【カーボンクレジット】種類と特徴について詳細に解説

カーボンクレジットと言っても、排出削減型か吸収・除去型か、国連・政府・民間いずれが認証するかで、その信頼性や活用シーンは大きく変わります。本稿では、CDM、J-クレジット、VCS/ゴールドスタンダード、JCMといった主要スキームの特徴を整理しつつ、追加性・恒久性・第三者検証・二重計上防止など評価の勘所を横断的に比較。貴社の脱炭素戦略に最適なクレジットを選び抜くための実践的な視点を提供します。

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目次

1. カーボンクレジットの基本概念

カーボンクレジット(Carbon Credit)とは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「1トン」単位のクレジットとして認証・発行し、売買可能にした仕組みです。企業や団体が省エネ設備の導入や森林保全などで創出した温室効果ガスの削減・吸収分をクレジット化し、削減が難しい他者が購入して自らの排出を埋め合わせ(オフセット)に活用できます。例えば、自社努力だけでは削減できない排出を排出許可証(クレジット)として購入することで間接的に削減したり、逆に過剰に削減できた分を排出削減証書として販売して資金化したりできます。これにより排出削減に取り組む主体には売却益というインセンティブが生まれ、購入者側は自社のカーボンニュートラルや気候目標の達成手段を得ることができます。

排出削減型(排出回避型)

排出削減型クレジットは、温室効果ガスの排出そのものを抑制・回避したことによる削減量を認証したものです。具体例として、開発途上国の森林破壊を防ぐ森林保護プロジェクト(REDD+)によるCO2排出回避や、再生可能エネルギーの導入や工場設備の省エネ化によって化石燃料由来の排出を削減したケースなどが挙げられます。

吸収型・除去型

一方、吸収・除去型クレジットは、大気中のCO2を物理的に吸収・除去した量を認証したものです。代表例は植林や森林管理によるCO2吸収で、最近では直接空気回収技術(DACCS)やBECCS、生物炭など人為的にCO2を回収・固定化する技術も含まれます。このように、クレジットには削減か吸収かという性質に加え、自然由来か技術由来かといった違いもあり、プロジェクトの種類によって発行されるクレジットの特性が異なります。

2. 主要なカーボンクレジットの認証制度

カーボンクレジットを発行・認証する主な制度として、以下のようなものがあります。

CDM(Clean Development Mechanism)

 クリーン開発メカニズム。1997年採択・2005年発効の京都議定書で規定された国連主導の制度です。先進国が発展途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、その達成した削減量に応じてクレジット(CER)が発行され、先進国はそれを自国の削減実績に算入できます。

J-クレジット 

日本政府(環境省・経済産業省・農林水産省)が運営する国内のカーボンクレジット制度です。省エネ設備導入や再エネ活用、適切な森林管理などによる温室効果ガス排出削減量・吸収量を国が審査し、J-クレジットとして認証・発行します。2013年にオフセット・クレジット(J-VER)制度等を統合してスタートし、国内の中小企業や自治体、森林所有者などがプロジェクトを通じてクレジットを創出できます。創出されたJ-クレジットは企業のカーボンオフセットや脱炭素経営目標の達成に利用され、国内での資金循環を促す仕組みになっています。

民間のVCM(ボランタリーカーボン市場)のクレジット 

企業の自主的なカーボンオフセット用途に利用される民間認証のクレジットです。代表例としてVCS(Verified Carbon Standard)やゴールドスタンダード(GS)があり、森林や再エネなど世界各地の多様な削減・吸収プロジェクトが登録されています。これら民間クレジットはプロジェクトの質の高さや標準化された方法論を特徴とし、国際的な自主枠組みで広く流通しています。

JCM(Joint Crediting Mechanism)

二国間クレジット制度。日本が途上国と協力して温室効果ガス削減プロジェクトを行い、そこで生じた削減成果を双方の国の排出削減分として活用できる枠組みです。日本はこの制度を通じて、途上国での削減量の一部をクレジットとして取得し、自国の2030年目標(NDC)達成に充当しています。

以上のように、国連によるCDM、日本のJ-クレジット、民間のVCS/GS、二国間のJCMなど多様な認証スキームが存在します。発行主体(国際機関・政府・民間)、対象範囲(国内外、プロジェクト種類)、用途(法規制対応か自主的利用か)などが異なるため、企業は自社の目的に合ったクレジットを選択することが重要です。

3. カーボンクレジットの選び方と評価基準

企業がクレジットを活用する際には、どの種類・プロジェクトのクレジットを選ぶか、そしてその信用性や質を見極めることが重要です。主な評価基準と選定ポイントは以下のとおりです。

追加性(Additionality)

クレジットの根幹は、その削減・吸収活動が「クレジット収入が無ければ実現しなかった」ことを証明する追加性にあります。プロジェクトが追加的でなければ、クレジットで支援する意味がありません。したがって、追加性が担保された方法論かどうか(例:クレジット収入が無ければ採算が取れないプロジェクトか等)を確認します。

唯一性・重複防止

同じ削減量が二重に計上・クレジット化されていないことも重要です。信頼できるクレジット制度では、発行済みクレジットの登録簿で取引と償却状況を管理し、二重カウントを防いでいます。購入時にはクレジットが公式Registryで管理されているか、既に他で使用済みでないかを確認し、使用後は確実に償却(無効化)手続きを行うことが求められます。

第三者検証の有無

クレジットは独立した第三者機関による検証を経て発行されるべきです。プロジェクトの排出削減量の測定・報告・検証(MRV)が透明かつ厳格に行われており、信頼性の高い認証団体(例:VerraやGold Standardなど)の基準を満たしているかを確認します。

恒久性(パーマネンス)

森林吸収プロジェクトなど、将来的に吸収した炭素が再放出されるリスクがあるものについては、恒久性確保の対策が講じられているかを確認します。例えば森林火災等による炭素の再大気放出に備え、一定割合を予備クレジットとして積み立てる仕組みを設けるなど、長期に効果が維持される工夫がなされているプロジェクトが望ましいです。

社会・環境への配慮

プロジェクトが地域社会や環境に悪影響を与えていないか、むしろ地域の持続可能な発展に貢献しているかも考慮すべきです。例えば雇用創出や生態系保全など共益(コベネフィット)をもたらすクレジットであれば、企業のESG評価にも資するでしょう。

以上の観点から、クレジット購入時には提供元のプロジェクト情報や認証基準の詳細を確認し、質の高いクレジットを選ぶことが重要です。実際、東京2020オリンピックでは「プロジェクトが追加的である」「二重計上がない」「独立機関による検証済み」「SDGsに資する」という4条件を満たすクレジットのみが大会のオフセットに採用されました。このような厳格な基準は企業のカーボンオフセットにも参考になるでしょう。

4. まとめ

カーボンクレジットは、温室効果ガス排出削減の取組を支援・補完する有用な手段です。排出削減型と吸収型といった種類や多様な認証スキームが存在するため、企業担当者はそれぞれの特徴を理解した上で、自社の脱炭素戦略に適したクレジットを選定する必要があります。また、まずは自社内の排出削減努力を優先し、それでも残る排出に対して高品質なクレジットを活用することで、信頼性の高いカーボンオフセットを実現できる点も重要です。

引用

カーボン・オフセットガイドラインVer.3.0
https://www.env.go.jp/content/000209289.pdf

「購入方法(買いたい方) – J-クレジット制度」
https://japancredit.go.jp/market/buy

東証カーボン・クレジット市場でのJ-クレジット取引方法とは?売買方法を解説
https://carbon-credit.co.jp

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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