MSCIとは? ESG評価の仕組みと指標について詳しく解説

MSCI ESGレーティング、すなわちESG格付けの仕組みと評価指標について詳しく解説します。MSCIは環境・社会・ガバナンスの各分野における企業のリスク管理能力を評価し、AAAからCCCまで7段階の格付けを付与しています。本記事では、MSCI ESG評価の評価体系である3つの柱、10のテーマ、33のキーイシューや、格付け算出のプロセス、評価指標となる具体的な要素について最新の方法論に基づき解説します。企業のサステナビリティ推進担当者が自社の評価を理解し戦略に活かせるよう、専門的な内容をかみ砕いて説明します。

あわせて読みたい
【総合解説】気候変動対応ガイド 気候変動への対応が急務となる中、企業に求められる情報開示の基準が急速に拡大しています。本レポートでは、TCFD、SSBJ、CDP、Scope1,2,3、CFP、第三者保証、SBT、EU法...
あわせて読みたい
【第三者保証 入門】国内外動向と検証プロセスの要点セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)は、検証機関としての知見を活かし、サステナビリティ分野における「第三者保証」に関する入門...
目次

1. MSCI ESGレーティングとは何か

MSCI ESGレーティングとは、米国の投資評価機関MSCIが提供する環境・社会・ガバナンスの評価サービスであり、企業のESGリスク管理能力を総合的に評価してAAAからCCCまでの7段階の格付けを与えるものです。

格付けの定義と分布

MSCIは世界数千社をカバーし、各企業の事業活動に関する詳細な調査・分析に基づいてESG格付けを算出しています。格付けは同業種内での相対評価であり、企業が属する業種の他社と比べてどの程度ESG上のリスクに強い体制を持つかを示すものです。最高位はAAAで業界トップクラスのESG対応力、最下位のCCCは業界で著しく遅れたESG対応といった位置づけになります。各格付けの割合は業種ごとに調整されており、全企業の約半数が中位のBBBからBB近辺に集中し、AA以上やB以下は相対的に少数となるよう設定されています。

財務的関連性の重視 

MSCI ESGレーティングの目的は、財務的に重要なESGリスクおよび機会に対する企業の対応力を評価し、投資家に有用な情報を提供することです。具体的には、各企業が直面しうる環境・社会リスクにどの程度晒されているかを示すリスク・エクスポージャーと、それを管理・低減するためのポリシーや実践といった体制がどれほど整っているかを評価します。また、クリーン技術の普及など、企業が環境・社会に与える正のインパクトに関する取り組みがある場合は、それも評価に加味されます。

MSCI自身はESG格付けについて、財務的に関連のあるESGリスクと機会に対する企業のマネジメントの質に関する意見であると説明しています。したがって、単に環境に優しいかどうかではなく、それが長期的に企業の財務健全性に影響し得る要素かどうか、そしてそれに企業がどう対処しているかが重要視されます。格付け結果は投資家に提供され、ESG要素を考慮した投資判断であるESGインテグレーションやリスク管理に活用されています。

2. 評価フレームワークの構造

MSCI ESG評価は、3つのピラーと呼ばれる大分類から構成されています。それがすなわち環境、社会、ガバナンスの三領域です。この3ピラーの下にさらに10のテーマが設けられており、例えば環境ピラーには気候変動、天然資源、汚染と廃棄物、環境機会の4テーマ、社会ピラーには人材、製品責任、ステークホルダー、社会機会の4テーマ、ガバナンスピラーにはコーポレートガバナンス、企業行動の2テーマがあります。

33のキーイシューとマテリアリティ

各テーマの下には合計33のキーイシュー、すなわち重要課題が設定されています。キーイシューとは具体的な評価項目の単位であり、環境分野では気候変動や水ストレス、生物多様性と土地利用、有害物質などが、社会分野では労働慣行、製品安全、プライバシーとデータセキュリティ、サプライチェーン労働基準などが、ガバナンス分野では取締役会、企業倫理、贈収賄防止などが該当します。

各企業について、この33のキーイシューの中から該当するものだけが評価対象となります。MSCIは業種ごとに重要なキーイシューを2から7項目選定しており、例えば自動車業界であれば製品の燃費やEV化を含む気候変動や、リコール対策などの製品安全が重視されます。また、銀行業であれば顧客プライバシーや貸出先の環境・社会リスクなどが該当します。一方で業種に無関係な課題は評価に含めません。例えばソフトウェア企業にとって水資源は重要度が低いため基本的に評価対象外です。このように、MSCIは業種毎にESG課題の重要性であるマテリアリティを判定し、評価範囲をカスタマイズしている点が特徴です。結果として、企業ごとに評価されるキーイシューの組み合わせは異なり、自社の業種で何が重視されているかを知ることが評価理解の第一歩となります。

スコア算出の仕組み(曝露と管理) 

キーイシューごとの評価は0点から10点のスコアで表されます。各キーイシューについて、まずその企業のリスク曝露スコアであるExposure Scoreを算定します。これは企業の事業内容や所在地、市場状況などから見て、その課題によるリスクや機会にどの程度さらされているかを示す指標です。例えば気候変動であれば、高炭素産業ほど曝露スコアが高くなります。

次に、そのリスクに対する管理スコアであるManagement Scoreを算定します。これは企業の方針・体制・実績などを分析し、そのリスクをどれだけ適切に管理できているかを0点から10点で評価したものです。例えば温室効果ガス削減目標の有無や進捗、気候関連財務情報の開示状況などが管理スコアに反映されます。最後に曝露と管理の両面を統合してキーイシュースコアが算出されます。一般的に、曝露に対して管理が十分なら高スコア、曝露が大きいのに管理が不十分だと低スコア、という形になります。一方で曝露がそもそも低ければ、管理が平均的でもそこそこのスコアになり得ます。こうした評価プロセスにより、同じ課題でも業種や企業によってリスク許容度を考慮したスコア付けが行われ、公平性を担保しています。

ガバナンスの重要性 

ガバナンスについては全企業共通で評価します。MSCIではガバナンスをコーポレートガバナンスと、ビジネスエシックスとも呼ばれる企業行動の2テーマに分け、取締役会の独立性・少数株主保護・報酬制度などに関する6つのキーイシューを設定しています。これらはすべての企業に当てはまるため、他の環境・社会課題とは別枠で評価されます。

ガバナンスピラーのウェイトは全業種で最低でも33%を占めるよう定められており、どんな企業でもガバナンスが評価全体の1/3以上を占めます。これは、いかに環境や社会の取り組みが優れていてもガバナンス体制が脆弱だと高評価は得られないことを意味し、MSCIがガバナンスを重視している表れです。

3. 格付け算出のプロセス

MSCI ESG格付けの算出プロセスは多段階にわたります。大まかな流れは以下の通りです。

評価対象企業の選定

原則としてMSCIは主要な株価指数に含まれる企業を中心に評価対象としています。世界の大型・中型株を網羅したMSCI ACWI指数採用銘柄などが範囲となり、日本企業も数百社が対象です。また債券発行体なども含まれます。

資料収集と分析

専任のアナリストが有価証券報告書や年次報告、サステナビリティ報告書といった各企業の公開情報やニュースデータベース、政府・NGOの報告を収集し、ESGに関連するデータポイントを整理します。企業への直接ヒアリングは基本行いませんが、不明点や事実確認のためにコンタクトが取られることもあります。集められた情報は内部データベースに蓄積されます。

キーイシューの特定とスコアリング

前述のように業種別に定められた重要課題ごとに、企業の曝露スコアと管理スコアを算定します。それぞれ事故発生件数やCO2排出量、従業員離職率などの定量指標と、ポリシーの有無、目標設定の有無、体制の先進度といった定性評価を組み合わせて点数化されます。

ウェイト付けとピラースコア算出

各キーイシューには、重要度係数である業種ごとのウェイトが設定されています。例えば気候変動は電力業界ではウェイトが高く、自動車では中程度、金融では低いといった具合です。企業ごとのキーイシュースコアにウェイトを乗じて合算し、環境・社会・ガバナンス各ピラーの0点から10点のピラースコアが算出されます。ただし前述の通りガバナンスは最低33%のウェイトとなるよう補正されます。

業種内での相対評価(スコアの正規化)

得られたピラースコアの加重平均により企業の総合スコアが算出されます。しかしこの時点のスコアは絶対値であり、これを業種内で相対評価するためにスコアの正規化が行われます。具体的には、同じ業種内で最高のスコアを10、最低を0に再マッピングするような形で調整が行われます。MSCIは明確な手法を公表していませんが、業種平均を5に揃えるような調整が入ると推測されています。これにより、業種が異なってもAAAからCCCの格付け基準が共通化されます。

委員会レビューと格付け決定

最終スコアに基づき、一律の基準でAAAからCCCの格付けが割り当てられます。ただし重大な不祥事などがある場合などには、アナリストの判断や委員会レビューによって最終格付けが調整されることがあります。また業種内の極端な順位変動については社内委員会で審議が行われ、評価の一貫性が保たれるようチェックされています。

定期更新と臨時見直し

MSCI ESG格付けは基本的に年次で見直しが行われ、多くの企業は年1回の定期レビューを受けます。ただし重大な事件・事故や経営破綻などESGリスクプロファイルに大きな影響を与える出来事が起きた場合は、臨時の評価更新が行われます。一方で改善があっても臨時引き上げは稀で、良いニュースより悪いニュースの方が即時反映されやすい傾向があります。

以上がMSCI ESG格付けの基本的な算出フローです。要約すると、各企業のESGリスクと対応力をスコア化し、業種内で相対評価した上で7段階評価にマッピングしていると言えます。評価プロセスには多数の定性的判断や推計も含まれるため、完全に客観的・機械的なものではなく、アナリストの専門知見や判断が介在しています。しかしながらその枠組みは統一された方法論に則っており、全体として公平性・一貫性を保つよう工夫されています。

4. 評価指標(キーイシュー)の詳細

前述の33のキーイシューはMSCI評価の中核です。それぞれ具体的にどのような指標・観点で評価されるか、代表的なものをいくつか紹介します。

気候変動

二酸化炭素など温室効果ガスの排出量削減目標の有無やその野心度、実績削減率、TCFD提言に沿った開示の有無、再生可能エネルギー使用率などが評価されます。発電会社や資源企業では発電容量あたり排出量といった定量指標も用いられます。将来の炭素規制が事業に与えるシナリオ分析などの影響分析の実施状況も考慮されます。

水ストレス

水使用量、水リサイクル率、水リスクの高い地域での事業比率、水資源管理方針や目標など。飲料メーカーや半導体産業など水依存度の高い業種で重視されます。

生物多様性と土地利用

サプライチェーンも含めた森林破壊との関連、原材料調達による生態系影響評価の有無、事業所の保護地域近接度、ゼロデフォレステーション目標などの土地利用方針など。食品・農業・天然資源系企業に該当します。

人材マネジメント

事故率や死亡災害の有無を含む従業員の労働安全、労働時間管理、福利厚生、管理職に占める女性比率などの多様性、離職率や従業員満足度調査といった従業員エンゲージメントなど。製造業では安全面、サービス業では多様性や人材育成がよりクローズアップされます。

製品安全とクオリティ

製品の欠陥やリコール件数、自動車のISO 26262などの製品安全管理認証の取得、品質管理システム、顧客からの苦情対応プロセス。自動車や医薬品などでは重大事故防止策がポイントとなります。

データプライバシーとセキュリティ

顧客個人情報の漏洩件数や対策、専門チームの配置や認証取得状況といったサイバーセキュリティ体制、プライバシーポリシーの透明性等。IT企業や通信などで重要です。

サプライチェーン労働基準

調達先の労働環境監査の実施、児童労働や強制労働などの有害な労働の防止への取り組み、紛争鉱物ポリシーなど。製造業全般で評価され、特にアパレルや電子機器で厳しく見られます。

コーポレートガバナンス

社外取締役の割合や独立取締役議長の有無といった取締役会の独立性、取締役会スキルマトリクス、黄金株の有無や反収益最大化条項などの少数株主の権利、経営陣報酬の透明性とパフォーマンス連動性、株式持ち合いや支配株主の存在などが分析されます。

企業倫理と腐敗防止

贈収賄等での訴追件数、内部通報制度の整備、コンプライアンス研修実施状況、政治献金の開示状況、第三者による贈収賄防止認証取得の有無などが指標となります。

以上は一部の例ですが、MSCI ESG評価が非常に幅広い指標を網羅していることが分かります。それぞれの項目で、定量データとポリシーや体制整備の有無という定性情報の双方が評価されるのが特徴です。MSCIは各指標について独自に重要度を判定しスコア化しますが、企業公表データが足りない場合は外部推計や業界平均値で補完することもあります。このため企業側としては、少しでも自社の実態が正しく反映されるよう、関連データを積極的に開示する努力が必要となります。

5. 2023年以降の方法論の変更点

MSCIは市場環境やステークホルダーの期待に応じて、ESG評価方法論をアップデートしてきました。直近では2023年に評価モデルの改訂が行われており、主な変更点として気候変動リスクの重み付け強化や一部スコア算出ロジックの見直しが挙げられます。

厳格化する評価基準 

具体的には、気候関連のシナリオ分析情報を開示している企業はより高く評価されるようになり、逆に開示が不十分だと減点が大きくなる調整が入ったと報じられています。また、コンロバーシーと呼ばれるESG論争の企業スコアへの影響度合いも見直され、過去に重大論争を起こした企業に対するペナルティ期間の延長などが検討されています。これはESG評価業界全体に寄せられる、格付けが甘過ぎるのではないかという批判に対応する動きの一環です。MSCIは評価手法の変更に際し、顧客との協議や市場からのフィードバックに基づくものと説明しており、より厳格で信頼性の高い評価を目指す姿勢を示しています。

日本企業への影響と対策 

日本企業にとって特筆すべきは、気候変動やサプライチェーン労働など国際的関心が高まったテーマの重要度上昇です。たとえば、これまでそれほど重視されてこなかった生物多様性が今後キーイシューとして加わる業種が増える可能性があります。実際、欧州で生物多様性情報開示が規制化される流れの中、MSCIも生物多様性リスクの評価手法を強化しています。またHuman Capital、すなわち人的資本の扱いも注目で、従来は労働慣行の一部としていた人材開発やダイバーシティに対し、独立した評価項目を拡充する動きがあります。2024年版方法論では、人権への配慮である人権デュー・ディリジェンスがより重視され、日本企業にも実施を求める圧力が高まるでしょう。

これらの変化に対応するには、企業は継続的にMSCIの発表するメソドロジー資料をチェックし、自社のスコアに影響しそうなポイントを把握することが重要です。また、評価機関との対話機会があれば積極的に情報収集し、自社の改善に役立てることが推奨されます。

6.まとめ

MSCI ESGレーティングの仕組みと指標について、主に評価フレームワークと算出プロセスを中心に解説しました。ポイントは3つあります。

業種毎の重要課題にフォーカスして評価する点

33のキーイシューから業種に応じた項目だけを用い、リスク曝露と管理能力をスコア化する方法により、財務影響の大きいESG要素に絞って評価している。

同業種内での相対評価で格付けを決定する点

絶対評価ではなく業界ベンチマーキングによってAAAからCCCを割り当てるため、異業種間での格付け比較には注意が必要だが、投資家にとっては業界内での企業位置づけが分かりやすい。

公開情報と定量・定性データの活用

評価は企業の開示情報や客観データに基づいて行われ、特に不足する情報がある場合は推計で補完されるため、企業は自社情報の積極開示が求められる。また、重大な不祥事は評価を下げる要因となるため、日頃からのリスク管理も不可欠。

MSCI ESGレーティングは投資家にとって企業のサステナビリティ対応力を測る重要な物差しとなっています。その指標体系は企業経営の多くの側面を網羅しており、自社の弱点を把握し改善するヒントが詰まっています。評価の仕組みを理解することで、企業はどのようにすればESGパフォーマンスを高められるか、ひいては長期的な企業価値向上につなげられるかを考える材料を得ることができます。

あわせて読みたい
【主要テーマ解説】第三者保証 解説資料 第三者保証とは、サステナビリティ情報(GHG排出量など)の信頼性を、独立した検証機関が国際基準に基づいて評価し、適合性を表明する仕組みです。本資料では、ISO 1406...

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

目次