【欧州電池規則】欧州電池規則が定めるリサイクル材含有率

欧州連合の新たな「欧州電池規則」では、バッテリー製造時に一定割合以上のリサイクル材(再生材料)を使用することが義務付けられています。本記事では、このリサイクル材含有率義務の概要と具体的な目標値、適用スケジュール、および企業への影響について解説します。サステナビリティ推進担当者が押さえておくべき最新の欧州規則動向を、ビジネス視点で整理します。

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目次

1.欧州電池規則におけるリサイクル材含有率義務とは

リサイクル材含有率義務とは、電池の製造に使用される原材料中に占めるリサイクル由来の材料(再生材)の割合について最低基準を定め、その基準以上の再生材を使用しなければならないという規則です。欧州電池規則により、EV用電池・産業用電池・自動車用バッテリー(SLI用電池)などの大型バッテリーについて、製品中の特定金属(コバルト・鉛・リチウム・ニッケル)の一定割合以上をリサイクル材で賄うことが義務化されました。ここでいう「リサイクル材」とは、生産工程で発生したスクラップや使用済み電池から回収・再資源化された材料を指します。

この義務は欧州グリーンディールの循環経済戦略の一環として導入されたもので、電池のライフサイクル全体で資源の有効利用と環境負荷低減を図る狙いがあります。従来から欧州では鉛蓄電池等で高いリサイクル率が実現されてきましたが、急増するリチウムイオン電池分野でも再生資源の利用を促進するため、具体的な数値目標が法的に定められた点が画期的です。

2.リサイクル材最低含有率の具体的要件とスケジュール

欧州電池規則では、リサイクル材含有率に関する義務が段階的に適用されます。まず2028年8月18日以降、対象となる大型電池(外部電源のみのものを除く2kWh超の産業用電池、EV用電池、SLI用電池)について、バッテリーに含まれるコバルト・鉛・リチウム・ニッケルの各活性材料ごとの含有量およびそれらのうち廃棄物由来のリサイクル材が占める割合を、年度別・製造工場別・電池型式別に開示することが義務付けられました。この段階では情報開示(報告義務)が中心で、各社は自社製品中の再生材利用率をデータで示す必要があります。

義務化

そして2031年8月18日以降、上記の大型電池についてリサイクル材の最低含有率そのものが法的に義務化されます。具体的には、電池中のコバルト、鉛、リチウム、ニッケルのうち最低でも以下の割合以上をリサイクル由来の原材料でまかなわなければなりません。

・コバルト:16%
・鉛:85%
・リチウム:6%
・ニッケル:6%

強化

上記は2031年以降に適用される初期目標値であり、欧州電池規則ではその後の強化目標も設定されています。2036年8月18日以降は、この最低含有率がさらに引き上げられ、かつ適用対象が拡大します。具体的には、従来対象外だった軽輸送手段用バッテリー(電動自転車やスクーター等のLMT用電池)にもリサイクル材含有率義務が適用され、最低含有率がコバルト26%、鉛85%、リチウム12%、ニッケル15%に強化されます。なお、電池メーカーには自社製品のリサイクル材使用率を技術文書で証明することも義務付けられており、単に割合を満たすだけでなくその裏付けとなるデータや証拠の提出が求められます。

以上のように、2028年の情報開示開始、2031年の数値適合義務化、2036年の基準強化という3段階のスケジュールで規則が展開されます。企業はこれらマイルストーンに合わせて、必要なデータ収集や製造プロセスの見直しを段階的に進める必要があります。

3.企業への影響:技術・調達面の課題と対応

リサイクル材含有率義務は、電池メーカーのみならず材料調達やリサイクルに関わるバリューチェーン全体に影響を及ぼします。まず技術面では、製品に一定量の再生材を組み込むためにバッテリー設計や製造プロセスの変更が求められる可能性があります。特にリチウムやニッケルなど、現時点で大規模なリサイクル供給網が十分確立されていない金属については、必要なリサイクル材を安定確保する技術開発が課題となります。また、再生材を使用することで電池の性能や安全性に影響が出ないか検証しつつ、品質を均一に保つ工夫も必要です。

調達面

規定の含有率を達成するためには、リサイクル由来原料の調達先を確保しなければなりません。需要の高まりに対して再生資源の供給不足が生じれば、原料価格の上昇や調達競争の激化も予想されます。企業は早い段階からリサイクル業者とのパートナーシップを構築し、安定的な再生材サプライチェーンを築くことが求められます。また、サプライヤーに対してリサイクル材利用の協力を促すなど、バリューチェーン全体での取り組みが必要です。

データ管理とコンプライアンス対応

前述のとおり各社は自社電池の再生材含有率を証明する技術文書を備える義務があります。このため、原材料の出所や含有率に関するトレーサビリティ体制を構築し、正確なデータ収集・報告を行えるようにしなければなりません。欧州電池規則では将来的にバッテリーパスポート(電池ごとのデジタル台帳)への情報記録も義務化され、リサイクル材含有率データもその中で共有される見通しです。情報開示や監査に耐えうる記録管理を整備することが、企業のリスク管理上ますます重要になるでしょう。

4.リサイクル材含有率義務への対応策と展望

以上の課題に対応するため、企業には早期かつ計画的な対応策の策定が求められます。まず自社製品の設計・材料構成を分析し、現行のリサイクル材含有率が将来目標に対してどの程度不足しているかを把握することが出発点です。その上で、不足分を補うための技術開発計画や調達戦略を立案します。たとえば、リチウムやニッケルのリサイクル効率向上技術への投資、リサイクル材の品質向上策の検討、新規リサイクルプロジェクトへの参画などが考えられます。

サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組み

電池メーカーは自社のサプライヤーに対し、使用する原材料中の再生材比率向上を働きかけるとともに、必要に応じて技術支援や契約上の要件設定を行うことが考えられます。さらに、業界横断の協調も有効でしょう。例えば業界団体を通じてリサイクル材の標準規格づくりや情報共有を進め、効率的にリサイクル市場を拡大していく戦略も重要です

資源循環型ビジネスへの転換

欧州電池規則のリサイクル材含有率義務は、企業にとって短期的には負担増となるものの、長期的には資源循環型ビジネスへの転換を促す契機ともなります。規則への対応を単なるコストではなく、自社のサステナビリティ戦略の一環として捉え、循環経済を先取りするビジネスチャンスと結びつける視点が求められます。実際、欧州市場で競争力を維持するためには本規則への深い理解と迅速な対応が不可欠であり、各社とも早急に対応計画を策定し実行に移すことが望まれます。再生材の活用拡大はカーボンフットプリント削減にも寄与しうるため、自社の脱炭素目標やESG評価向上にもプラスになる側面があります。規則遵守を確実にするとともに、これを自社の環境・社会的価値向上につなげていくことが、今後の企業経営における鍵となるでしょう。

引用

ジェトロ EU バッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動きhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/b08a308f2a0bb467/20230022.pdf

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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