ISSA 5000(International Standard on Sustainability Assurance)とは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が策定した、サステナビリティ情報の保証業務に特化した国際基準です。この基準は、従来の財務情報を中心とした保証基準(例:ISAE 3000)では十分に対応できなかった非財務情報、特に環境・社会・ガバナンス(ESG)関連情報を対象としています。ISSA 5000は、企業が開示するサステナビリティ情報を高い信頼性で保証する枠組みを提供し、ステークホルダーが正確で透明性のある情報を基に意思決定を行うことを支援します。この基準の導入により、気候変動対応や持続可能性の実現に向けた企業活動の透明性と信頼性がさらに高まることが期待されています。
本記事では、ISSA 5000の概要、構造、主な特徴、ISAE 3000との違い、そして企業や社会への影響について詳しく解説します。
1.第三者保証におけるISSA 5000の策定背景
ISSA 5000は、サステナビリティ情報に対するステークホルダーの信頼性向上ニーズを受け、IAASBが策定した基準です。近年、気候変動や社会的課題に対する企業の取り組みが注目される中で、正確で透明性の高いサステナビリティ情報の保証が求められています。従来、財務情報に特化していたISAE 3000では非財務情報を網羅するのが難しく、非財務情報専用の基準策定が必要とされていました。
ISSA 5000の策定プロセスでは、世界中のステークホルダーからフィードバックを受け、統一された高品質の保証業務を提供する枠組みを構築しました。2023年に公開草案が発表され、2025年からの本格的な運用開始が予定されています。
2.第三者保証で利用されるISSA 5000の構造と適用範囲
ISSA 5000は、サステナビリティ情報の保証業務を行うための総合的なフレームワークを提供します。
適用範囲
環境、社会、人権、ガバナンス、経済的影響など広範なサステナビリティ情報を対象。
保証水準
限定的保証と合理的保証の2つの水準を規定。
対象基準
国際的なサステナビリティ基準(例:GRI、CSRD)や企業独自の報告基準。
特に注目すべきは、保証範囲外の情報も適切に評価することを求める点で、保証業務の範囲外情報が全体の信頼性に影響を及ぼさないよう配慮されています。
3.ISSA 5000 限定的保証と合理的保証
ISSA 5000では、保証業務の水準として「限定的保証」と「合理的保証」を明確に区分しています。
限定的保証
手続きが簡略化され、短期間で実施可能な検証が中心。対象情報に一定の正確性を担保。
リスク評価は簡易で、詳細な内部統制理解は不要。
例:特定のGHG排出量データに関する保証
合理的保証
より高いレベルの信頼性を提供するため、詳細な手続きが求められる。
開示項目ごとのリスク評価、内部統制のモニタリングプロセス理解が必要。
例:GXリーグ超過削減枠創出に関する保証
両者の違いは、保証報告書で明確に区別され、利用者に適切な情報を提供します。
GX登録検証機関
https://gx-league.go.jp/rules/verification/registered-verification-body
4.ISSA 5000 報告規準と重要性評価
サステナビリティ情報では、報告基準(Criteria)の適合性と重要性評価が特に重要です。ISSA 5000では、以下のポイントを規定しています。
報告基準の適合性
基準の関連性、信頼性、中立性、理解可能性を評価。
ダブル・マテリアリティ(投資家と社会的視点)にも対応しています。
重要性の評価
定量情報では、開示項目ごとの重要性を設定され、定性情報では、単一の基準を適用せず文脈に応じて評価されます。
これにより、サステナビリティ情報の多様性に対応した柔軟な保証が可能となります。
5.ISSA 5000 証拠の信頼性と内部統制の影響
保証業務では、証拠の信頼性確保と内部統制の理解が重要な要素です。
証拠の信頼性
外部情報源やバリューチェーン全体から得られるデータの正確性と網羅性を評価されます。
ISA 500をベースに、サステナビリティ情報特有の手続きを追加されています。
内部統制の影響
限定的保証では一部の統制環境理解で十分となりますが、合理的保証では統制活動やモニタリングプロセスまで深く理解する必要があります。
これらは、保証業務の品質向上に直結し、報告情報の信頼性を強化します。
6.ISSA 5000とISAE 3000の違い
ISAE 3000(International Standard on Assurance Engagements 3000)は、幅広い保証業務をカバーする汎用基準ですが、ISSA 5000はサステナビリティ情報専用の基準として策定されました。
以下に両者の主な違いを洗い出しました。
適用範囲
ISAE 3000
財務情報と非財務情報の両方を対象とするが、主に財務に関連する要素に重点を置く
ISSA 5000
サステナビリティ情報に特化。環境、社会、人権、ガバナンスといったESG要素を網羅
保証水準
ISAE 3000
保証水準の区別はあるが、サステナビリティ情報特有の深度や手続きには対応していない
ISSA 5000
限定的保証と合理的保証を明確に区分し、具体的な手続きを提供
報告基準
ISAE 3000
企業が任意で選択した基準を利用可能
ISSA 5000
国際的なサステナビリティ基準(例:GRI、CSRD)やダブル・マテリアリティにも対応
専門性
ISAE 3000
汎用基準のため、特定分野の専門家の関与について具体的な規定が少ない
ISSA 5000
サステナビリティ保証業務では専門家の活用が必須とされ、詳細な指針を提供
これらの違いにより、ISSA 5000は、サステナビリティ保証業務においてより専門性と実務性を兼ね備えた基準となっています。
7.第三者保証におけるグローバル基準としての役割と期待される影響
ISSA 5000は、統一された国際基準としての役割を果たしております。
またサステナビリティ情報に対する第三者保証は、企業の透明性と信頼性を向上させ、投資家や消費者が正確な情報に基づいて意思決定を行うことを可能にします。
国際基準への準拠により、市場での競争力を強化するとともに、GHG削減や社会的課題の解決といった持続可能な社会の実現にも寄与できるとも考えられています。
8.第三者保証におけるISSA 5000まとめ
ISSA 5000とISAE 3000は、保証業務における異なるニーズに対応しています。特に、ISSA 5000はサステナビリティ情報専用の基準として、より専門的かつ実践的な指針を提供します。これにより、企業はステークホルダーに対して信頼性の高い情報を提供し、持続可能な社会への移行を加速することが期待されます。
参考
国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000(案)
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-24-5000ED-2a-20230921_1.pdf
国際サステナビリティ保証基準5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」案及び他IAASB基準の適合修正案
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-24-5000ED-2a-20230921_1.pdf