FTSEのESG格付は、企業のサステナビリティ経営において活用されています。本記事では、FTSEの評価を企業がどのように活用しているか、具体的な事例やそのメリットを紹介します。ESG指数への組み入れによる効果や、スコア向上に向けた取り組みについても解説します。実際、FTSE Blossom Japan IndexなどのESG指数に採用されたことをニュースリリースで発表する企業も多数存在します。


1.ESG指数組み入れによる資金調達面でのメリット
FTSE Russellが算出するESG指数(株価指数)に自社が組み入れられることは、企業にとって資金面・株式市場で大きなメリットをもたらします。日本の年金基金GPIFはESG投資の一環で複数のESG指数をパッシブ運用に採用していますが、2022年度末時点でFTSEのESG指数には約2兆320億円もの資金を投じています。したがってFTSE指数の構成銘柄に選定されれば、GPIFをはじめ機関投資家からの資金流入が期待でき、企業側にとってスムーズな資金調達につながるという利点があります。実際、ESG指数への組み入れは企業の株式需要を高める効果があり、株価や流動性の向上にも寄与し得るとされています。
さらに、ESGスコアは単なる評価指標に留まらず、近年では投資家の意思決定やエンゲージメントに直結する存在となりつつあります。一部の大手機関投資家は、独自の方針としてESGスコアの低い企業の取締役選任議案に反対票を投じたり、融資の金利条件を企業のESG格付に連動させる金融商品を開発する動きも出ています。このようにESG格付は資本市場で企業の評価に直接影響を与える局面が増えてきており、FTSEのような主要格付で高い評価を得ることは、資本コストの低減や投資家・株主からの支持確保という観点でも重要性を増しています。
2.FTSE ESG評価を活用する企業の事例
FTSE関連のESG指数に選定されることは社内外へのアピール材料となるため、多くの企業が自社の採用を公式発表しています。
ESG指数選定の公表例
例えば博報堂DYホールディングスは、自社が「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」の構成銘柄に2年連続で選定され、加えて「FTSE Blossom Japan Index」および「FTSE4Good Index Series」にも選定されたことをニュースリリースで公表しました。また、浜松ホトニクスは2025年7月、自社が世界的なESG投資指数である「FTSE4Good Index Series」に選定されるとともに、GPIFが採用する「FTSE Blossom Japan Index」に初めて構成銘柄として選出されたと発表しています。このようなリリースではFTSE Russellの指数が「グローバルで代表的なESG指数」「機関投資家が企業の持続可能性評価に用いる基準」であることが紹介され、自社のESG対応の信頼性を示す材料としています。
FTSE指数への採用は社内の士気向上にもつながります。ESG評価が高まった企業では、自社のサステナビリティ戦略や統合報告において「〇〇指数に選定されました」と明記し、従業員やステークホルダーと成果を共有する例も見られます。それにより更なるESG活動の推進に弾みをつける効果も期待できます。
ESGスコア向上に向けた社内取り組み
FTSEのESGスコアを向上させるには、ESG課題への実質的な取組強化に加え、適切な情報開示を徹底することが不可欠だとされています。FTSEの評価は前述の通り企業の公開情報に基づいて行われるため、たとえ優れたESG施策を実施していても外部に開示されていなければスコアには反映されません。したがって、ESGに関する自社の方針・目標・取組・成果を網羅的かつ分かりやすく開示し、評価者にアピールすることが重要です。
ESG情報開示フレームワークを活用
具体的な施策として、多くの企業が国際的なESG情報開示フレームワークを活用しています。比較的ESGスコアの高い企業では、SASBスタンダードやGRIスタンダード、TCFD提言に沿った情報開示を行い、自社のESG情報を体系立てて報告しています。FTSEをはじめ主要なESG評価機関も評価項目の策定に際してこうした枠組みとの整合性を図っているため、グローバル基準に則った開示は評価向上に有効だとされています。実際、国際統合報告フレームワークやTCFDに基づく開示を行えば複数の格付機関で一定の評価を得られるとの分析もあり、社内外の専門家によるESG開示コンサルティングを活用する企業も増えています。
また、企業内ではFTSEの評価項目に対する自社の対応状況を点検する作業も行われています。例えば東急不動産ホールディングスでは、同社サステナビリティサイトに「FTSE対照表」を掲載し、FTSEの各評価項目ごとに自社の取り組み・開示状況を一覧化しています。このような対照表を用いることで、FTSEの基準に照らして不足している情報開示や社内施策を洗い出し、改善を図ることが可能となります。実際に不足が見つかった項目については新たなKPIを設定したり、社内の関係部署と協力してデータ収集・開示を充実させるなど、PDCAサイクルを回しながらスコア向上に取り組んでいる企業もあります。
3.FTSE評価を通じた継続的改善と効果
FTSE Russellの評価プロセスには、企業にとって学びの機会となるフィードバックの仕組みが用意されています。毎年の初期評価結果は対象企業に一旦フィードバックされ、企業側は4週間以内であれば評価内容に対する問い合わせや追加情報の提出を行うことができます。この期間中、企業は評価内容を精査し、自社の開示漏れがないか確認した上で、もし追加の公開情報があればその所在(例:○○報告書○ページ)を伝えることができます。FTSE側は提出された追加情報を吟味した上で最終的な評価スコアを決定します。このようなフィードバックプロセスにより、企業は第三者視点から自社の情報開示の抜け漏れを点検する機会を得られるほか、自社の課題となっているテーマ(スコアの低い分野)を認識し、次年度に向けた改善策を講じることができます。
FTSEのパフォーマンス
実際、FTSEのESGスコアは各国企業の努力により年々向上傾向にあります。FTSE Russellのデータによれば、欧州主要国(フランス、オランダ、英国)の企業の平均ESGスコアは2019年時点で3.5を超える水準に達しており、グローバルに企業のESGパフォーマンスが底上げされています。日本企業においても、2019年にはESGスコア4.5以上の企業が全体の約5%に上るなど高スコア企業が増加傾向にあります。一方で、テーマ別の平均スコアでは日本企業は先進国平均を下回る分野がなお多数あり、世界市場に比べ課題が残る状況です。このギャップを埋めるためにも、FTSEの評価結果を継続的な改善に活かし、弱点分野での取り組み強化と情報開示の充実を図ることが重要です。
総じて、FTSEのESG格付は企業にとって自社の持続可能性施策を客観的に評価する指標であると同時に、投資家との対話や資金調達にも直結する戦略ツールとなっています。企業事例からも分かるように、FTSE評価の向上に努めることはESG経営そのもののレベルアップにつながり、結果的に企業価値や競争力の向上という効果をもたらします。今後もFTSEをはじめとするESG評価を積極的に活用し、自社のサステナビリティ向上に役立てていく企業が増えていくと考えられます。
引用
博報堂DYHD
https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/news/corporate/2025/08/5776.html
浜松ホトニクス株式会社 ニュースリリース「ESG投資の代表的指数『FTSE4Good』『FTSE Blossom Japan Index』構成銘柄に選定」
https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/160331_07.pdf
FTSE_FTSE Blossom Japan Sector Ralative Index
https://www.lseg.com/content/dam/ftse-russell/en_us/documents/ground-rules/ftse-blossom-japan-sector-relative-index-ground-rules-japanese.pdf
東急不動産HD「FTSE対照表」 (自社のFTSE評価項目対応状況を示す資料ページ, 2023年)
tokyu-fudosan-hd-csr.disclosure.site

