ISSA 5000(International Standard on Sustainability Assurance)とは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が策定した、サステナビリティ情報の保証業務に特化した包括的な国際基準です。この基準は、従来の財務情報を中心とした保証基準(例:ISAE 3000)では十分に対応できなかった非財務情報、特に環境・社会・ガバナンス(ESG)関連情報を対象としています。
ISSA 5000は、企業が開示するサステナビリティ情報を高い信頼性で保証する枠組みを提供し、ステークホルダーが正確で透明性のある情報を基に意思決定を行うことを支援します。2024年の正式承認を経て、世界各国の規制当局や企業での採用が進んでおり、気候変動対応や持続可能性の実現に向けた企業活動の透明性と信頼性を高める基盤となっています。
本記事では、ISSA 5000の概要、構造、主な特徴、ISAE 3000との違い、そして企業や社会への影響について詳しく解説します。


1.第三者保証におけるISSA 5000の策定背景
ISSA 5000は、サステナビリティ情報に対するステークホルダーの信頼性向上ニーズを受け、IAASBが策定した基準です。近年、気候変動や社会的課題に対する企業の取り組みが注目される中で、正確で透明性の高いサステナビリティ情報の保証が求められています。従来、汎用的な基準であったISAE 3000では、サステナビリティ特有の複雑さ(バリューチェーン排出や人権デューデリジェンスなど)に対応しきれない課題がありました。
ISSA 5000の策定プロセスでは、世界中のステークホルダーからフィードバックを受け、統一された高品質の保証業務を提供する枠組みを構築しました。2024年9月にIAASBによって最終基準案が承認され、保証業務の新たなグローバルスタンダードとして運用が開始されています。
2.第三者保証で利用されるISSA 5000の構造と適用範囲
ISSA 5000は、サステナビリティ情報の保証業務を行うための総合的なフレームワークを提供します。
適用範囲
あらゆるサステナビリティに関するトピック(気候、水、生物多様性、人的資本、人権、ガバナンスなど)および開示フレームワーク(IFRS S1/S2、ESRS、SSBJ基準など)に適用可能です。
保証水準
限定的保証(レビュー相当)と合理的保証(監査相当)の2つの水準を規定しています。
専門職への開放(Profession-agnostic)
公認会計士だけでなく、エンジニアや環境コンサルタントなど、独立性と専門性を有する全ての保証実務者が利用できるよう設計されています。
特に注目すべきは、将来予測情報や定性的な記述情報も適切に評価することを求める点で、サステナビリティ報告全体の信頼性を担保する仕組みとなっています。
3.ISSA 5000 限定的保証と合理的保証
ISSA 5000では、保証業務の水準として「限定的保証」と「合理的保証」を明確に区分し、それぞれに求められる手続きの深度を規定しています。
限定的保証(Limited Assurance)
・手続き: 質問や分析的手続きを中心とした、リスクに焦点を当てた検証。
・結論の表明: 「〜していない事項は認められなかった」という消極的形式。
・例: 現在の多くの企業のGHG排出量保証。
合理的保証(Reasonable Assurance)
・手続き: 詳細なテスト、内部統制の運用評価、現場視察などを含む、より広範な検証。
・結論の表明: 「〜は、すべての重要な点において適正である」という積極的形式。
・例: 将来的に義務化が想定される、法定開示(有報など)におけるサステナビリティ保証。
両者の違いは、保証報告書において明確に記載され、情報利用者が信頼性のレベルを正しく理解できるようになっています。
GX登録検証機関
https://gx-league.go.jp/rules/verification/registered-verification-body
4.ISSA 5000 報告規準と重要性評価
サステナビリティ情報では、報告基準(Criteria)の適合性と重要性(Materiality)評価が特に重要です。ISSA 5000では、以下のポイントを規定しています。
報告基準の適合性
使用する開示枠組み(例:SSBJ基準、GRI基準)が、関連性、完全性、信頼性、中立性、理解可能性を備えているかを評価します。
重要性の評価(Materiality)
・情報の利用者にとっての意思決定への影響度を評価します。
・シングルマテリアリティ(財務的影響)だけでなく、ダブルマテリアリティ(環境・社会への影響)にも対応しています。
・定量情報だけでなく、定性情報(ガバナンスの記述など)についても、誤記載が利用者の判断を誤らせるかどうかで重要性を判断します。
これにより、サステナビリティ情報の多様性に対応した柔軟かつ厳格な保証が可能となります。
5.ISSA 5000 証拠の信頼性と内部統制の影響
保証業務では、証拠の信頼性確保と内部統制の理解が重要な要素です。
証拠の信頼性
外部情報源やバリューチェーン全体から得られるデータの正確性と網羅性を評価されます。
ISA 500をベースに、サステナビリティ情報特有の手続きを追加されています。
内部統制の影響
限定的保証では一部の統制環境理解で十分となりますが、合理的保証では統制活動やモニタリングプロセスまで深く理解する必要があります。
これらは、保証業務の品質向上に直結し、報告情報の信頼性を強化します。
6.ISSA 5000とISAE 3000の違い
ISAE 3000(International Standard on Assurance Engagements 3000)は、幅広い保証業務をカバーする汎用基準ですが、ISSA 5000はサステナビリティ情報専用の基準として策定されました。
主な違いは以下の通りです。
適用範囲と特化性
・ISAE 3000: 汎用基準。サステナビリティ特有の論点(バリューチェーン等)への具体的な指針は少ない。
・ISSA 5000: サステナビリティ特化。見積もり、将来情報、定性情報への対応手続を詳細に規定。
実務者の要件
・ISAE 3000: 会計士以外の利用も想定されているが、倫理規定等は会計士基準(IESBA)が前提となることが多い。
・ISSA 5000: 会計士以外の専門家(技術者等)も利用できるよう、前提となる倫理・品質管理要件(IQS 1等に相当するもの)を明確化している。
保証手続きの具体性
・ISSA 5000は、不正リスク(グリーンウォッシュ等)への対応や、情報の「結合性(Connectivity)」(財務情報との整合性など)に関する検証手続きをより具体的に求めています。
7.第三者保証におけるグローバル基準としての役割と期待される影響
ISSA 5000は、世界で統一された高品質なサステナビリティ保証を実現するための「共通言語」としての役割を果たします。
IOSCO(証券監督者国際機構)もISSA 5000の承認を支持しており、今後、各国の規制当局が自国の保証基準として採用、あるいはISSA 5000を参照した基準を策定することが予想されます。
これにより、グローバル企業は、国ごとに異なる基準への対応コストを削減しつつ、一貫した信頼性を投資家へ提供することが可能になります。
8.第三者保証におけるISSA 5000まとめ
ISSA 5000とISAE 3000は、保証業務における異なるニーズに対応しています。特に、ISSA 5000はサステナビリティ情報専用の基準として、より専門的かつ実践的な指針を提供します。これにより、企業はステークホルダーに対して信頼性の高い情報を提供し、持続可能な社会への移行を加速することが期待されます。
参考
国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000(案)
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-24-5000ED-2a-20230921_1.pdf
国際サステナビリティ保証基準5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」案及び他IAASB基準の適合修正案
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-24-5000ED-2a-20230921_1.pdf



