

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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