製造業において、自社製品や事業のカーボンフットプリント(CFP)の算定・開示が重要視されています。温室効果ガス(GHG)排出量データの信頼性を高める手段として、独立した第三者による検証(第三者検証)の導入が注目されています。本記事では、CFPと第三者検証の概要、導入メリット、検証プロセスの進め方、およびISO規格の役割について解説します。


1. カーボンフットプリント(CFP)の概要
CFPの定義とライフサイクル
カーボンフットプリント(Carbon Footprint, CFP)とは、製品やサービスがそのライフサイクル全体で排出する温室効果ガスの総量をCO2換算で示した指標です。原材料の採取から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルに至るまでのあらゆる工程が対象となります。
製造業における見える化の意義
製造業では、原材料調達から出荷、使用後の廃棄に至るあらゆる工程でGHG排出が発生します。CFPを算定することで、製品単位での環境負荷を見える化し、どの工程でどれだけの排出があるかを定量的に把握できます。これにより、具体的な削減目標の立案が可能になります。
国際規格ISO 14067の役割
ISO 14067は、製品のカーボンフットプリント算定と報告方法を定めた基準です。この規格に準拠することで、世界共通の方法論でCFPを評価でき、国際的にも信頼される環境情報となります。また、組織全体の排出量を扱う場合にはISO 14064-1が利用されます。
2. 第三者検証の定義と基本原則
独立した専門家による客観的チェック
第三者検証(第三者保証)は、企業が算定・開示したGHG排出量などの環境情報について、利害関係のない独立した専門機関がその内容を客観的にチェックし、誤りがないことを検証するプロセスです。企業自身が報告したデータに対し、公正かつ正確であるというお墨付きを与える役割を果たします。
検証機関が満たすべき三原則
検証機関には、客観性、透明性、一貫性の三原則が求められます。検証担当者は企業と中立な関係であること、検証の手順や基準が公開されていること、そして毎回同じ基準に基づき評価が行われることが不可欠です。これらの厳格なプロセスを経て、データの信頼性が担保されます。
3. 第三者検証が必要とされる理由
情報の信頼性とステークホルダーへの説得力
独立第三者による検証を受けたデータは、客観的な信頼性が担保されます。企業の環境への取り組みを裏付ける確かな数字となるため、ステークホルダーに対して説得力を持って説明でき、高い支持を得ることができます。日経225企業の約66パーセント以上が既に環境情報に第三者検証を導入しています。
ブランドイメージの向上と差別化
第三者検証によって情報の正確性を示すことは、社会的責任に真摯に取り組んでいる証拠となり、ブランド価値の向上につながります。環境配慮型の製品であることを第三者認証付きで示せれば、顧客やビジネスパートナーからの評価も高まり、製品差別化や新規市場の開拓に寄与します。
コスト削減と戦略的投資判断
正確な排出量データを把握することで、削減余地の特定や無駄な排出の抑制につながります。効率的な省エネ対策を講じることで運用コストの削減が期待できるほか、ネットゼロ目標への進捗を定量的に追跡できるため、脱炭素経営における戦略的な投資判断や施策立案が可能になります。
リスク低減と社内プロセスの改善
専門家による厳格なチェックは、データ開示前の誤りや不備の是正に役立ちます。これにより、報告ミスに起因するレピュテーションリスクを低減できます。また、客観的な視点から算定プロセスの改善点の指摘を受けることで、データ管理体制の強化や社内の管理能力の向上につながります。
複数の報告枠組みへの対応効率化
第三者検証済みのデータは、CDPやSBT、ISSBといった様々な報告フレームワークにおいて共通データとして活用できます。一度検証されたデータを再利用することで、複数の開示要求に対応する際の手間やコストを削減でき、各種ESG評価におけるスコア向上にも有利に働きます。
4. カーボンフットプリント検証の進め方
事前評価と準備段階
まず検証機関が、企業から提出されたGHG排出量の算定方法や基礎データについて概略の調査を行います。算定範囲が明確に定義されているか、使用している算定手法や排出係数が適切かを確認します。また、データ管理体制などをヒアリングし、効率的な検証計画を立案します。
現地調査(オンサイト・レビュー)の実施
検証機関の担当者が工場や事業所を訪問し、提出データと実際のオペレーションの整合性を詳細に確認します。エネルギー使用量の記録や製造工程の稼働データをサンプリング検査し、報告値に誤りがないかを検証します。この際、担当者への聞き取りや追加資料の請求も行われます。
検証結果の評価と保証書発行
最終段階として、検証機関が算定データおよびプロセスの正確性を総合的に評価します。問題がなければ、適切な基準に則り算定されていることを示す保証声明書や検証報告書が発行されます。これにより、企業は第三者検証済みのデータとして対外的に提示できるようになります。
保証水準の選択(限定的保証と合理的保証)
保証の水準には、限定的保証と合理的保証の2種類があります。限定的保証はデータに大きな誤りがないことを確認するレベルですが、合理的保証はより詳細なチェックを行う厳密なものです。企業は報告目的やコスト、投資家からの要求水準に応じて、どちらの水準を選択するかを決定します。
5. ISO規格と第三者検証の基準
組織と製品を支えるISOシリーズ
製造業のCFP算定では、ISOシリーズの活用が極めて有効です。組織の排出量を対象とする場合はISO 14064、製品レベルのCFPを評価する場合はISO 14067が用いられます。これらの国際基準に準拠することで、算定結果の比較可能性と信頼性が世界規模で担保されます。
GHGプロトコルと監査基準ISAE 3410
ISO規格と並んで広く参照されるのがGHGプロトコルです。また、監査法人による検証業務では、国際監査保証基準審議会(IAASB)が定めたISAE 3410が用いられる場合があります。日本企業でもサステナビリティ報告の一環として、これらの基準に準拠した保証報告書を取得する例が増えています。
6. 第三者検証導入時の留意点
算定範囲とデータ管理体制の構築
検証を受ける前提として、算定範囲や対象期間を明確に定義しておく必要があります。また、日頃からエネルギー使用量や生産実績データを体系的に収集・管理する内部体制を整えることが重要です。特に製造業では、サプライヤーからのデータ連携も含めた体制づくりが求められます。
GHG算定原則の遵守と検証機関の選定
算定プロセスが完全性、一貫性、透明性などの国際的な原則に沿っているか自己点検を行うことが、スムーズな検証に繋がります。また、検証を依頼する機関については、ISO 14065に適合した認定を受けているか、自社の業種に深い知見を持っているかを確認して選定することが望ましいです。
7. まとめ
製造業におけるカーボンフットプリントの算定・開示において、第三者検証は信頼性の高いサステナビリティ経営を実現する上で欠かせないステップです。独立した第三者のお墨付きを得ることで、情報の正確性と透明性を対外的に示すことができ、投資家や顧客との強固な信頼関係を構築できます。
検証プロセスを通じて得られる洞察は、内部管理体制の強化や排出削減の新たな機会発見にも寄与し、長期的には企業の競争力強化に直結します。国際規格と第三者検証を組み合わせることで、持続可能な成長の基盤を築き、脱炭素時代における優位性を確立していきましょう。
引用
- 環境省:温室効果ガス排出量の算定と検証について
- ISO 14064(組織の温室効果ガス算定・報告基準)
- ISO 14067(製品カーボンフットプリント算定・報告規格)
- GHGプロトコル(温室効果ガス算定の国際枠組み)
- 日本公認会計士協会:ISAE 3410に基づく保証業務


