サステナビリティ基準委員会(SSBJ)では、日本版ISSBの基準開発を行っています。この基準は、有価証券報告書を提出する全企業に対し、2025年3月以降開始の会計年度から適用が開始されます。【補足】2025年3月にはSSBJ基準の初版が公表され、現在(2025年11月)本格的な適用に向けた詳細ガイダンスの整備や企業側の準備が進められています。本記事では、第25回サステナビリティ基準委員会で議論された重要な審議事項を取り上げます。


合理的で裏付け可能な情報
産業横断的な指標として、気候関連の物理リスクの影響を受けやすい資産や事業活動の数量および割合などの開示が求められる見通しです。
- IFRSサステナビリティ開示基準と整合的に、次の項目について報告期間の末日時点で利用可能な全ての合理的で裏付け可能な情報を用いなければならない。
- 次の産業横断的指標の計算。気候関連の物理的リスクの影響を受けやすい資産や事業活動の数量および割合。気候関連の移行リスクの影響を受けやすい資産や事業活動の数量および割合。気候関連の機会と整合した資産や事業活動の数量および割合。
なお、報告期末時点で利用可能な全てのデータを反映する必要があるため、企業には気候関連リスク・機会に関するデータ収集と分析の体制強化が求められるでしょう。
国家の安全保障等に関する情報の開示
国家の安全保障を脅かすおそれのある防衛産業などの情報は、開示しなくてもよいとされています。
- サステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する情報が国家の安全保障等を脅かすおそれがあると判断した場合には、たとえその情報がサステナビリティ開示基準で開示を求められていても、開示しないことができる。
- 開示しないこととした情報項目のそれぞれについて、開示していない旨を開示しなければならない。
- 開示しないこととした情報項目のそれぞれについて、各報告期間の末日において、開示しないための条件が満たされているかを再評価しなければならない。
この規定は、防衛関連など機微な情報について国家安全保障と企業の開示義務とのバランスを取るための例外措置です。ただし、非開示とする判断をした場合はその旨を明示し、定期的に妥当性を再評価する必要があるため、企業には透明性確保の観点から慎重な対応と説明責任が求められるでしょう。
スコープ 3 温室効果ガス排出の絶対総量の開示における重要性の判断の適用
スコープ3の開示範囲において、重要性が低い、あるいは概算・推計による値しか得られないカテゴリーについては、その排出量を算出して開示するかどうかは任意とされています。ただし、この取扱いはSBTやCDPなど他の開示要求事項・ガイドラインとは整合しておらず、SBT認定の取得やCDPスコアの向上を目指す企業にとっては、引き続き全てのカテゴリーの排出量を算定・報告する必要がある点に注意が必要です。
- スコープ3温室効果ガス排出量は絶対総量を開示しなければならない。ただし、重要性の乏しいカテゴリーについては、絶対総量の算定から除外することができる。
- 除外できるカテゴリーとは、前報告年度に開示したスコープ3総排出量の100分の1(1%)以下となるカテゴリーを指す。
- 適用初年度に限り、企業はスコープ3の15のカテゴリーのうち排出量が多いと見込まれる上位3つのカテゴリーに限定して絶対総量を報告することができる。なお、自社で過年度の排出量データを有していない場合には、同業他社が過年度に報告した排出量を参考に、どのカテゴリーの排出量が大きいかを判断することができる。
このような重要性基準の適用により、初期段階では企業が排出量の大きい主要なカテゴリーに注力しやすくなるメリットがあります。一方で、Scope3全体の排出量把握は長期的な脱炭素戦略に不可欠であり、将来的には小規模なカテゴリーも含めた包括的な算定と削減への取り組みが求められるでしょう。
【補足】2025年7月には、金融庁の有識者会議が策定したロードマップにおいて、Scope3排出量データの不正確さに関する企業の法的責任を限定する「セーフハーバー」措置の導入方針が示されました。適切な算定プロセスに基づいて開示されたScope3データであれば、多少の不正確さがあっても直ちに法的責任を問われない仕組みを整備することで、企業が安心して情報開示に取り組める環境を整える狙いがあります。

